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ジャーナルクラブ

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当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2022年5月17日 担当:佐野 沙矢香

Leukemia. 2021 Nov;35(11):3127-3138

Identification of therapeutic targets of the hijacked super-enhancer complex in EVI1-rearranged leukemia

Sandra Kiehlmeier, et al.

担当者コメント

3q21q26異常を伴う急性骨髄性白血病(3q-AML)は予後不良であることが知られており、-77kbのGATA2遺伝子エンハンサー(GATA2 distal hematopoietic enhancer:G2DHE)がEVI1の過剰発現を引き起こすことがその予後に関与することが知られている。しかし、このエンハンサーに結合する転写因子複合体の詳細は不明であった。
この研究では、まずpublic dataの解析からCEBPAとRUNX1に着目した。そして、これらに変異がある細胞株で転写活性が落ちていること、これらがG2DHEの機能に重要であることを確かめた。これらのタンパク質に対してChIP-SICAPという手法を利用してクロマチン結合状態の複合タンパク質を分離したところ、治療標的となりうるタンパク質としてIKZF1とPARP1が得られた。
PARP1阻害はEVI1発現の低下とEVI1―G2DHE相互作用頻度の低下を引き起こし、PARP1の関与をより強調している。さらに、3q-AML細胞はin vitroでPARP阻害剤に感受性が高く、CD34+陽性細胞を減少させ、分化とアポトーシスを促進した。これは、PARP1が3q-AMLの新たな治療標的となる可能性を示唆している。

 

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2022年4月26日 担当:横山 寿行

J Clin Invest. 2022;132(4):e149856.

Eltrombopag inhibits TET dioxygenase to contribute to hematopoietic stem cell expansion in aplastic anemia

Yihong Guan, et.al

担当者コメント

Eltrombopag(Epag)はトロンボポエチン受容体作動薬で、血小板数と幹細胞機能を改善させることが知られ、再生不良性貧血の治療に使用されている。EpagにはTPO受容体を介する作用では説明できない効果が報告されており、その機序として造血幹細胞における鉄キレート作用などのオフターゲット効果によるものが考えられている。しかし、その作用機序はまだ十分には解明されていない。DNA脱メチル化酵素TET2は、骨髄系悪性腫瘍で高頻度に変異を認め、造血幹細胞の制御に必須の蛋白である。TET2の脱メチル化反応にはFe(II)が基質として必要とされることから、著者らはEpagによる鉄キレートによってTET2による脱メチル化反応が阻害され、造血幹細胞増加に作用していると仮定し研究を開始した。その結果、Epagは鉄、TET2と複合体を形成し、TET2の脱メチル化作用を阻害することが示された。ヒト健常人細胞、マウスの実験ではTET2阻害により造血幹細胞、前駆細胞の増加が認められたが、その効果はTET2ノックアウトでは認められなかった。一方、TET2変異骨髄系腫瘍では、EpagによるTET阻害により増殖抑制に働いた。Epagによる造血幹細胞の増加作用はTPO刺激を介するものの他に、TET2阻害を介した作用が示唆される。

 

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2022年4月19日 担当:矢坂 健

Nature. 2022;603:145-151

The cGAS-STING pathway drives type I interferon immunopathology in COVID-19

Jeremy Di Domizio, et al

担当者コメント

遺伝的要因、その他の背景により)感染初期にI型インターフェロンが充分に産生されないことが、COVID-19の重症化に関わっていることが示唆されてきたが、一方で一部の重症患者ではきわめて高いインターフェロンの産生がみられるケースもあり、また、IFNβ投与治療の治験ではアウトカムが悪化する結果となった。そのため、現在はCOVID-19においてインターフェロンは、良い役割と悪い役割を併せ持っていると考えられ、その制御メカニズムを解明することが大きな課題となっている。
本研究では、中等症〜重症のCOVID-19患者の皮膚病変、ならびに剖検例の肺組織において、血管内皮細胞とマクロファージがIFNβ産生の主体となっていることを手掛かりに、様々な実験系を組み合わせて、その解明を試みている。
Lung-on-Chipモデルを使ってより生体に近い肺組織を再現し、SARS-CoV2感染によって、内皮細胞(とマクロファージ)がインターフェロンを産生すること、そしてその産生が、cGAS-STING経路に依存していることを実証した。
さらに、マススペクトロメトリーを駆使して、感染した内皮細胞においてミトコンドリア代謝関連の蛋白質が有意に変動していることを同定し、ミトコンドリアDNAがサイトゾルに放出されることで、cGAS-STING経路が活性化されるという仮説を立てた。これをミトコンドリアDNA放出を抑制する実験系によって間接的に実証した。
最後に、COVID-19のモデルマウスに対して、STINGのリン酸化阻害剤を投与することで、感染後期のインターフェロン産生と病状の重症化を抑制できることを示した。
以上から示唆されるのは、感染早期に(おそらくはRIG-I receptorなどを介して)産生されるインターフェロン産生は生体防御的に働くのに対して、感染後期のインターフェロンの過剰な産生はむしろ重症化を招き得ること、そしてこのインターフェロン産生はcGAS-STING経路が深く関与しているということであり、治療ターゲットとして期待されるということである。
当科の診療対象であるSLEも、インターフェロンが深く関与している疾患ですが、疾患活動性に対する役割は必ずしも詳らかにはなっておらず、本研究にみられるような手法や着想が応用できるのではないかと期待します。

 

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2022年4月5日 担当:川尻 昭寿

Immunity. 2021 Dec 14;54(12):2812-2824.e4.

Microbiota-specific T follicular helper cells drive tertiary lymphoid structures and anti-tumor immunity against colorectal cancer

Abigail E Overacre-Delgoffe, et al.

担当者コメント

大腸がんは免疫療法が効きにくい癌腫である。三次リンパ節構造(Tertiary lymphoid structure: TLS)は腫瘍あるいはその周囲に浸潤するリンパ球が集簇してできる構造物であり、がん免疫療法においてこれが見られることが予後良好因子であることが知られている。しかしTLS がどのように生成されるかは明らかではない。
Helicobacter hepaticus (Hhep)は腸管細菌叢に見られる細菌の一種であるが、宿主の免疫状態に応じて多様な影響を及ぼすことが知られている。健常宿主ではCD4+ T 細胞をTreg やTfh に分化させるが、免疫不全宿主では炎症源性のTh1 やTh17 細胞に分化させ腸炎の原因となる。
腸管細菌叢の特定の種類の細菌ががんの発生に関わっていたり、あるいはがん免疫療法の治療反応性と関連することはすでに知られている。野生の(wild-caught)マウスからHelicobacter を多量に含む細菌叢を移植したところ無菌マウスでの大腸がん増大を抑制したとの報告もある。
今回筆者らはAOM-DSS モデルという大腸がん発生実験モデルにおいて、Hhep 感染がCD4+ T 細胞依存的に大腸がん発生を有意に抑制することを発見した。またHhep 感染マウスではTLS が有意に増加しており、さらにHhep 特異的CD4+T 細胞がTfh に分化していることを発見した。Tfh を欠く Bcl6fl/flCd4 Cre マウス利用してTfh がTLS の生成と抗腫瘍効果に必要であることを示した。
腸管細菌叢が抗腫瘍免疫に関わることは既知であるが、そのメカニズムにTfh への分化やTLS の生成が関わっていることは新規知見であると考えられる。

 

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2022年3月29日 担当:井樋 創

Immunity. 2022 Mar 8;55(3):459-474

Interferon-β acts directly on T cells to prolong allograft survival by enhancing regulatory T cell induction through Foxp3 acetylation.

Francisco Fueyo-González, et al.

担当者コメント

T型インターフェロン(type 1 IFN)にはIFN-α, IFN-βがあり、いずれもウィルス感染時をふくめ免疫応答を担うサイトカインとされる。一方、IFN-βは自己免疫疾患である再発寛解型多発性硬化症(relapsing-remitting Multiple Sclerosis; RRMS)の治療に用いられるほか、マウス実験にてリンパ球性脈絡髄膜炎ウィルス(lymphocytic choriomeningitis mamarenavirus; LCMV)の持続性感染を支持するなど、抗免疫作用を有する二面性がある。IFN-βによる抗免疫作用は制御性T細胞(regulatory T cell; Treg)の誘導によるとする報告があるものの、その詳しい機序は不明であった。本論文でM. Fribourgらはマウスの心移植実験でIFN-β投与は(CTLA-4Ig併用下で)グラフトの生存期間延長に有効であり、IFN-β応答性のTregの数およびマスター転写因子Foxp3の発現量の増加によることをCD4+T細胞, およびFoxp3発現細胞のIFNα/β受容体のコンディショナル・ノックアウトマウスを用いて検証した。この効果はIFN-αでは見られなかった。さらに、「Tregの抗免疫作用にはFoxp3のアセチル化が重要であり、これはヒストンアセチル転移酵素(Lysine acetyltransferase; KAT)のP300依存的である」という既報をもとに、マウス脾臓T細胞から誘導したTregの近接ライゲーションアッセイにてアセチル化を評価し、IFN-βのTreg誘導性はSTAT-1, STAT-4, STAT-5によることを示した。最後に、ヒトPBMC検体で誘導したTregにおいてもIFN-βでFoxp3の発現が増加すること、FoxP3アセチル化が増加することを、IFNα/β受容体抗体(IFNAR1-Ab)による中和作用やP300阻害薬を用いて示した。考察として、Foxp3のアセチル化の重要性はTregの自家移植に際する抗免疫作用の増強に有用である可能性がある。また、多くの膠原病においてT型IFN経路の関与が指摘されていることを踏まえ、SLEにおいて治験進行中であるアニフロルマブ(IFNα/β受容体モノクローナル抗体)使用ではTregの機能低下のリスクを考慮する必要性を述べている。
本論文はIFN-βによるTreg誘導、およびFoxp3アセチル化の機序をin vivoで示したことに新規性があるものと考えられた。

 

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2022年3月22日 担当:小野 浩弥

Cell Stem Cell. 2022 Feb 3;29(2):232-247.e7.

The microbiota regulates hematopoietic stem cell fate decisions by controlling iron availability in bone marrow.

Zhang D et al.

担当者コメント

腸内細菌叢が造血幹細胞に影響するかどうかや、その方法はわかっていない。本論文で著者らは、ストレス環境下では腸内細菌叢が骨髄局所での鉄利用を調整し、造血幹細胞の自己複製・分化を制御すると示した。腸内細菌叢を除去したマウスでは、骨髄造血の回復過程で造血幹細胞の自己複製が促進される一方、分化は著しく抑制される。腸内細菌叢の除去は骨髄マクロファージによる赤血球再利用を選択的に阻害し、全身鉄代謝への影響なしに局所的な鉄濃度を下げる。鉄を制限した食べ物(in vivo)や培地(in vivo)、CD169陽性マクロファージの除去は、造血幹細胞の自己複製と増殖を促進する。これらの結果から、ストレス下では腸内細菌叢・マクロファージ・鉄が複雑に相互作用して造血幹細胞の運命を決定づけることがわかった。

 

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2022年3月15日 担当:福原 規子

J Clin Oncol. 2022;40:369-381

Impact of TP53 Genomic Alterations in Large B-Cell Lymphoma Treated With CD19-Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy

Shouval R, et al.

担当者コメント

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対する抗CD19-CAR-T療法は画期的治療ではあるが、本治療に適した患者を層別化するバイオマーカーは定まっていない。

2016年〜2021年にMSKCCでCAR-T療法(Axi-cel 77, Tisa-cel 49, liso-cel 27)を受けた153人(de novo DLBCL 82, tFL 45含む)の治療成績は、完全奏効割合54%、全生存期間中央値21.1カ月、無増悪生存期間6カ月(3.4〜9.7)と既報と同様であった。

輸注前病理組織の得られた82人(中央値141日)を対象に、MSK-HemePACT(NGS用いたターゲットシークエンス)を行い、この遺伝子解析結果と予後との相関を統合解析した。

遺伝子解析を行った群と未解析群のCR割合とOSは同等であった。最も高頻度に認められたp53遺伝子異常(変異±コピー数変化)は37%に認められ、単変量および多変量解析においてCR割合およびOSの最も強力な予後不良因子であった。DLBCL新規発症例コホート(n=562)のトランスクリプトームプロファイリングでは、p53遺伝子異常がIFNシグナルやアポトーシス経路、CD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤の減少などと関連しており、p53遺伝子異常が腫瘍微小環境の免疫抑制状態に寄与し、治療効果に影響していると推測された。

今回の結果からは、p53遺伝子異常はDLBCLに対するCD19-CAR-T療法の強力な予後因子となりうることを示唆しており、さらなる検討が望まれる。

 

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2022年3月8日 担当:秋田 佳奈恵

Sci Rep. 2021 Nov 30;11(1):23146. doi: 10.1038/s41598-021-02522-6.

Coordination of retrotransposons and type I interferon with distinct interferon pathways in dermatomyositis, systemic lupus erythematosus and autoimmune blistering disease

Kuriyama Y, et al.

担当者コメント

T型インターフェロン(IFN)は自然免疫や獲得免疫において重要な役割を果たしており、異常なIFN応答が全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎(DM)のような全身性自己免疫疾患に関連している。T型IFNは転写されたレトロトランスポゾンにより誘導され得る。この論文では、SLE、DM、自己免疫水疱性疾患(AIBD)におけるレトロトランスポゾン、T型IFN、下流のIFNパスウェイの調整について調べた。DM(n=24)、SLE(n=19)、AIBD(n=14)の患者(全ての患者はステロイドや免疫抑制剤等で治療介入済)と健常者(HC、n=10)からの末梢血でLINE-1を含むレトロトランスポゾン、T-V型IFNs、IFN誘導遺伝子(ISGs)の遺伝子発現レベルを定量PCRで評価した。DM患者では、レトロトランスポゾンとT-V型IFNsの発現上昇を認めたが、ISGsは一様には発現上昇を認めなかった。一方、SLE患者では、レトロトランスポゾンとU型IFNを除くIFNsの発現上昇は認めなかった。AIBD患者では、一部のレトロトランスポゾンとT型IFNに発現上昇を認めた。レトロトランスポゾンとT型IFNの発現に協調性が示唆されたが、疾患に関連するIFNシグナル領域が疾患ごとに異なることも示唆された。

 

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2022年3月1日 担当:渡邊 正太郎

Blood. 2022 Jan 20;139(3):384-398.

The alternative RelB NF-kB subunit is a novel critical player in diffuse large B-cell lymphoma

Eluard B, et al.

担当者コメント

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、成人が罹患する最も頻度が高いリンパ系悪性腫瘍である。NF-kB転写因子ファミリーは、機能の異なる2つの主要な経路(古典的経路と非古典的経路)によって活性化される。非古典的経路では、転写活性を持つサブユニットであるRelBが活性化されるが、NF-kB非古典的経路の活性化とDLBCLの病態における関連は解明されていない。そこで筆者らは、DLBCLの大規模コホートおよび細胞株において、cell of originとは無関係にRelBが頻繁に活性化されていることを明らかにした。RelB活性を有するDLBCL患者は特有の遺伝子発現プロファイルおよび突然変異パターンを示し、新たなサブセットを形成していた。重要なことに、RelBの活性化はNF-kB古典的経路の活性化と関連するMYD88L265P変異およびCD79B変異を有するABC typeが多いMCD遺伝子サブタイプとは関連せず、これはDLBCLにおけるNF-kB活性を評価する現在の方法ではNF-kB非古典的経路の活性化に関して情報を得られないことを示唆している。さらに、新たに定義されたRelB陽性群のDLBCL患者は、化学療法後の予後が不良であることが示された。機能解析により、RelBはドキソルビシンによるDNA損傷誘発性アポトーシスに対するDLBCL細胞の抵抗性を付与することが明らかになった。また、RelB陽性はcellular inhibitor of apoptosis protein 2 (cIAP2)の高発現と関連していることも示された。これらのことから、RelBの活性化はDLBCLの予後層別化に利用できる可能性や、DLBCL患者の一部で治療薬によるDNA損傷反応の阻害に寄与する可能性が示唆された。

 

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2022年2月22日 担当:藤原 亨

Nature. 2022; 601: 428-433. doi:10.1038/s41586-021-04244-1.

Valine tRNA levels and availability regulate complex I assembly in leukaemia.

Thandapani P, et al.

担当者コメント

転移RNA(tRNA)は、翻訳の過程でリボゾームのタンパク質合成部位でmRNA上の塩基配列を認識し、対応するアミノ酸を転移させるためのアダプター分子である。近年、tRNAの制御異常がさまざまながん腫の病態に深く関わることが報告されている。しかしながら、その分子機序に関しては不明な点が多く残されている。本研究では、NOTCH1の活性化を特徴とするT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)をモデルとしてtRNA制御異常との関連を解析した。
T-ALLの臨床検体を用いた発現解析より、必須アミノ酸の1つであるバリンをtRNAに負荷させる遺伝子(VARS: Valine tRNA ligase)及びバリンを転移するtRNA自体の発現上昇が認められた。さらにT-ALL細胞株を用いた網羅的CRISPR-Cas9スクリーニング及び白血病モデルマウスの解析を通じて、バリンはT-ALLの増殖に重要であることも明らかとされた。次に、T-ALLの病態形成におけるバリンの重要性を明らかとする目的で、バリン制限状況下におけるT-ALL細胞の翻訳の状態をRibosome profilingで解析した。その結果、バリン制限によりT-ALL細胞におけるミトコンドリア呼吸鎖(Complex I)を構成する分子を中心としたミトコンドリアタンパク質群の翻訳低下を認め、実際にミトコンドリア呼吸鎖(Complex I)活性とミトコンドリア酸素消費量の低下が認められた。
以上より、NOTCH1活性化を介したValine tRNAの上昇がT-ALLの病態形成に寄与し、さらにバリン制限が治療標的となりうる可能性が示された。

 

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2022年2月15日 担当:藤井 博司

Cell 184, 4464-4479, 2021

Erythroid mitochondrial retention triggers myeloid-dependent type I interferon in human SLE

Catelli et.al.

担当者コメント

全身性エリテマトーデスでは、血清中のIFNαと血球中のISG signature(ISG ; interferon-stimulated gene)の上昇が知られている。また、近年抗IFN受容体抗体がSLEに治療効果があることが示され、type I IFNがSLEの病態に深くかかわっている明らかになってきている。細胞外の核酸がplasmacytoid DCに作用し、IFNαを誘導することも知られており、ミトコンドリア由来のDNAもその候補の一つである。本研究では、まず活動期にあるSLE患者末梢血中にミトコンドリアを有する赤血球が存在することが見出された。In vitroでの赤血球分化系を樹立し、従来のミトファジーに加えてユビキチンープロテアソーム系(UPS)もミトコンドリアタンパクの分解に寄与していることを示した。通常の赤血球造血ではHIF-2αの分解→解糖系から酸化的リン酸化へのスイッチ→UPS系の活性化→ミトファジーによるミトコンドリア分解が起こるが、一部のSLE患者ではこの経路が抑制されていることが示された。ミトコンドリアを有する赤血球を貪食した健常人マクロファージはTNFα, IP-10を産生し、ISGの誘導が認められた。一部のSLE患者においては、赤血球分化異常に伴う新たなI型IFN誘導機序があり、その機序の解明により新たな治療標的となりうる。

 

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2022年2月8日 担当:大地 哲朗

Blood 2021. doi: 10.1182/blood.2021012652.

Coordinated mis-splicing of TMEM14C and ABCB7 causes ring sideroblast formation in SF3B1-mutant myelodysplastic syndrome.

Clough CA et al.

担当者コメント

鉄芽球性貧血(sideroblastic anemia:SA)はミトコンドリアに異常な鉄沈着をきたす貧血の総称であり、形態学的には核周囲に鉄顆粒を有する環状鉄芽球(ring sideroblast: RS)が特徴的である。SAは先天性SAと後天性SAに分類され、先天性SAはヘム合成や鉄硫黄クラスター(iron-sulfur cluster: ISC)合成・輸送、ミトコンドリアに関連する遺伝子の先天的異常が原因遺伝子として同定されており、いくつかの遺伝子についてはRS形成を再現したモデル細胞も存在し、各遺伝子異常がRS形成を引き起こすメカニズムも解明されてきている。後天性SAの大部分は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS)に関連しており、その中でもRS割合が増加しているMDS(MDS-RS)ではRNAスプライシング関連遺伝子SF3B1の変異が高頻度に認められることからスプライシング異常がRS形成に大きく関わっていると考えられている。実際にSF3B1変異MDS由来の臨床検体やSF3B1変異細胞株を用いたスプライシング解析によりSF3B1変異がスプライシング異常を介してISC関連遺伝子などの発現調節を行うことでRSが形成される可能性が示唆されているが、これまでにin vitroでRS形成を再現可能な後天性SAのモデル細胞が樹立されておらず、MDSにおけるRS形成機序は不明な点が多い。今回、筆者らはin vitroでRS形成が再現可能な後天性RSモデル細胞を樹立し、RS形成の原因遺伝子を特定することを試みた。

まず、SF3B1変異(G742D変異)MDS患者由来CD34陽性細胞から樹立したiPS細胞よりSF3B1変異造血前駆細胞(5F-HPC)を作成した。holo transferrin, erythropoietinなどを含む培地を用いた赤芽球系への分化誘導により5F-HPCが網状赤血球まで分化することがフローサイトメトリー及びMay-Giemsa染色により確認され、鉄染色によりSF3B1変異5F-HPCにおけるRS形成が確認された。スプライシング解析によりSF3B1変異5F-HPCがSF3B1変異白血病細胞株やSF3B1変異MDS症例と同様の異常スプライシングパターンを呈することが確認された。SF3B1変異5F-HPCにおいてヘム合成に関わる遺伝子の内で顕著なスプライシング異常(Δpercent spliced in: ΔPSI>40%)が確認されたTMEM14C、PPOX、ΔPSIが明らかに高値であったMAP3K7の他、ΔPSIは低値であったがMDS-RSにおいて既に多くの報告がなされているABCB7について更なる解析を行った。

RNA-seqによる遺伝子発現解析ではSF3B1変異5F-HPCにおけるPPOX、ABCB7、MAP3K7発現低下が認められ、これらの遺伝子ではスプライシング異常を介して発現が抑制されていると考えられた。TMEM14Cについて、RNA-seqではSF3B1変異の有無によるTMEM14C発現量の差を認めなかったが、ウエスタンブロットによりTMEM14C発現量低下が確認された。luciferase assayによりTMEM14Cの5’UTRにおける異常スプライシングが翻訳障害によってTMEM14C発現を抑制していると考えられた。

最後にSF3B1変異5F-HPCにおいてPPOX、ABCB7、TMEM14C、MAP3K7強制発現が分化およびRS形成へ及ぼす影響を検証した。いずれの遺伝子の強制発現も明らかな分化への影響は認めなかったが、ABCB7もしくはTMEM14C強制発現がRS形成を抑制すること、特にABCB7強制発現によるRS割合低下が顕著であることが確認された。

以上の結果より、SF3B1変異MDSではスプライシング異常を介したABCB7、TMEM14C発現抑制がRS形成において重要な役割を果たしていると結論付けた。本研究はin vitroでRS形成を再現可能なSF3B1変異細胞株を樹立した初めての報告であり非常に重要な報告であるが、SF3B1変異の種類によりスプライシング異常パターンが異なるとの報告もあることから、MDSにおけるRS形成機序の更なる解明のためにG742D以外のSF3B1変異を有するモデル細胞の樹立・解析も望まれる。

 

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2022年2月1日 担当:白井 剛志

Cell Metab. 2021 Dec 7;33(12):2445-2463.

Efferocytosis induces macrophage proliferation to help resolve tissue injury

Gerlach BD, et al.

担当者コメント

マクロファージによるアポトーシス細胞のクリアランスはエフェロサイトーシスと呼ばれる。エフェロサイトーシスでは、アポトーシス細胞がファゴリソソームにて分解され精製される分子が修復シグナル経路を促進する。本論文では、アポトーシス細胞由来DNAが、ファゴリソソームのDNase2aを介した加水分解によりヌクレオチドとなり、DNA-PKcs-mTORC2 / Rictor経路を活性化することでMycを増加させ、修復性マクロファージの増殖を促進するを示した。エフェロサイトーシスにより誘導される細胞増殖は、zymosan誘発腹膜炎、デキサメタゾン誘発胸腺細胞アポトーシス、およびアテローム性動脈硬化症の退行において、in vitroおよびマウスにおける修復性マクロファージを増殖させた。デキサメタゾン-胸腺モデルでは、mTORC2を構成するRictorの欠失により、エフェロサイトーシスを行うマクロファージの増殖、アポトーシス細胞のクリアランス、および組織修復が抑制された。アテローム退行モデルでは、マクロファージのRictorあるいはDNase2aのsilencingにより、エフェロサイトの増殖、アポトーシス細胞のクリアランス、およびプラークの安定化が抑制された。これまで未知のアポトーシス細胞に由来する分子が、個々のエフェロサイトーシスを行うマクロファージの修復機能を促進することが示されていた。本論文は、アポトーシス細胞由来のヌクレオチドが修復性マクロファージの増殖を誘導することで、組織修復を増幅することを提唱している。

 

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2022年1月25日 担当:大西 康

Molecular Cell 2021, 81; 659-674

N6-methyladenosine (m6A) is an endogenous A3 adenosine receptor ligand

Ogawa, A., et al.

担当者コメント

RNAが転写後にうける化学修飾はRNAの局在・安定性・翻訳などに不可欠であり、現在まで約150種類のRNA修飾が同定されている。一方で、RNAが分解されたのち、化学修飾されたRNAは修飾ヌクレオシドとして血清や尿中に排泄されるが、その生理活性は未解明であった。小川らは質量分析による網羅的なRNA 修飾解析法により、存在量の多い20種類の修飾ヌクレオシドのうち、N6-methyladenosine(m6A)が A3受容体に対する特異的な活性を有していることを発見した。m6Aは主にrRNAやmRNAを中心とするRNAに由来しており、細胞障害によりリソソームがRNAを分解して産生される。m6AはA3受容体を介して肥満細胞の脱顆粒反応からI型アレルギーを惹起し、炎症性サイトカイン産生を誘導していた。RNAは化学修飾を受けることで細胞外でも重要な機能を有していることになる。今後、臨床病態に関連したRNA修飾の機能解明が必要である。

 

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2022年1月18日 担当:市川 聡

Nature. 2021;593:597-601.

Small-molecule inhibition of METTL3 as a strategy against myeloid leukaemia

Yankova E, et al.

担当者コメント

N6-methyladenosine (m6A)は細胞内で豊富に見られるRNA修飾であり,主にm6Aメチル化酵素METTL3とMETTL14によるmethyltransferase複合体によって触媒される.METTL3は急性骨髄性白血病(AML)の発症や維持と関連することが知られているが,この酵素を標的とした治療法の可能性については検証されていない.筆者らは今回,METTL3に対する高活性かつ選択的なファーストインクラスの阻害薬STM2457の同定に成功し,その構造的及び生物学的特徴,AMLに対する作用について報告した.AML細胞をSTM2457存在下におくと,増殖抑制,分化促進,アポトーシス増加が確認され,これらの効果には白血病発症に関与しうる遺伝子のmRNA上のm6Aレベルの選択的な減少,翻訳阻害による発現低下を伴っていた.さらに,様々なAMLマウスモデルにおいてMETTL3をin vivoで薬理学的に阻害することにより,AML細胞の増殖抑制,AML幹細胞の減少,生存期間の延長をもたらすことを示した.これらの結果により,METTL3阻害がAMLに対する治療戦略となりうること,RNA修飾酵素が治療標的となりうることが示された.

 

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2022年1月11日 担当:古川 瑛次カ

Sci Adv. 2021 Dec 24;7(52):eabj6877.

Loss of ATF4 leads to functional aging-like attrition of adult hematopoietic stem cells

Sun Y, et al

担当者コメント

造血幹細胞(HSCs)の老化は、HSCsの加齢性の変化により造血や免疫の抑制をきたす。しかし、加齢に伴い成人のHSCの機能がどのように調節され、関連する病理学的異常が発生するかは、完全には分かっていない。筆者らはATF4の欠損が細胞自律的に多面的において老化のような表現型を伴う重度のHSCの機能低下を引き起こすことを報告した。
ATF4欠損は、HSCの再増殖能と自己複製能を障害し、骨髄系に偏る表現型を呈するという特徴を持つ、機能低下したHSCの増加を引き起こした。さらに、ATF4欠失HSCは、HIF1αを標的としてミトコンドリアのROS産生の上昇をさせていた。さらに、ATF4欠損は、MLL-AF9誘発性白血病モデルにおいてHIF1αとp16Ink4aを調節することにより、加齢のような表現型でHSC機能を損ない、白血病発症を抑制した。
以上のことから、ATF4は造血の加齢性変化や白血病などに関連する病態において治療標的になる可能性が示唆された。

 

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2022年1月4日 担当:町山 智章

Immunity. 2021 Oct 25;S1074-7613(21)00444-1

Resident macrophage-dependent immune cell scaffolds drive anti-bacterial defense in the peritoneal cavity

Adrian Vega-Perez et al.

担当者コメント

腹腔内の免疫細胞は腹水中を浮遊した状態で恒常的に存在する。腹腔内に常在するマクロファージは、F4/80+ Tim4+のlarge peritoneal macrophages (LPMs) と、F4/80- Tim4- の単球由来のsmall peritoneal macrophages, (SPMs) の2 種類に大別される。これらLPMs,SPMsはホメオスタシスには重要な機能を果たしているが、腹腔内感染に対する役割の多くは不明であった。筆者らは、E.coliの腹腔内感染による腹部敗血症のマウスモデルを用いて、腹腔における細菌感染コントロールのメカニズムを調べた。腹膜・大網の免疫蛍光および共焦点顕微鏡の所見により、LPMsが細菌を速やかに排除して腹膜中皮に接着することで、次いでリクルートされるLPMs, B1 細胞, 好中球,単球由来細胞(moCs)から構成される多層性細胞凝集体 (resident MΦ-aggregates)を形成することを明らかにした。この凝集体の形成にはLPMsとトロンビン依存的なフィブリン重合を必要とした。また、E.coli 感染はLPMs のpyroptosisと炎症性メディエイターの放出を惹起した。この炎症性の凝集体の分解にはLPMs によるmoCsのリクルートが必要であり、フィブリン分解によるresMΦ-aggregatesの脱凝集や、腹腔内の過剰な炎症の予防には不可欠であった。このように、resMΦ-aggregatesは腹腔内感染を効率よく制御する物理的な足場として機能しており、胸腔や脳室内といったその他の体腔での抗菌免疫に対しても示唆を含んでいる。

 

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