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TOPジャーナルクラブ > ジャーナルクラブ 2017年

ジャーナルクラブ

2017年: 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2017年11月7日 担当:加藤 浩貴

Nature 2017;550:524-528,.

Mfsd2b is essential for the sphingosine-1-phosphate export in erythrocytes and platelets

Thiet M. Vu, et al.

担当者コメント

脂質メディエーターは免疫機能の調整をはじめとする生体内の恒常性維持に非常に重要な役割を果たしている事が近年明らかになっている。代表的な脂質メディエーターの一つであるSphingosine -1- phosphate (S1P) はリンパ球のリンパ組織からの排出や血管壁の保護などに重要な役割を果たしている事が報告されていた。S1Pは生体膜を構成するリン脂質であるSphingosine (Sph) から合成される為、原理的には全ての細胞から産生されうるが、これまでに赤血球が主なS1P産生細胞の一つであると考えられていた。しかし、赤血球でのS1Pの機能やS1Pが赤血球から排出される機構には不明な点が多く残っていた。筆者らはMfsd2aが脂質トランスポーターである事、及びMfsd2bが赤血球と血小板をはじめとする血球細胞に特異的に発現している事から、Mfsd2bがS1Pの新規トランスポーターである可能性を考え、Mfsd2bノックアウトマウス (Mfsd2KOマウス) の解析を中心に研究を行った。

Mfsd2bKOマウスはS1Pが血漿中で低下し赤血球中で増加していた。また、赤血球にSphを添加した所、野生型マウス由来の赤血球と比較してMfsd2KOマウス由来の赤血球では、細胞内のS1P量は変化しないのに対し、上清中のS1Pが低下していた。さらに、Mfsd2bを過剰発現した細胞では上清中のS1P量の増加所見が認められ、Mfsd2bの変異型では上清中のS1Pの低下と細胞内のS1Pの蓄積が認められた。これらの所見から、Mfsd2bは赤血球での主なS1Pトランスポーター (エクスポーター) である事が示された。

これまでの報告から、S1Pはリンパ球のリンパ組織から血管内への遊走を亢進させ、また敗血症ストレスに対して保護的に働く事が示されていたが、実際にMfsd2bKOでは血液中のリンパ球数の低下と敗血症ストレス下での予後の悪化が認められた。さらに興味深いことに、5FU投与下での赤血球造血ストレス下では、Mfsd2bKOは有意に貧血所見と予後の悪化所見を呈した。Mfsd2bKOの赤血球が形態異常を呈していた事などからは、溶血性貧血が惹起されている可能性が示唆された。本所見からは、S1Pは赤血球の膜恒常性維持にも何らかの機能を有している可能性が示唆されている。

本研究により、これまでに明らかにされていなかった、赤血球でのS1P産生機構の一端が明らかになった。赤血球がS1Pの産生を介して免疫機構の調整に関与しているという所見は非常に興味深い。今後、脂質メディエーターなどを介して赤血球による免疫調節機構がさらに発見される可能性が考えられる。

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2017年9月26日 担当:市川 聡

Nature. 2017;544:493–97.

SLAMF7 is critical for phagocytosis of haematopoietic tumour cells via Mac-1 integrin.

Chen J, et al.

担当者コメント

がん細胞は,免疫チェックポイント受容体を抑制するリガンドの発現を亢進させるなど,様々な機序で抗腫瘍免疫から逃れようとする.マクロファージによる食作用は抗腫瘍免疫のなかで重要な役割を果たすが,実際,マクロファージの抑制性受容体であるSIRPαと,そのリガンドであるCD47を阻害すると腫瘍縮小を得られることが,過去のin vitroおよびin vivoの研究で判明している.ゆえに,SIRPα–CD47チェックポイントの阻害は有望ながん治療の戦略となり得ると考えられるが,腫瘍細胞の食作用において鍵となる受容体についてはおよそ知られていない.今回まず筆者らは,SIRPα–CD47阻害に反応したマクロファージによる食作用が,非造血器腫瘍に比べて造血器腫瘍に対してより効率的に行われることを見いだした.つぎに,造血器細胞特異的な受容体であるSLAMファミリーを欠損したマウスのin vitroおよびin vivo解析において,SIRPα–CD47阻害による造血器腫瘍細胞の食作用は厳密にSLAMファミリー受容体に依存していることを証明した.さらにこの機能は,マクロファージやターゲットとなる腫瘍細胞に発現したSLAMファミリーのなかでも単一の因子SLAMF7に依存していた.他の大部分のSLAMファミリーの機能とは対照的に,SLAMF7を介する食作用はSAP adaptorには依存せず,代わりに細胞接着因子Mac-1とSLAMF7の相互作用に依存し,ITAMシグナル伝達と関連することが判明した.これらの知見は,造血器腫瘍をマクロファージが貪食,破壊する新たな抗腫瘍免疫機序を明らかにしており,今後,SLAMF7を発現する腫瘍におけるSIRPα–CD47経路の阻害が有望な腫瘍免疫治療戦略の一つとして発展するかもしれない.

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2017年9月12日 担当:武藤 智之

Nature. 2017; 548: 228–233.

Metabolic control of TH17 and induced Treg cell balance by an epigenetic mechanism

Tao Xu, et al.

担当者コメント

エピジェネティクスや転写が一体となって、代謝が細胞の運命や機能を変化させることは明らかになっている。しかし代謝がT細胞分化において必要な生体エネルギーや生合成を満たすだけでなく、エピジェネティック機構によってT細胞運命も制御するかどうかは不明である。

今回筆者らは、T H 17細胞の誘導性制御性T(iT reg )細胞への分化を再プログラム化する、アミノオキシ酢酸という低分子を発見し、その機構解析を通して、主にGOT1によって触媒されるアミノ基転移の増加が、分化中のT H 17細胞における2-ヒドロキシグルタル酸レベルの増加をもたらすことを示した。2-ヒドロキシグルタル酸が蓄積すると、Foxp3 遺伝子座に過剰なメチル化が生じ、T H 17細胞への運命決定に必須の Foxp3 の転写が阻害された。グルタミン酸のα-ケトグルタル酸への転換を抑制すると、2-ヒドロキシグルタル酸の産生が妨げられ、 Foxp3 遺伝子座のメチル化が減少することで、 Foxp3 発現が増加した。これは結果としてT H 17細胞の分化を阻害し、iT reg 細胞への極性化を促した。アミノオキシ酢酸を用いたGOT1の選択的阻害は、T H 17細胞とiT reg 細胞の間のバランスを調節することによって、治療マウスモデルでの実験的自己免疫性脳脊髄炎を改善した。グルタミン酸依存性の代謝経路を標的にすることは、T H 17介在性自己免疫疾患に対する治療薬を開発するための新たな戦略となる可能性があることが示唆された。

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2017年9月5日 担当:小野 浩弥

Science 356:608-616, 2017

Restored iron transport by a small molecule promotes absorption and hemoglobinization in animals

担当者コメント

鉄は細胞膜またはミトコンドリア膜を介して多様な動きをする金属イオンで、その恒常性の維持は生体にとって重要である。鉄輸送に関わる分子の変異はさまざまな遺伝的疾患の原因となり得る。本論文で、著者らは鉄トランスポータの機能欠損によって生じる鉄の濃度勾配を利用し膜内外の鉄輸送を行う低分子化合物を探索した。

Fet3/Ftr1を欠損した酵母株を用いスクリーニングしたところ、戦前に野副鉄男博士(仙台市出身)がタイワンヒノキから発見したHinokitiolが鉄の吸収を完全に回復させることがわかった。構造解析では、Hinokitiolは鉄結合能を有することおよび脂溶性であって膜を容易に通過することが見出された。鉄輸送体を欠損したほ乳類cell lineでの検討では、Hnokitiolが鉄の取り込みや放出を完全に回復させた。また、DMT1欠損赤芽球細胞株でヘモグロビン合成の回復が認められた。疾患モデル動物では、DMT1欠損ラット(細胞内から細胞外への鉄輸送障害)、FPN-1欠損マウス(細胞外から細胞内への鉄輸送障害)、Mfrn1欠損ゼブラフィッシュ(ミトコンドリア内への鉄輸送障害)での鉄輸送をHinokitiolが完全に代償した。Hinokitiolの毒性は軽微であり、鉄トランスポータの欠損に起因する遺伝病に対し今後の臨床応用が期待される。

本論文は低分子化合物のタンパク代償機能を示唆する画期的報告である。今後、さまざまなヒト遺伝病が同様の着想での治療法開発につながるかもしれない。

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2017年7月25日 担当:石井 悠翔

Nature Med. 23(5); 601-610, 2017

Marginal zone B cells control the response of follicular helper T cells to a high-cholesterol diet

担当者コメント

血中を循環する脂質濃度が上昇したことに対するアテローム性動脈硬化症の進行には動脈血管壁の炎症が活性化することが特徴であり、それには自然免疫、獲得免疫が誘導されることが関連している。これまでB細胞が関連した免疫反応がアテローム性動脈硬化症と関連していることが報告されており、その中でもB2細胞集団の欠損で悪化することが報告されていた。しかし、詳細は明らかになっていなかった。B2細胞の中でも自然免疫特性を有するMZB細胞がいかにアテローム性動脈硬化症に関連するのか明らかにするために本研究は行われた。

マウスのMZB細胞が血液中の高コレステロール状態に応じて前炎症反応を抑制する働きを持つATF3を介してPD-L1発現MZB細胞を増やして脾臓のT-B境界領域かT cell領域においてTFH前駆細胞と相互作用して質的、量的にその働きを抑制して動脈硬化の進行を抑制したことが示された。

MZB細胞の制御から逃れたTFH細胞がいかにしてアテローム性動脈硬化を引き起こすかは述べられなかった。

本論文で高コレステロール食に対してMZB細胞がTFH細胞の質的量的に制御して免疫恒常性を維持するという新たな役割を持つことが明らかにされた。

これらの結果は、自己免疫疾患の発症や進行を考えるうえで、食事内容のような環境因子が影響を与えていることを理解するうえで重要である。

このように環境因子による影響を免疫学的、分子生物学的に解析することは自己免疫疾患発症メカニズムの一端を担うと考えられ重要である。

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2017年7月4日 担当:藤原 亨

Nature. 2017;545:432-438

Haematopoietic stem and progenitor cells from human pluripotent stem cells.

Sugimura R, et al.

担当者コメント

造血幹細胞は多分化能と自己複製能を持つ細胞で、胎児卵黄嚢におけるHemogenic endotheliumから由来すると考えられている。近年になりiPS細胞が樹立され、様々な種類の細胞が試験管内で作れるようになったが、ヒト化マウスを用いた疾患モデル動物や骨髄移植等に応用可能な造血幹細胞を作成することは困難であった。

ヒトiPS細胞から分化させた胚様帯(Embryoid body)由来のCD34陽性細胞に造血幹細胞特異的な転写因子を直接導入し、照射後の免疫不全マウスに対して移植を行った先行研究では、ごく短期間のみだが移植片の生着を認めた(Cell Stem Cell 2013)。そこで本研究では、ヒトiPS細胞からまずHemogenic endotheliumを誘導し、造血幹細胞の機能に重要な26種類の転写因子群を導入した。その結果、うち7つの転写因子(ERG, HOXA5, HOXA9, HOXA10, LCOR, RUNX1, SPI1)をHemogenic endotheliumに導入することで長期に渡り生着可能な造血幹細胞の誘導が可能であることを明らかとした。

In vitroで樹立した造血幹細胞は、in vivoの造血幹細胞と若干の形質の相違を認める点、またiPS細胞を使用しているため将来の発がんのリスクについては今後の検討課題であるが、新たなツールになりうることが期待される。

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2017年6月27日 担当:藤井 博司

J.Exp.Med. 214, 439-458, 2017

Peptidylarginine deaminase 4 promotes age-related organ fibrosis

Martinod et.al.

担当者コメント

NET (Neutrophil Extrcellular Traps)は好中球により産生、放出される網状のクロマチンであり、ヒストン、プロテアーゼなどの細胞質蛋白を伴っている。NETosisは好中球がNETを放出することいい、Peptidylarginine deaminase 4(PAD4)によるヒストンのシトルリン化が、NETosisに必要である。もともとは病原体に対する生体防御い重要な役割を果たしていると考えられていたが、近年SLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患や動脈硬化にも関与していることが報告されている。老化に伴い心臓や肺などの臓器の実質は線維化し、臓器予備能も低下する。その機序に活性酸素や炎症の関与は示唆されてはいたが、好中球がどのように関与しているかは不明である、本研究ではPAD4欠損マウスを用いて、加齢、NETosis、臓器の線維化の関連について調べた。加齢により、末梢血中の好中球数は上昇し、NETosisを起こしやすくなっていた。また、加齢したマウスでは左室既出率(LVEF)の低下、線維化の上昇、心臓内での血小板の凝集を認めたがいずれもPAD4欠損マウスでは改善していた。また、大動脈結紮モデルでも認められたLVEFの低下、増加した線維化も、PAD欠損あるいはNETを分解するDNaseにより改善した。本研究により、加齢による臓器内でのNET産生が上昇し、その結果血小板の活性化、TGF-βの産生が上昇することにより線維化が進むという機序が示唆されNETosisの制御(あるいはNETの分解)が老化に伴う臓器の線維化に対する予防法になりうる可能性がある。

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2017年6月13日 担当:福原 規子

Cancer Cell. 2017 Jun 12;31(6):833-843.e5

Inhibition of B Cell Receptor Signaling by Ibrutinib in Primary CNS Lymphoma.

Lionakis MS, et al.

担当者コメント

中枢神経原発リンパ腫(PCNSL)は,初回治療として大量methotrexate(MTX)に放射線療法を組み合わせた治療法を行われるが,約半数が再燃し,10-15%は初回治療抵抗性であるため,これらの再発・難治例に対する治療開発が求められている。PCNSLの大半がactivated B-cell like (ABC) DLBCLであり,ABC-DLBCLではB細胞受容体(BCR)を標的とした変異を選択的に獲得し,BCRシグナル伝達が慢性的に活性化した状態となる。BCRシグナル伝達阻害剤であるibrutinibはすでに慢性リンパ性白血病,マントル細胞リンパ腫,辺縁帯リンパ腫,マクログロブリン血症などに有効性が示され,近年PCNSLに対しても単剤での有効性が報告されつつある。Lionakisらは,ibrutinibとの相乗効果のある薬剤を選択した,DA-TEDDi-R(dose adjusted temozolomide, etoposide, liposomal doxorubicin, DEX, ibrutinib and rituximab)療法を開発し,Phase Ib試験を施行した。再発・難治性PCNSL 13人と初発PCNSL 5人を対象とし,先行する14日間のibrutinib単剤療法にて83%(15/18)の奏功を認め(全例PR),化学療法後のCR割合が86%(12/14)と驚くべき結果となった。しかし,有害事象として播種性アスペルギルス症を39%に認められ,マウスモデルではBruton-type tyrosine kinase依存性の真菌感染に対する免疫能と関連することが示唆された。従って,PCNSLに対してibrutinibをベースとした化学療法は高い有効性は期待できるが,安全性をさらに検討する必要があるだろう。

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2017年6月7日 担当:城田 祐子

Immunity 46. 457-73. 2017

Exposure to Bacterial CpG DNA Protects from Airway Allergic Inflammation by Expanding Regulatory Lung Interstitial Macrophages

Sabatel C, et al.

担当者コメント

細菌など微生物豊かな環境に生活すると喘息を発症しにくい. ヒトやマウスが細菌のCpG DNA(CpG)へ暴露されると, このような防御的効果が再現されるため、CpGは喘息を発症しにくくする主要因の一つと考えられる. しかし、どのようにCpGがこの防御機構に寄与しているかは明らかでなかった. 筆者らは, CpGが, 肺間質性マクロファージ(IMs)を誘導し, アレルギー性の炎症反応を制御することを示した. この作用は,制御性のサイトカインであるIL-10の生産による. IL-10KOのIMsは、アレルギー性炎症を制御することができない. CpGに誘導されたIMsは, 肺内あるいは,脾臓から遊走されてきた単球が分化した細胞である. IMsの前駆細胞はCCR2非依存性に遊走する. これらの発見は、病態生理学的に重要である. というのは, 衛生学的な仮説,実験的モデルおよびヒトの臨床試験における,合成CpGの防御機構のメカニズムを解明する可能性があるからである. さらに, IMsの抑制性の性質による治療戦略が喘息をコントロールするのに役立つ可能性がある.

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2017年5月23日 担当:白井 剛志

Nat Immunol. 2017;18:104-113.

Regulation of autoantibody activity by the IL-23-TH17 axis determines the onset of autoimmune disease.

Pfeifle R, et al.

担当者コメント

自己抗体により惹起される疾患のチェックポイントやメカニズムは完全にはわかっていない。本研究では、IL-23-TH17 axisが自己抗体の炎症活性を制御しており、自己免疫性関節炎の発症を引き起こすことを明らかにした。TH17細胞は、IL-22/IL-21依存性にB細胞を刺激することで新規に分化する抗体産生細胞におけるβ-galactoside a2,6-sialyltransferase 1の発現を抑制し、その後の形質細胞から産生されるIgGの糖鎖プロファイルと活性を変化させる。特にIgGFc部のAsn297のシアル酸が低下することで、自己抗体の向炎症性が著明に変化することを示している。特異的自己抗体を有する無症候性のヒトRAにおいても、炎症性関節炎を呈する前では、自己反応性IgGの活性と糖鎖プロファイルに相同の変化が見られた。IL-23-TH17 axisは自己抗体の活性を調節しており、免疫寛容の破綻に重大な役割を果たしている可能性がある。
RA発症予防におけるTH17阻害の有用性を示唆する論文である。

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2017年5月9日 担当:鴨川 由起子

Nature Immunology 2017;18:152-160

A gene network regulated by the transcription factor VGLL3 as a promoter of sex-biased autoimmune diseases

担当者コメント

自己免疫性疾患の特徴の一つとして、男女間での有病率の差(女>男)が挙げられる。筆者は男女のヒトの皮膚を採取して高精度グローバル転写解析を行い、女性に有意に発現しており、かつ自己免疫性疾患で感受性が高い分子を同定した。この分子は、年齢や性ホルモンとは関連がなく、転写因子であるVGLL3と関連があった。VGLL3は女性に有意に発現している転写因子である。ゲノムワイドレベルでは、VGLL3調節遺伝子はSLEや強皮症やシェーグレン症候群などの自己免疫性疾患と強く関連していた。これらの結果より、VGLL3調節networkは女性にバイアスのかかった自己免疫性疾患の発症を促進する炎症性pathwayであると考えられた。筆者は免疫学的なプロセスを女性と男性とを区別して研究することが重要であり、それが治療の発展につながると述べている。

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2017年4月11日 担当:大西 康

Nature. 2017 Apr 6; 544: 105-109.

The lung is a site of platelet biogenesis and a reservoir for haematopoietic progenitors

担当者コメント

血小板産生が行われる場は骨髄、というのが一般的な理解である。しかし、本研究では肺組織を直接顕微鏡で観察することにより、肺で多くの血小板産生が行われていることを示している。多くの巨核球が肺を循環し、血小板を放出していることを直接確認した。血小板を放出する巨核球は骨髄等の肺外組織に由来していた。さらに、肺での血小板産生は体全体の血小板産生の約50%(1時間に1000万個の血小板)をも占めていた。肺の血管外組織内において、成熟および未熟巨核球、さらには造血前駆細胞が存在することも確認された。骨髄内の造血幹細胞が欠乏して血小板数が低下する状況においては、肺に存在する前駆細胞が肺から出て骨髄で血小板数回復や多系統の造血に寄与することも示している。これらの結果より、肺が血小板産生の場であり、かつ潜在的に造血能を有する組織であることが確認された。

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2017年4月4日 担当:市川 聡

Nature. 2017;542:479–83.

Metabolic gatekeeper function of B-lymphoid transcription factors

Chan LN, et al.

担当者コメント

PAX5やIKZFといったB細胞転写因子は初期のB細胞分化において極めて重要である.分化初期段階のB細胞が腫瘍化したプレB細胞急性リンパ芽球性白血病(pre-B ALL)の80%以上の症例でこれらの転写因子をコードする遺伝子の異常が認められるが,その病態学的意義についてはこれまで十分に解明されてはいない.筆者らはクロマチン免疫沈降シーケンス解析とRNAシーケンス解析の結果から,グルコースとエネルギーの供給を転写レベルで抑制する新たなB細胞のシグナル経路を見いだした.代謝解析において,PAX5およびIKZFの強制発現により慢性的なエネルギー欠乏状態が起き,エネルギーセンサーであるAMPKの恒常的活性化を引き起こし,またPAX5およびIKZFのドミナントネガティブ変異によりこの変化と真逆の変化が引き起こされた.遺伝子組み換えpre-B ALLマウスモデルにおいて,PAX5遺伝子のヘテロ欠損により細胞内へのグルコース取り込みと細胞内ATPレベルが著明に上昇した.また,患者検体のpre-B ALL細胞においてPAX5およびIKZFを強制発現すると,細胞内エネルギーが枯渇し細胞死が誘導された.CRISPR/Cas9システムに基づくPAX5およびIKZFの標的因子の解析により, NR3C1(糖質コルチコイド受容体をコード),TXNIP(グルコースフィードバックセンサーをコード),CNR2(カンナビノイド受容体をコード)がB細胞におけるグルコースとエネルギー供給の制限を司る中心のエフェクターであることが見いだされた.さらに,脂肪親和性でトランスポーター非依存的なエネルギー源であるピルビン酸メチルやTCAサイクルの中間代謝物を供給すると,PAX5やIKZFの「門番機能」をすり抜け細胞の白血病化が容易となった.逆に,TXNIPやCNR2のアゴニストやAMPKの小分子アンタゴニストは糖質コルチコイドと相乗的に作用して細胞増殖を抑制し,このことは糖質コルチコイドがpre-B ALLの治療において有効である理由を説明しうると考えられた.以上より,B細胞転写因子は細胞内のATPを白血病化に不十分なレベルに制限することにより,腫瘍化に対する「代謝の門番」として機能していることが示され,TXNIP,CNR2,AMPKはpre-B ALLの治療における新たな標的分子となりえると考えられた.

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2017年3月28日 担当:武藤 智之

Nature. 2017 Mar 9; 543 (7644): 252-256.

Survival of tissue-resident memory T cells requires exogenous lipid uptake and metabolism

Youdong Pan et al.

担当者コメント

組織常在型メモリーT (T RM ) 細胞は上皮バリア組織に長く存在し, 病原体から宿主を防御している. しかしT RM 細胞の長期生存を可能にする生物学的経路は不明のままである. 今回筆者らは, 皮膚ウイルス感染によって生じたマウス由来のCD8 + T RM 細胞が, 脂肪酸結合タンパク質 (FABP) 4および5などの脂質取り込みと細胞内輸送に関わる複数の分子を,高レベルで発現していることを示し, Fabp4Fabp5 をT細胞特異的に欠損させることで, CD8 + T RM 細胞による外来遊離脂肪酸 (FFA) の取り込みが障害され, in vivoでは生存期間が短縮されるが, リンパ節のセントラルメモリーT(T CM )細胞の生存には影響しないことを示した. またIn vitroでは, FFAが存在するとCD8 + T RM 細胞ではミトコンドリアでの酸化的代謝が増加するが, CD8 + T CM 細胞では代謝の増加は認められず, Fabp4-/-/Fabp5-/- CD8 + T RM 細胞でも増加を認めなかった. 加えて皮膚内のCD8 + T RM 細胞の生存は, in vivoではミトコンドリアによるFFAのβ酸化阻害により大きく短縮され, Fabp4/Fabp5 を欠損する皮膚CD8 + T RM 細胞は, 皮膚のウイルス感染からマウスを防御する際の有効性が低かった. 以上のマウスにおけるデータと一致して, ヒト正常皮膚および乾癬皮膚のCD8 + T RM 細胞でも, FABP4および5の発現増加と外因性FFAの取り込み増強を示した. これらの結果より, FABP4および5が, CD8 + T RM 細胞の維持に重要な役割を担っており, CD8 + T RM 細胞は外因性FFAの酸化的代謝により組織に常在し, 免疫機能を調節していることが示唆された.

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2017年3月14日 担当:藤原 亨

Cell Stem Cell. 2017 Mar 2;20(3):315-328.e7. doi: 10.1016/j.stem.2017.01.009.

Stage-Specific Human Induced Pluripotent Stem Cells Map the Progression of Myeloid Transformation to Transplantable Leukemia.

Kotini AG, Chang CJ, Papapetrou EPet al.

担当者コメント

骨髄異形成症候群(MDS)は二次性の急性骨髄性白血病(MDS/AML)への進展を特徴とする疾患である。近年の次世代シークエンサー技術の進歩により、MDSの発症・進展に関わる遺伝子変異について次々と新しい知見が得られている。一方で、MDSの初代培養は難しく、病態解明や薬効評価に有用なヒトMDSの細胞モデルが乏しいのが現状である。

著者らは、MDS及びMDS/AML患者由来の単核球細胞から複数のiPS細胞クローンを樹立した。各々のiPS細胞は全てあるいは一部の遺伝子異常を受け継ぐクローンとともに正常細胞由来と予想されるiPS細胞など様々であり、形態学的解析・分化増殖能・免疫不全マウスへの生着能・遺伝子発現プロファイルの点の結果も合わせて、Normal、Preleukemic、Low-risk MDS、High-risk MDS、MDS/AMLと分類した。さらに、ゲノム編集技術によりiPS細胞にMDSに特徴的な変異を導入することにより、Normal→Preleukemic→MDSの進行のモデルを再現することも可能であった。最後に著者らは、MDSの治療において広く用いられている脱メチル化剤のLow-riskとHigh-risk MDSにおける応答の違いや、現在臨床研究段階であるRAS阻害剤の有効性について示唆する結果を示した。

本モデルはMDSの病態解明や新たな候補薬剤の薬効評価に有益であると考えられる。

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2017年3月7日 担当:藤井 博司

Science Immunology (2016) eaah4447

The human thymus perivascular space is a functional niche for virtal-specific plasma cells.

Nunez et.al.

担当者コメント

胸腺はT細胞が分化する臓器であり、各々MHC拘束性、自己寛容に重要なpositive selection, negative selectionを起こす場である。これらのselectionは、“自己”ペプチド+MHC分子とT細胞レセプターの相互作用の強さにより規定されるが、感染により外来抗原が胸腺内に発現されると、これらの病原体に対する免疫力に影響を与える可能性もあり、胸腺における局所の免疫防御機構は重要である。胸腺は、上皮細胞が含まれる皮質、髄質以外の第3のcomparmtentとしてperivascular space(PVS)があり、加齢に伴いその割合が上昇していく。胸腺B細胞がこのPVSに存在することは知られていたがその機能については明らかでない。本研究では、ヒト胸腺組織を用いて、主に以下のことを明らかにした。@PVSにB細胞、形質細胞が局在する、A胸腺内には抗体産生細胞が存在し、その中にはウィルス特異的なクローンも含まれている。PVSは血液と胸腺実質との境界に位置しているが、この部位にlong-livedの形質細胞のnicheが存在することは胸腺の局所防御機構として重要な役割を果たしている可能性がある。

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2017年1月31日 担当:長谷川 慎

Nature. 2016 Oct 27;538(7626):518-522. doi: 10.1038/nature19801.

T-cell acute leukaemia exhibits dynamic interactions with bone marrow microenvironments.

Hawkins ED, Duarte D, Lo Celso C, et al.

担当者コメント

がん細胞とその周囲の微小環境との複雑な相互作用が、がんの発生、薬剤耐性、および再発に関係していることがよく知られている。この相互依存性が着目され、疾患特異的ながん間質細胞やそれらの相互作用をターゲットとした新規治療介入が模索されてきた。

今回筆者らは、ヒトT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)を模したマウスモデルに対して生体顕微鏡を用い、白血病が骨髄内を進展する様子を組織レベルおよび単細胞レベルで、また骨髄内播種から薬剤耐性獲得までに至る経時的な観察を行った。その結果、非常にダイナミックな細胞間相互作用は認められたが、骨髄内を遊走する白血病細胞はランダムに分布し、骨髄内の特定の部位に対する分布傾向はみられなかった。予想外なことに、このような細胞の動きは、最初期の骨髄播種から薬剤に対する反応、さらには薬剤耐性を獲得するまでの間、一貫して維持されていた。この結果から、T-ALLの細胞は病勢の進行においても薬剤耐性の獲得においても骨髄内の特定の微小環境に依存することはなく、これらの過程には何らかの確率論的メカニズムが存在することが示唆された。このようにT-ALLの浸潤や進展は間質とは無関係ではあるが、腫瘍負荷の蓄積により骨内腔の迅速かつ選択的リモデリングが起こる結果、血管内皮細胞は維持されたまま、成熟骨芽細胞が完全に消失し、最終的に骨髄間質の元来のバランスが崩れ、造血幹細胞の機能喪失を促す状態へと変化すると考えられた。

今回のin vivoにおけるT-ALL細胞と骨髄微小環境との相互作用の新規動的解析により、将来的な治療介入においては、特定の骨髄間質細胞ではなく、がん細胞の遊走過程やその周囲の微小環境との様々な相互作用をターゲットにするべきであるということが示された。

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2017年1月17日 担当:城田 祐子

Immunity. 2016 Dec 6. pii: S1074-7613(16)30477-0. doi: 10.1016/j.immuni.2016.11.005.

Human Innate Lymphoid Cell Subsets Possess Tissue-Type Based Heterogeneity in Phenotype and Frequency.

Simoni Y, Fehlings M, Newell EW, et al.

担当者コメント

動物モデルの様々な免疫反応において, 自然リンパ球 (ILC) が重要であることは報告されているが, ヒトILCの特徴は, 明らかにされていなかった. この論文で, 筆者らはmass cytometryを使って, 健常者や炎症組織のヒトILCについて様々は表面マーカーや転写因子を的確に解析した. t-SNE解析によりILC2とILC3細胞のphenotypeを明らかにした. 筆者らはILC1細胞を検出することはできなかった. しかし. 粘膜組織や非粘膜・病的組織においてintra-epithelial (ie)ILC1様細胞を検出し, これはNK細胞に類似した細胞であった. さらに, 筆者らは, これまでに報告されていなかった新しいphenotypic moleculesを見出した. 例えば, (ie)ILC1様細胞におけるCD103, ILC細胞においるIL-18R発現などである. 筆者らにより,ヒトのILCは個人や組織により非常にheterogenousであることが示された. また, ヒトの疾患や組織によるILCの多様性を詳細に述べられた. 今回の論文で, よりILCサブタイプを区別するマーカーがより明らかになり, 今後,さらに様々な悪性疾患や, 自己免疫疾患などでの役割が解明されることに期待する.

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2017年1月10日 担当:白井 剛志

Nat Immunol. 2017 Jan;18(1):74-85

Trans-presentation of IL-6 by dendritic cells is required for the priming of pathogenic Th17 cells

Heink S, Yogev N, Garbers C et al.

担当者コメント

IL-6は免疫反応、細胞代謝など多岐に渡る作用を有する。自己免疫疾患ではIL-6はTGFβとともにTh17の分化に関わる。IL-6はまたFoxp3+Tregの分化を抑制しているが、Th17の分化におけるIL-6がどの細胞から分泌されているのかはよく分かっていなかった。著者らは異なる細胞におけるIL-6産生を特異的に欠損させる方法を用いて、Sirpα陽性の樹状細胞が病原性Th17の分化に必要であることを示した。Sirpα陽性樹状細胞は、細胞上のIL-6Rαを用いてIL-6をT細胞にtrans-presentationする。周囲に存在するIL-6はT細胞におけるFoxp3の発現を抑制するのに十分であるが、”IL-6 cluster signaling: 樹状細胞のIL-6Rαに結合したIL-6をtrans-presentationすること”によりIFN-γ発現が抑制され、病原性のTh17が産生される。Th17の分化に特定のIL-6伝達経路が関与していることが示唆され、より効果的な免疫治療法の発展につながる可能性がある。

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