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TOPジャーナルクラブ > ジャーナルクラブ 2015年

ジャーナルクラブ

2015年: 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2015年12月22日 担当:兼平 雅彦

Nature. 2015 Dec 10;528(7581):218-24. doi: 10.1038/nature15749.

The histone chaperone CAF-1 safeguards somatic cell identity.

Cheloufi S, Elling U, Hochedlinger K, et al.

担当者コメント

 最終分化を終えた体細胞には、そのidentityを保持しようとする機構が備わっていることが予想されていた。このことは、核移植によるクローン生物の作成には未受精卵が必須であることや、四倍体胚盤胞補完法によるマウスの作成効率がiPS細胞よりもES細胞の方が高いことからも想像できる。その機構は、クロマチンの再構成などによるエピジェネティックな制御によるものと考えらえていたが、その詳細は不明であった。筆者らは、ヒストンシャペロン(ヒストンと結合し、ヒストンとDNAの結合・解離を補助する分子)の一種であるCAF-1(Chromatin assembly factor-1)が、体細胞のidentity維持に重要であることを報告している。

 筆者らは、山中4因子(Oct4, Klf4, Sox2, c-Myc)のコンディショナルトランスジェニックマウスより誘導したMEF(mouse embryonic fibroblast)を用い、クロマチンリモデリングに関与する遺伝子を網羅的にノックダウンし、iPS細胞の作成効率を指標に解析を行った。そして、CAF-1のサブユニットであるChaf1aとChaf1bを候補遺伝子として同定した。これらの遺伝子をサイレンシングすることで、iPS細胞の作成日数の短縮と、作成効率の上昇が認められた。また、MEFを神経細胞へ、そしてpre-B細胞をマクロファージへと、それぞれtransdifferentiationできることが明らかとなった。

 その機構を詳細に解析したところ、CAF-1をサイレンシングしたMEFでは、多分化能に関連するエンハンサー領域の低メチル化と、その部位へのSox2結合の上昇が認められた。それに伴い、transdifferentiationに関与する転写因子(Oct4など)の発現上昇も認められた。

 本論文により、CAF-1が体細胞のidentity維持に重要な因子であることが明らかとなった。今後、細胞の可塑性を調節する再生医療への応用が期待されると思われる。

 

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2015年12月15日 担当:加藤 浩貴

Cell Stem Cell. 2015 Jul 2;17(1):35-46. doi: 10.1016/j.stem.2015.05.003.

Functionally Distinct Subsets of Lineage-Biased Multipotent Progenitors Control Blood Production in Normal and Regenerative Conditions.

Pietras EM, Reynaud D, Passegué E, et al.

担当者コメント

 造血幹細胞は様々な前駆細胞を介して各系統の成熟細胞へと分化成熟し造血系を構築している。これまで、マウスのLSK分画には表面マーカー上、HSCLT(long term hematopoietic stem cell)やHSCST(short term HSC)といった造血幹細胞及び多分化能を保持したMPP(multipotent progenitor)が含まれる事が示され、さらに最新の知見からは定常状態においてはHSCよりもむしろMPPの方が強く造血維持に寄与している事が示唆されている。また以前より、MPP分画の中にはさらにリンパ球系分化により傾いているLMPP(lymphoid primed MPP; 本研究ではMPP4と定義)が含まれ、Wilsonらの報告によるとMPP分画は表面マーカーによりMPP1〜4に分類可能である事が示されていた。しかしながら、これら各分画のMPPが最終的に各系統の造血維持にどの程度関与しているかは未だ不明な点が多かった。

 そこで、今回筆者らは各HST〜MPPの細胞の分化能をin vitro及びin vivoで評価し、その分化能を比較した。その結果、いずれの実験系においてもMPP2,MPP3,MPP4の順で巨核球/赤血球/顆粒球造血能が高く、逆にMPP4,MPP3,MPP2の順でリンパ球造血能が高い事が示された。特に、移植実験においてはMPP2でその他のMPPに比較して強い血小板造血能と顆粒球造血能が示された。トランスクリプトーム解析によってもMPP2,MPP3,MPP4は区分可能であり、それぞれに特徴的なGO termが有意に検出された。HSC移植後最も早期に検出されるMPPはMPP2であった。MPPそれぞれのヒエラルキーに関して、MPL–/– マウスを用いた実験ではMPP2の減少は認められたもののMPP3,MPP4の減少は認められず、また各MPPを移植した場合においてもその他のMPPは検出されないことから、それぞれはHSCからパラレルに産生されている可能性が示された。さらに、HSCLTのSecondary transplantation実験においては、MPP4であっても顆粒球系遺伝子の発現上昇が認められ、血球再構築が必要な場合にはMPP4からも顆粒球系細胞が産生される可能性が示唆された。これらの知見は、造血幹細胞から成熟細胞へのヒエラルキーの理解にとって大変重要であり、造血幹細胞研究の一助となりうるものであると考えられた。

 

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2015年12月8日 担当:鴨川 由起子

Nat Commun. 2015 Jun 18;6:7321. doi: 10.1038/ncomms8321.

Exosome-delivered microRNAs modulate the inflammatory response to endotoxin.

Alexander M, Hu R, O'Connell RM, et al.

担当者コメント

MicroRNAは転写された細胞内での遺伝子発現や機能の調節を行っている。最近のエビデンスではmicroRNAは細胞間を伝達し、ターゲットとなる遺伝子の発現を抑制していると考えられている。筆者らはin vitroで内因性のmiR-155とmiR-146aの2つのmicroRNAが炎症を調節し、樹状細胞からexosome内に放出され、再度樹状細胞に取り込まれることを発見した。取り込まれた後、内因性microRNAはターゲットとなる遺伝子の発現を抑制し、endotoxinに対する細胞応答をリプログラムする。その間miR-146aは炎症性の遺伝子発現を抑制し、miR-155は促進することもわかった。

また、in vivoでもmiR-146aとmiR-155がexosome内にあり、免疫細胞間を移動することがわかった。endotoxinが引き起こした炎症をmiR-155が促進し、その間miR-146aが抑制の方向に働いていることもわかった。In vivoでも内因性のmicroRNAは免疫細胞間で移動し、免疫応答の調節を担っていると考えられた。

 

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2015年11月24日 担当:大西 康

Nature. 2015 Mar 5;519(7541):102-5. doi: 10.1038/nature14119.

Axitinib effectively inhibits BCR-ABL1(T315I) with a distinct binding conformation.

Pemovska T, Johnson E, Wennerberg K, et al.

担当者コメント

ImatinibなどABL1キナーゼ阻害薬によりCMLおよびPh+ALLの治療成績は劇的に改善した。しかしながら、BCR-ABL1のT315I変異陽性例ではPonatinib以外のABL1キナーゼ阻害薬は無効である。本邦においてPonatinibは未承認であり、また海外で行われた臨床試験では血栓症などの有害事象についても注意喚起がなされている。筆者らは既存の承認薬を含む252種類の薬剤(Oncology compounds)を用いたdrug sensitivity and resistant testing (DSRT)により、根治切除不能又は転移性の腎細胞癌に承認されているAxitinib (インライタ®、VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬)がBCR-ABL1(T315I)を有する細胞の増殖や活性化を抑制することを示している。興味深いことに、AxitinibはT315I変異がないBCR-ABL1(wild type)に対しては有効性を示さない。患者検体を用いて既存の薬剤をスクリーニングし、有効なものを発見する新たなアプローチとして注目される。

 

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2015年11月17日 担当:池田 朋子

PLoS One. 2015 May 14;10(5):e0127361. doi: 10.1371/journal.pone.0127361.

The HSP90 Inhibitor Ganetespib Alleviates Disease Progression and Augments Intermittent Cyclophosphamide Therapy in the MRL/lpr Mouse Model of Systemic Lupus Erythematosus.

Lui Y, Ye J, Zhou D, et al.

担当者コメント

全身性エリテマトーデス(SLE)は、免疫学的および臨床徴候の多様な全身性自己免疫疾患である。SLEの治療において免疫抑制療法は効果的であるが、相当な毒性によって負担が大きく、感染症のリスクも高くなる。熱ショックタンパク質90(HSP90)は、複数の生来のおよび適応可能な炎症過程の重要なモジュレーターとして作用する偏在して表された分子シャペロンである。ここでは、我々は、よく特徴づけられたMRL/lpr自己免疫マウス・モデルで選択的な小分子抑制薬ganetespibを使用し、SLEの治療におけるHSP90の可能性について評価した。予防および治療的な投薬設定では、ganetespib治療は、1.自己抗体産生の抑制 2.腎臓組織変化が認められない 3.腎機能の保存など劇的な改善を示した。さらに、ganetespibは疾患関連のリンパ節腫脹と脾腫に対して、抑制性効果を及ぼし、脾臓で病原性TとB細胞系統の細胞集団を減少させた。標準免疫抑制剤シクロホスファミドの有効な投薬療法と比較するとGanetespib単独療法が等しく有効であった。また、シクロホスファミドの最適以下の投薬条件とganetespibの併用療法は、薬の毒性を抑え、有効性が発揮されるものであると推測された。これらの所見は、HSP90抑制薬のSLEへの治療的介入を可能とする一戦略として期待される。

 

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2015年11月10日 担当:大橋 圭一

Cell Stem Cell. 2015 Aug 6;17(2):165-77. doi: 10.1016/j.stem.2015.06.002.

Runx1 Deficiency Decreases Ribosome Biogenesis and Confers Stress Resistance to Hematopoietic Stem and Progenitor Cells

Cai X, Gao L, Speck NA, et al.

担当者コメント

Runxファミリー遺伝子は造血幹細胞関連遺伝子の発現を転写レベルで制御する重要な転写因子であり、Runx1遺伝子が骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病において高頻度にみられる。本研究でRunx1欠失HSPCs (hematopoietic stem and progenitor cells) はリボソーム生合成低下を認め@slow growth Alow biosynthetic Bsmall cell phenotypeといった性質を示した。また、Runx1欠失HSPCsではp53低値、放射線照射や化学療法などのgenotoxic stress暴露後のアポトーシス細胞の低下を認めた。Runx1遺伝子変異は生合成能低下および遺伝毒性に対する抵抗性の付与をもたらし、前白血病細胞の増殖のprocessとして重要であると考えられた。

 

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2015年10月6日 担当:町山 智章

Nat Immunol. 2015 Aug;16(8):850-8. doi: 10.1038/ni.3201.

Dipeptidylpeptidase 4 inhibition enhances lymphocyte trafficking, improving both naturally occurring tumor immunity and immunotherapy.

Barreira da Silva R, Laird ME, Albert ML, et al.

担当者コメント

抗腫瘍免疫応答の奏功はeffector T cellの腫瘍への浸潤に依存しており、この過程は種々のchemokineによって誘導される。DPP4(CD26)はN末端から2番目に位置するプロリンあるいはアラニン残基を有するタンパク質からジペプチドを切り出す作用を持つ酵素である。特にU型糖尿病の病態において研究が目覚ましく、DPP-4はインクレチンホルモンであるGLP-1やGIPのN末端を切断することでantagonistを産生し、インスリン抵抗性を引き起こす。インクレチンホルモンの他にもDPP4に認識されるN末端配列を有した分子は存在し、特にchemokineのなかでもCXCL10はin vitroにおいてDPP4により切断されることが示されていた。今回著者らは、chemokineが介在する腫瘍実質などの炎症病変へのリンパ球遊走を、DPP4が制御しているという仮説を実証した。DPP4を阻害することでCXCL10の生物学的活性型は維持され、腫瘍実質へのリンパ球のrecruitmentが増加することが示された。この結果は腫瘍免疫におけるDPP4によるchemokineの翻訳後修飾の役割を裏付けるものであり、DPP4阻害薬が腫瘍免疫療法に応用されうる可能性を示唆している。

 

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2015年9月29日 担当:藤原 亨

Cell. 2015 Aug 13;162(4):727-37. doi: 10.1016/j.cell.2015.07.019.

Plasmodium Infection Promotes Genomic Instability and AID-Dependent B Cell Lymphoma.

Robbiani DF, Deroubaix S, Nussenzweig MC, et al.

担当者コメント

 バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma, BL)は、胚中心由来の高悪性度B細胞リンパ腫の1つである。BLにおける遺伝子異常は特徴の1つであり、t(8;14)あるいはt(2;8)、t(8;22)転座により、8番染色体上のc-mycと免疫グロブリン遺伝子が相互転座を起こし、c-myc遺伝子の発現異常を来すのが原因と考えられている。BLのうち主にアフリカにみられるendemic BLは、ほぼ全例でEBウイルス(EBV)陽性であるため、本症の病因である可能性が想定されていた。しかし、アフリカ以外で認められるsporadic BLではEBV陽性率はせいぜい20%であり、さらに他のリンパ腫でもEBVとの関連が示唆されているため、BL発症におけるEBV陽性は特異的所見ではなかった。

 一方で、endemic BLはマラリア流行地域に一致することが知られていた。マラリアは熱帯を中心に広くみられる蚊が媒介する原虫感染症であるが、これまでのところ原虫であるマラリアがいかにBL発症に寄与しうるか、その分子機序は不明であった。

 筆者らは、げっ歯類に感染するマラリア(Plasmodium chabaudi)をマウスに感染させるモデルを用いて以下の点を明らかにした。

@ マラリア感染により長期にわたる胚中心B細胞の増加、免疫グロブリンクラススイッチ組換えに重要なAID(Activation-induced cytidine deaminase)の発現上昇を認めた。

A マラリア感染により、AID非依存的にERFS(Early replication fragile sites:複製ストレスによるS期早期でのDNA傷害の起きやすい部位)の傷害を認めた。一方、AIDは主に免疫グロブリンを標的にするが、Myc遺伝子を含む非免疫グロブリン遺伝子領域へも影響を及ぼし得た。

B がん抑制遺伝子として知られているp53欠損マウスでは、マラリア感染により胚中心由来B細胞性リンパ腫を中心としたリンパ腫をほぼ全例に発症し、一部においてはBLに特徴的なc-myc/Igh相互転座を認めた。 

 本マウスモデルではendemic BLに特徴的な所見を欠いている点、マラリア原虫はB細胞を直接標的としていないため、BL発症に関わる詳細な分子機序は未だ不明である点など、これから解明すべき点は多く残されているものの、本論文は重要な知見を示したものと考えられる。

 

 

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2015年9月15日 担当:藤井 博司

Immunity. 2015 Jul 21;43(1):132-45. doi: 10.1016/j.immuni.2015.06.016.

Long-Lived Plasma Cells Are Contained within the CD19(-)CD38(hi)CD138(+) Subset in Human Bone Marrow.

Halliley JL, Tipton CM, Lee FE, et.al.

担当者コメント

液性免疫は抗体分子により担われている生体防御機構である。血中に存在する病原体特異的抗体は長年にわたり存在し終生免疫(麻疹、流行性耳下腺炎などに対して)として機能するものもある。その抗体価の維持に寄与している形質細胞はメモリーB細胞からの誘導ではなく、長い寿命を持つ形質細胞(long-lived plasma cell, LLPC)によることが示唆されている。マウスにおいてはその存在は実験的に確認されていたが、ヒトにおけるLLPCのphenotypeは同定されておらず、その細胞学的特徴も明らかにされていない。本論文では、ヒト骨髄中の形質細胞を表面マーカーによって4つのサブセットに分類し(subset A; CD19+CD38hiCD138-, subset B ; CD19+CD38hiCD138+, subset C ; CD19-CD38hiCD138-, subset D ; CD19-CD38hiCD138+)、CD19-CD38hiCD138+細胞サブセットに抗measles抗体、抗mumps抗体産生形質細胞が存在し、血清中の抗measles抗体、抗mumps抗体のイムノグロブリン分子はCD19-CD38hiCD138+の細胞にコードされていることが示された。また、CD19-CD38hiCD138+の持つイムノグロブリン分子のclonotype、遺伝子発現プロファイルは他の形質細胞と異なり、高いオートファジー活性を持つことも示された。

本研究では、ヒトのLLPCのマーカーがCD19-CD38hiCD138+で定義されることが示された。このことは、ヒトにおける終生免疫の獲得機構の解明への大きなステップになりうる。

 

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2015年7月28日 担当:八田 俊介

Nat Biotechnol. 2015 Jun;33(6):646-55. doi: 10.1038/nbt.3178.

Functional analysis of a chromosomal deletion associated with myelodysplastic syndromes using isogenic human induced pluripotent stem cells.

Kotini AG, Chang CJ, Papapetrou EP, et al.

担当者コメント

骨髄異形成症候群(MDS)は、遺伝子異常をもつ造血幹細胞のクローン性増殖に基づいた疾患群のうち、血液系細胞の形態的異形成と骨髄での無効造血所見を認め、骨髄もしくは末梢血の芽球比率が急性骨髄性白血病(AML)より高くない疾患群である。MDS患者骨髄の染色体異常は約半数の症例に検出され、予後予測や治療方針決定にとって重要な情報となる。とくに5q-、-5、7q-、-7、+8、20q-などの頻度が多い。こうした染色体欠失はMDS以外のヒト癌細胞においても多数報告されているものの、種間の違いがこうした染色体欠失のマウスモデルの作製を困難にしている。

今回、筆者らは細胞のリプログラミングおよびゲノム操作を用いて、MDSに認められる染色体7qの欠失(7q-)を機能的に解析した。MDS患者の造血細胞から7q-を有する人工多能性幹細胞(iPSC)と正常核型を有するiPSCを樹立し、造血分化障害などの疾患特異的な表現型が7q-を有する iPSCで再現されることを示した。こうした疾患の表現型は7q-iPSCの自然発生的な遺伝子量の修正によって改善された。また、iPSCやヒトESCの染色体7qの半接合性を操作することによって、核型が正常な細胞でもMDSと同様の表現型が再現された。これらの実験から、7q32.3から7q36.1までの20 Mb領域が病態における重要な領域であることが示された。また、表現型の改善に基づくスクリーニングを用いることで、7q-を有するMDSを媒介する可能性のあるハプロ不全遺伝子の候補が発見された。

今回の方法は、疾病関連の大規模な染色体欠失の機能的マッピングおよびハプロ不全遺伝子の発見の両方に対するヒトiPSCの有用性を示すものである。

 

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2015年7月14日 担当:長谷川 慎

Leukemia. 2015 Jun 25. doi: 10.1038/leu.2015.163. [Epub ahead of print]

Coordinate regulation of residual bone marrow function by paracrine trafficking of AML exosomes.

Huan J, Hornick NI, KurreP, et al.

担当者コメント

筆者らは直近の論文において,急性骨髄性白血病(AML)由来の細胞株および患者由来の芽球がRNAやタンパク質を運搬するエキソソームを放出し,隣接する細胞に対して血管新生を促すことを報告した.この現象は,白血病ニッチが形成される際に傍分泌エキソソーム輸送が幅広い役割を果たすことを示唆していると考えられた.

今回筆者らは,in vitroの実験およびマウスに対する異種移植実験により,AMLエキソソームが間葉系細胞における重要な造血幹細胞遊走抑制因子であるScfやCxcl12などの発現を低下させ,造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の骨髄からの遊離を促すことを示した.エキソソーム輸送は直接的にもHSPCを制御し,自己複製能の低下,CXCR4やc-Kitの発現低下,c-Myb,Cebp-β,Hoxa-9など造血転写因子群の抑制をもたらすことも判明した.さらに,AML髄外腫瘤や精製したエキソソームを大腿骨内に直接注入する実験により,HSPC機能の破綻は白血病細胞同士の直接的な細胞間接触とは無関係に引き起こされることも明らかになった.また,最新のプロテオミクス技術により,エキソソームによるHSPC機能の調整に関与する系を特定することができた.これらの実験から,AMLエキソソームは直接的,または間葉系を介して間接的に,残存する正常骨髄機能を抑制し,白血病の骨髄浸潤を進行させることが明らかになった.

 

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2015年7月7日 担当:城田 祐子

Immunity. 2015 Mar 17;42(3):484-98. doi: 10.1016/j.immuni.2015.02.001.

Human monocytes undergo functional re-programming during sepsis mediated by hypoxia-inducible factor-1α.

Shalova IN, Kim JY, Biswas SK, et al.

担当者コメント

敗血症において、これまでに、Hostの免疫が、hyper-inflammationから免疫抑制性と変化し、このことが2次感染への反応の妨げとなり、多臓器不全に落ちいることが報告されてきたが(JAMA. 306 (23). 2011)詳細なメカニズムは不明であった。筆者らはヒトの敗血症における、Monocyteのphenotypeと機能的な re-programmingについて示した。敗血症において、Monocyteは炎症性から免疫抑制性へ変化する。Hypoxia-inducible factor-1a (HIF1α)は、低酸素状態で誘導される転写因子である。このHIF1αが、Monocyteの機能的な re-programmingを調整する役割を持つことを明らかにした。さらに、HIF1αは敗血症において、生体防御的役割を担う。すなわちMonocyteの貪食能, anti-microbial activity, や損傷された組織の再構築を誘導する。このような敗血症を調整するメカニズムが明らかになることが、今後の治療につながる可能性を示唆した。

 

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2015年6月30日 担当:齋藤 慧

J Clin Invest. 2015 Mar 2;125(3):993-1005. doi: 10.1172/JCI75714.

Pluripotent stem cells reveal erythroid-specific activities of the GATA1 N-terminus.

Byrska-Bishop M, VanDorn D, Chou ST, et al.

担当者コメント

GATA1は赤血球、巨核球造血における必須の転写因子であり、健常人において2つのアイソフォームを持つことが知られている。すなわち完全長型GATA1 (GATA1fl)とN末端から初めの83個のアミノ酸(N-terminus)が欠如した短縮型GATA1 (GATA1s)である。GATA1s発現が優位となる変異は先天性低形成貧血やダウン症候群(DS)関連骨髄増殖症である一過性異常骨髄症(transient myeloproliferative disease: TMD)、急性巨核芽球性白血病(acute megakaryoblastic leukemia: AMKL)などの患者で同定されたが、GATA1 N-terminusがどのように造血過程や病態に関与しているかは不明であった。

今回筆者らはDS-TMD、AMKL患者由来のiPSC (induced pluripotent stem cell)とGATA1欠損マウス由来のESC(embryonic stem cell)を用いて、GATA1 N-terminusの機能解析と病態生理の解明を行った。

iPSC分化実験ではGATA1s変異が赤血球造血を障害し、造血前駆細胞が骨髄球系、巨核球系に誘導されることを示した。また造血前駆細胞におけるマイクロアレイ解析ではGATA1s変異群において赤血球系標的遺伝子の発現が低下し、ChIP-seq法ではGATA1s蛋白の結合が特定の赤血球制御領域で障害されていることを示した。今回の研究において患者由来のiPSCは臨床的な特徴をよく反映したことから、ヒト赤血球造血におけるGATA1 N-terminus機能解析に有用なモデル系と考えられる。

 

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2015年6月23日 担当:兼平 雅彦

Science. 2015 Jun 5;348(6239):1160-3. doi: 10.1126/science.aaa1356. Epub 2015 Apr 30.

Aging stem cells. A Werner syndrome stem cell model unveils heterochromatin alterations as a driver of human aging.

Zhang W, Li J, Belmonte JC, et al.

担当者コメント

Werner症候群は早老症の一種であり、老化に伴う身体的変化(白内障、白髪、脱毛、軟部組織の石灰化、皮膚の委縮・硬化等)が思春期以降に急速に出現することが知られている。原因遺伝子として第8染色体短腕上に存在するWRN(RecQ型DNA/RNAヘリカーゼ)が同定されており、WRNの主な機能がDNAの複製、転写、修復、組み換え、ならびにテロメア長の維持であることから、Werner症候群の病態はゲノムの不安定性に起因するものであることが予想されていた。

本論文で筆者らは、WRN欠損ES細胞(ESC-WRN-/-)を作出し、さらにESC-WRN-/-から間葉系幹細胞(MSC-WRN-/-)を誘導し、詳細な解析を行っている。

MSC-WRN-/-は、細胞増殖の停止やSenescence-associated β-galactosidase(SA-β-gal)上昇など、細胞老化の特徴を呈した。そして興味深いことに、全ゲノム上におけるH3K9me3(トリメチル化)領域が減少しており、ヘテロクロマチンの構造維持に異常が生じていた。加えて、WRNはSUV39H1、HP1α、LAP2βなどの分子と複合体を形成し、核膜構造を安定させ、ヘテロクロマチンを核膜内面に保持する役割を担うことが明らかになった。これらの結果より筆者らは、WRN欠損によって誘導される細胞老化は、ゲノム上のH3K9me3の減少とヘテロクロマチンの構造異常によるというモデルを提唱した。そして実際に、若齢者と老齢者より誘導したMSCを用い、老齢者のMSCではWRN、H3K9me3、SUV39H1、HP1α、LAP2βのすべてが減少することを確認した。

本論文により、H3K9me3の減少とヘテロクロマチンの構造異常が細胞老化を誘導する一因であることが明らかとなった。加齢のメカニズムの一端を細胞レベルで解明したという点で興味深い論文であると思われる。

 

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2015年6月16日 担当:近藤 愛子

Nature. 2015 May 11. doi: 10.1038/nature14326. [Epub ahead of print]

PPAR-α and glucocorticoid receptor synergize to promote erythroid progenitor self-renewal.

Lee HY, Gao X, Lodish HF, et al.

担当者コメント

溶血や敗血症、Diamond-Blackfan anemia(DBA)のような遺伝的骨髄不全疾患など多くの急性・慢性貧血は、エリスロポエチン(Epo)に反応を示すCFU-Esがほとんど無かったり、Epoに対する感受性が赤血球造血を維持するのに不十分であったりするため、Epoに治療抵抗性を示す。このような貧血の治療は、より未熟な赤芽球系に作用する薬剤やEpo感受性CFU-E progenitorsの形成促進である。近年、筆者らは特にグルココルチコイドがBFU-Eのself-renewalを促進し、最終的に赤血球産生の増加をもたらすことを示した。

本論文では、PPAR-α(peroxisome proliferator-activated receptor α)の活性が、PPAR-αアゴニストであるGW7647とフェノフィブラートがグルココルチコイドレセプター(GR)に共に作用し、BFU-Eのself-renewalを促進することを示している。これらのアゴニストがin vitroでmouseとhumanのいずれでも成熟赤血球の産生を大いに増加させた。また、in vivoでもPPAR-αアゴニストが溶血性貧血や慢性貧血からの回復を促進した。

PPAR-αのクロマチンサイトはGRのクロマチンサイトと共通している部分が多く、PPAR-αアゴニストを投与するとPPAR-αはGRに近いサイトに誘導され、恐らくGR依存性のBFU-E self-renewalを促進する。

PPAR-αアゴニストがもつBFU-Eのself-renewalの促進作用の発見は、臨床的にEpo治療抵抗性の貧血治療においてステロイドの効果を改善するかもしれない。

 

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2015年6月2日 担当:加藤 浩貴

Cell Stem Cell. 2015 Apr 2;16(4):426-38. doi: 10.1016/j.stem.2015.02.002.

Long non-coding RNAs control hematopoietic stem cell function.

Luo M, Jeong M, Goodell MA, et al.

担当者コメント

これまで造血幹細胞の分化や機能において重要な役割を果たす、転写因子をはじめとした様々なたんぱく質が同定されてきた。一方で近年のヒトゲノム解析の結果、多くのDNA領域が非たんぱく質コード領域であるにも関わらず実際には転写されていることが分かってきた。これらたんぱく質をコードしないRNAの機能としてrRNA、tRNAの他にも、最近では造血幹細胞分化におけるmicroRNAの役割も報告されるようになってきている。しかしながら、たんぱく質をコードしない100-200bp以上の長さを持つnon-coding RNAとして定義されるlong non-coding RNA(lncRNA)の造血幹細胞における役割は依然不明な点が多い。

そこで今回筆者らはマウスのLT-HSCを用いてdeep RNA sequencingを行いHSC特異的なlncRNAの同定を試みた。RNA sequencingの結果159のHSC特異的新規lncRNA(lncHSC)を同定した。各種転写因子におけるpublished ChIP-seq dataと比較した所、約50%のlncHSCが1つ以上の転写因子結合領域をプロモーター領域に有し、うち特に結合領域の多い2つのlncHSC(lncHSC-1,lncHSC-2)を同定した。これら2つのlncHSCのHSCにおける役割を解明する為、Sca1+HSPC(hematopoietic stem/progenitor cells)に対するshRNAによるknockdownを行い、LSKの増殖能及び分化能を解析した結果、lncHSC-1KD-LSKではMyeloid系にlncHSC2-KD-LSKではT細胞系にそれぞれ分化傾向が認められた。さらに、HPC5cell(mouse bone marrow derived MPP cell line)を用いてlncHSC-2のChIP-seq 解析を行ったところ、5’UTRとPromoter領域に比較的シャープなenrichmentを認め、モチーフ解析を行ったところE2Aの結合配列として知られるbHLHモチーフ結合領域に非常によく類似した塩基配列が同定され、lncHSC-2KDによりE2AのDNA結合領域におけるenrichmentの低下が認められた為、lncHSC-2がE2Aと協調して働いている可能性が示唆された。

今回の研究により、新たに159のHSC特異的なlncRNAが同定され、それらの一部が造血幹細胞の増殖、分化に寄与し、また転写因子と協調して働く機能を持ちうることが示唆された。今後、造血幹細胞の増殖、分化及び機能の制御機構を解明するうえで、さらなるlncRNAの理解が重要となる可能性が考えられる。

 

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2015年5月19日 担当:大西 康

Nature. 2015 May 7;521(7550):99-104. doi: 10.1038/nature14424.

Allogeneic IgG combined with dendritic cell stimuli induce antitumour T-cell immunity.

Carmi Y, Spitzer MH, Engleman EG, et al.

担当者コメント

液性免疫がどのような形で抗腫瘍免疫に関連しているかについては不明な点が多い。
CarmiらはB16 melanoma cells (C57BL/6)またはLMP (liver-metastatic pancreatic tumor cells, 129S1)をsyngeneic hostおよびallogeneic hostにinjectする系を用い、allogeneic IgGがこれらの腫瘍細胞に結合して樹状細胞(DC)を活性化しT細胞を介した抗腫瘍効果を誘導していることを示した。腫瘍に浸潤しているtumor-associated DCはallogeneic IgGのみでは抗腫瘍効果を発揮するための活性化を得ることができず、anti-CD40+TNFα、もしくはPoly(I:C)などのimmune stimuliを加えることで有効な活性化が誘導される。また、肺癌や中皮腫などの臨床検体でもallogeneic IgGによるDCの活性化が示されている。Allogeneic IgGによるDCを介した免疫応答は同種造血幹細胞移植領域でも検討すべき知見かもしれない。今後、がん免疫療法への応用が期待される。

 

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2015年5月12日 担当:大橋 圭一

Blood. 2015 Apr 23;125(17):2678-88. doi: 10.1182/blood-2014-06-582924.

Osteoblast ablation reduces normal long-term hematopoietic stem cell self-renewal but accelerates leukemia development.

Bowers M, Zhang B, Bhatia R, et al.

担当者コメント

骨髄ニッチ環境における骨芽細胞が造血幹細胞に与える影響の解明が進んでいるが未だ不完全であり、白血病細胞においての骨芽細胞の影響も未解明である。著者らは骨芽細胞のみをablateするトランスジェニックマウスを用いて、骨芽細胞をablateしたときの造血幹細胞の制御や慢性白血病を発症させたマウスの白血病細胞への影響を研究した。@骨芽細胞をablateしたマウスにおいてlong-term HSC phonotype cellが増加した。A骨芽細胞をablateしたマウスの造血幹細胞を他のマウスに移植すると、移植した幹細胞の末梢血での生着細胞割合がnon-ablate群に比べ少なかった。B慢性骨髄性白血病を発症させたマウスで骨芽細胞をablateすると、末梢血の白血球細胞の増加を認め、non-ablate群と比して生存率の悪化を認めたことから白血病増悪を助長したことが示唆された。
以上の結果は骨芽細胞がlong-term HSCの静止期の制御や自己複製能に関与していることや白血病の病勢に影響を与えていることを裏付けると考えられる。

 

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2015年4月28日 担当:池田 朋子

Arthritis Res Ther. 2015 Mar 2;17(1):39. [Epub ahead of print]

Long-lived plasma cells are early and constantly generated in New Zealand Black/New Zealand White F1 mice and their therapeutic depletion requires a combined targeting of autoreactive plasma cells and their precursors.

Taddeo A, Khodadadi L, Hoyer BF, et al.

担当者コメント

全身性エリテマトーデス(SLE)では自己抗体が病因の1つであり、この自己抗体を分泌するLong-lived plasma cell(LLPCs)は、従来の免疫抑制療法に難治性である。発症前から長期間にわたって、LLPCsは生成されるが、LLPC生成が確立された疾患において、自己抗体産生が継続するかどうかは不明のままである。
彼らは自己免疫疾患モデルマウスであるNZB / W F1マウスにおいて、自己反応性LLPCs含め、LLPCs枯渇後の再生成について解析を行った。
自己反応性LLPCsは4週前または発症前の非常に初期の個体発生時のループスマウスの脾臓および骨髄で確立されており、その後、LLPCsの生成は生涯を通じて継続する。 LLPCsはプロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ単独で枯渇された場合、2週間以内に再生成されるが、シクロホスファミドとボルテゾミブを組み合わせることにより、LLPCsの持続的な排除が可能であった。LLPCsの持続的な排除にはLLPCsの枯渇と再生成阻止の両方が必要であり、シクロホスファミドとボルテゾミブを組み合わせた治療法の確立は抗体媒介性自己免疫疾患における新たな治療戦略になり得ることが示唆された。

 

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2015年4月14日 担当:鴨川 由起子

J Invest Dermatol. 2015 Feb 16. doi: 10.1038/jid.2015.48. [Epub ahead of print]

MicroRNA-31 Promotes Skin Wound Healing by Enhancing Keratinocyte Proliferation and Migration.

Li D, Li X, Landén NX, et al.

担当者コメント

 創傷治癒の過程は4 stageに分かれる。hemostasis, inflammation, proliferation, remodelingの4つである。proliferation phaseでは、創辺縁でのkeratinocyteの遊走と増殖がおこり、創傷部位の再上皮化が促進される。

 miR-31はkeratinocyteの分化に重要な役割を果たす(Mardaryev AN et al. 2010, FASEB J 24:3869–81, Peng H et al. 2012 Proc Natl Acad Sci USA 109:14030–4)。乾癬などの皮膚の慢性炎症疾患や皮膚癌患者における創傷治癒過程で、keratinocyteの過剰な分化が起こり、それによってmiR-31のupregulationが起こることが既に報告されている(Xu N et al. 2012, J Immunol 190: 678–88, Morhenn VB et al. 2013, J Dermatol Sci 72:87–92)。                                           筆者らはinflammatory phaseとproliferative phaseで創辺縁にいるkeratinocyteでmiR-31のupregulationが起こり、target geneであるepithelial membrane protein 1 (EMP-1)を抑制することによって、keratinocyteの遊走と増殖を促進すると考えた。また、創部位ではtransforming growth factor-β2 (TGF-β2)が高発現しており、miR-31の発現を誘導していると考えた。

 miR-31と前駆体であるpri-miR-31はともにproliferative phaseで高発現しており、真皮ではなく表皮でmiR-31は高発現していた。また、miR-31はkeratinocyteのcell cycleを速め、長期間自己複製できるようにすることがわかった。keratinocyteの遊走性も高めることがわかった。

 反対にEMP-1はinflammatory phaseで高発現しておりproliferative phaseでは創傷前のlevelとかわらなかった。EMP-1とmiR-31は負の相関をしていると考えられた。

 keratinocyte の遊走と増殖を調整しているTGF-β2はkeratinocyte のEMP-1の発現を抑制し、miR-31の発現を促進した。

 本研究により、miR-31の創傷部位への治療応用が期待できることがわかった。

 

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2015年4月7日 担当:藤原 亨

Nature. 2015 Mar 23. doi: 10.1038/nature14231. [Epub ahead of print]

Signalling thresholds and negative B-cell selection in acute lymphoblastic leukaemia.

Chen Z, Shojaee S, Müschen M, et al.

担当者コメント

 フィラデルフィア染色体陽性(Ph+)急性リンパ性白血病(ALL)は、t(9;22)(q34;q11.2)転座遺伝子によって発生する予後不良のALLである。t(9;22)転座により、22番染色体上のBCR(Breakpoint cluster region)と9番染色体上のABL1(ABL proto-oncogene 1)が融合してキメラ遺伝子を形成し、産生されるBCR-ABL1融合蛋白質が恒常的にABL1チロシンキナーゼ活性を働かせることが病因と考えられているが、詳細な機序は不明である。
 Ph+ALLの治療においては造血幹細胞移植が基本であるが、イマチニブをはじめとしたチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の併用の有効性が報告されている。さらに近年では、イマチニブ以外のTKIも使われているものの、TKIの効果はしばしば一時的でBCR-ABL1のキナーゼドメインの変異による耐性獲得が問題となっている。

 B細胞はその分化の過程で、自己抗原反応性cloneのようなB細胞受容体(BCR)に過剰なシグナルが入るclone、あるいはBCRが無刺激(non-functional BCR)のままのcloneは排除されると考えられている。著者らは、BCR過剰活性化を介した細胞死誘導が新たなPh+ALLへの治療戦略になるのでは?という観点から以下の点を明らかとした。

@ BCR刺激、あるいはその下流にあるSykキナーゼの活性化により、正常Pre-B細胞には影響を与えることなく、Ph+ALL細胞のみの増殖が著明に抑制され、この増殖抑制作用はイマチニブ添加によりレスキューされた。
A BCR活性制御に関わりうる分子の網羅的な探索を通じて、Ph+ALL細胞ではBCR活性抑制に関わるモチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motifs: ITIMs)を有する膜蛋白質PECAM1、CD300A、LAIR1が高発現しており、これらがBCRを介した受容体刺激を抑制している可能性を示した。
B ITIMの下流にある抑制性ホスファターゼ(INPP5D)に対する阻害剤(3AC)添加により、イマチニブ耐性(T315I)のPh+ALL細胞のSykキナーゼ活性化、細胞増殖抑制を認めた。
(しかし、BCR過剰活性化のアプローチは、INPP5Dの発現を認めない慢性骨髄性白血病には無効であった)

 

 本研究を通じて、BCRの下流にあるSykキナーゼの過剰活性化がPh+ALLの治療戦略としての1つの方法になり得る可能性が示唆された。

 

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2015年3月31日 担当:藤井 博司

Blood. 2014 Dec 11;124(25):3748-57. doi: 10.1182/blood-2014-05-576116.

Exosomal miR-135b shed from hypoxic multiple myeloma cells enhances angiogenesis by targeting factor-inhibiting HIF-1.

Umezu T, Tadokoro H, Ohyashiki JH, et al.

担当者コメント

腫瘍環境における低酸素環境は血管新生を誘導する。その血管新生は低酸素に反応した腫瘍により分泌される液性因子により誘導され、かつ腫瘍の増殖にも寄与する。多発性骨髄腫は腫瘍化した形質細胞が骨髄において増殖する疾患であるが、上記の血管新生の機序もその腫瘍増殖に関与しており、その分子レベルの機序は治療標的にもなりうる。筆者らは慢性の低酸素環境における骨髄腫のモデルとして、低酸素抵抗性の多発性骨髄腫の細胞株を樹立した(MM-HR)。MM-HRはより多くのexosomeを分泌し、そのexosomeは急性の低酸素環境に比べてmiR-135bを多く含んでいた。Exosomal miR-135bはMM-HRにおいて特徴的に発現されており、in vitro, in vivoにおいて血管新生を誘導した。miR-135bはその特異的な標的としてfactor inhibiting hypoxia-inducible factor 1 (FIH-1)を直接的に抑制し、その結果として血管内皮細胞にHIF-1の上昇、血管新生を誘導することが示された。本モデルは、実際の腫瘍環境により近いと考えられる慢性の低酸素環境下においてもexosomeを介した細胞間情報伝達が行われるということを初めて示し、治療開発への応用にも有用となりうる。

 

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2015年3月17日 担当:長谷川 慎

Cell Stem Cell. 2015 Mar 5;16(3):302-13. doi: 10.1016/j.stem.2015.01.017.

CDK6 Levels Regulate Quiescence Exit in Human Hematopoietic Stem Cells.

Laurenti E, Frelin C, Dick JE, et al.

担当者コメント

自己複製能と分裂間隔がそれぞれ異なる静止期造血幹細胞(HSC)サブセットの階層構造により造血は制御されているが、このようなHSCの分裂動態の多様性がどのような分子学的機序によってもたらされているのかは未だ不明である。今回著者らは、ヒトHSCの静止期からの離脱がHSCサブセットにおけるCDK6発現レベルの差異によって制御を受けていることを報告した。LT-HSCとST-HSCはいずれも静止期の状態にあるが、LT-HSCではCDK6タンパク発現を認めない一方、ST-HSCではCDK6タンパクの高発現が認められ、このことが分裂刺激に反応した分裂期への早期誘導を可能にしている。また、LT-HSCにおいてCDK6の強制発現を行うと、静止期からの離脱が早くなり、細胞の機能に影響を与えることなく増殖の優位性を付与することができた。計算論的モデルを用いた解析においても、上記のような静止期離脱に対する独自の制御によりLT-HSCの分裂が制限され、長期に渡る造血の確保に必要なHSCプールの維持が行われていることが示唆された。このように、CDK6発現量の差異が幹細胞の静止状態の不均一性を生み、高度な再生機構の機能的制御を可能にしている。

 

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2015年3月10日 担当:城田 祐子

Nat Med. 2014 Dec;20(12):1458-63. doi: 10.1038/nm.3709.

Immune complexes stimulate CCR7-dependent dendritic cell migration to lymph nodes.

Clatwirthy MR, Aronin CE, Germain RN, et al.

担当者コメント

筆者らは樹状細胞(Dendritic cells: DC) のFcγ-receptor を免役複合体(Immune complexes: IC)で刺激するとDCは末梢組織からdraining lymph nodes へ遊走することを示した。In vitroでICに刺激されたmouseとhumanのDCは、CCL19の濃度勾配に従って遊走し、CCR7の発現を増加させた。彼らはintravital two-photon microscopyを使ってIC刺激後の皮膚DCの遊走をとらえた(in vivo)。この遊走はCCR7の発現に依存し、また抑制性のFcγ-receptor-IIbをknockout することでさらに遊走能が増強された。これらの現象は、全身性エリテマトーデス(SLE)のようなIC沈着を認める疾患の病態に関連している。これまでにヒトSLEではDCの機能異常を認めることが報告されている。また、FcγR-IIbのアミノ酸変異としてT232が知られており、これがSLEの発症と関連しているという報告がある。筆者らはSLEモデルマウスやヒトSLEの血清で皮膚DCを刺激した際にも、末梢組織からdraining lymph nodes への遊走が増強されることを示した。組織へICが異常に沈着するやFcγR-IIbの変異が、自己抗原を認識するDCの過剰な活性化を起こし、自己免疫を活性化してしまう可能性を示唆した。

 

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2015年2月24日 担当:中村 恭平

J Exp Med. 2015 Feb 9;212(2):139-48. doi: 10.1084/jem.20140559.

VEGF-A modulates expression of inhibitory checkpoints on CD8+ T cells in tumors.

Voron T, Colussi O, Terme M, et al.

担当者コメント

T細胞抗腫瘍免疫応答を破綻させる要因として、T細胞疲弊(T cell exhaustion)が近年注目されている。T細胞疲弊は、PD-1、CTLA-4、Tim-3、LAG3を含む免疫checkpoint分子と呼ばれる抑制性受容体群の発現で特徴づけられ、これらの受容体による負の制御がT細胞免疫応答の低下をもたらすと考えられている。近年、メラノーマなどの難治性悪性腫瘍の治療において、checkpoint分子阻害薬が臨床応用され成果を挙げていることからも、今後のがん免疫療法におけるkey targetとなることが期待されている。しかしながら、T細胞疲弊の機序、PD-1をはじめとするcheckpoint分子の発現誘導機構に関してはこれまでほとんどわかっていなかった。本研究において筆者らは腫瘍由来の血管新生因子であるVEGFとVEGF受容体の相互作用が、checkpoint分子を誘導する重要な要素であることを明らかにするとともに、抗VEGF阻害+抗PD-1阻害抗体による併用療法の可能性を見出した。

 

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2015年2月17日 担当:斎藤 陽

Nature. 2015 Jan 29;517(7536):583-8. doi: 10.1038/nature14136.

Genome-scale transcriptional activation by an engineered CRISPR-Cas9 complex.

Konermann S, Brigham MD, Zhang F, et al.

担当者コメント

CRISPR-Cas9系は、ゲノム編集や特定遺伝子の転写調節の強力な手段となることが明らかになっている。F Zhangたちは今回、この系を、内在性遺伝子の転写をゲノム規模で特異的かつ強力に活性化できるように改変し、機能的ゲノム解析の大規模スクリーニングに使えるようにした。この改変CRISPR-Cas9系を用い、黒色腫細胞で活性化によりBRAF阻害剤耐性を与える遺伝子についてゲノム規模のスクリーニングを行った結果、こうしたスクリーニングの実用性が実証され、新たな耐性機構の候補も見つかった。これまでゲノムスケールでのgain-of-functionのスクリーニングは、作成の困難さや、コストの高さなど制約の多いcDNAライブラリーを用いるほかなかった。しかし著者らの実験系を用いることにより、これらの制約を克服できる可能性があり、大変興味深い。

 

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2015年2月10日 担当:兼平 雅彦

Nat Med. 2015 Feb;21(2):140-9. doi: 10.1038/nm.3778.

Myeloid-derived growth factor (C19orf10) mediates cardiac repair following myocardial infarction.

Korf-Klingebiel M, Reboll MR, Wollert KC, et al.

担当者コメント

これまでに、マウスを用いた急性心筋梗塞のモデルである心筋虚血再灌流(ischemia-repurfusion;IR)において、骨髄細胞の冠動脈への接種が症状を軽減するという報告が相次いでいる。これらの報告に共通するのは、骨髄細胞が心筋組織に分化するのではなく、骨髄細胞が産生する液性因子が、傷害を受けた心筋組織の修復を促進するという点である。臨床応用を視野に入れた場合、塞栓等の危険性があるために骨髄細胞の直接接種は行われない。そのため、骨髄細胞が産生する組織修復因子の同定が試みられてきたが、骨髄細胞の単離法がそれぞれの研究施設で異なること、そして産生された多数の液性因子の中から有効な因子をスクリーニングすることが困難であることが大きな障壁となっていた。

筆者らは、急性心筋梗塞の患者由来の骨髄細胞からCXCR4+の分画を単離し、secretome解析と機能スクリーニングを組み合わせることで、第19染色体上のopen reading frameにコードされる分泌タンパク(C19orf10)が、心筋細胞の保護作用と血管新生能を有することを見出し、MYDGF(Myeloid-derived growth factor)を命名した。

MYDGFは骨髄由来の単球/マクロファージにより産生され、梗塞を起こした心筋組織に効率的に遊走していることがマウスならびにヒトにおいて確認された。また、IR誘導マウスへ組換えMYDGFを全身投与することで、梗塞部位の瘢痕形成の軽減、ならびに心機能の回復が認められた。

MYDGFの受容体が同定されていないことや、担癌患者の癌の進展を促進する可能性など、臨床への応用にはクリアすべき点はあるが、一方で、副作用が少なく、心筋梗塞のみならず、脳梗塞や糖尿病における重症下肢虚血など、他の虚血性疾患の治療へも応用が期待される有用な分子であると考えられる。

 

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2015年2月3日 担当:近藤 愛子

Blood. 2015 Jan 21. pii: blood-2014-07-591453. [Epub ahead of print]

In vitro culture of stress erythroid progenitors identifies distinct progenitor populations and analogous human progenitors.

Xiang J, Wu DC, Paulson RF, et al.

担当者コメント

組織の低酸素状態は組織への酸素供給を増やすための全身の反応を引き起こす。この全身の反応の1つが赤血球造血である。通常の赤血球造血はまず恒常的な新しい赤血球を産生し、脾臓で循環血流から古い赤血球が取り除かれることによって古い赤血球と新しい赤血球が入れ替わる。貧血に対する反応は、この通常の赤血球造血とは異なる。貧血では、新しい赤血球はヘモグロビン値を上げるため早急に作られなければならない。この時の赤血球造血はストレス赤血球造血(stress erythropoiesis)が優位となる。ストレス赤血球造血はマウスで最もよく理解されており、マウスでは髄外造血が起こり、通常の赤血球造血とは異なる前駆細胞やシグナルが利用されている。この論文では、in vivoでstress erythroid progenitorsが成長した環境を模したin vitro culture systemを使用している。筆者らはstress erythroid progenitorsの成熟段階に応じた細胞表面マーカーを同定している。さらに、in vitro culture systemを使用して、類似した細胞表面マーカーを発現するヒトのstress erythroid progenitor cellsを増加させている。ヒトのストレス赤血球造血は胎児の赤血球造血と似ているという過去の知見と同様に、ヒトのstress erythroid progenitorsは分化する際にHbF(fetal hemoglobin)を発現する。これらのデータはマウスの骨髄でも同様で、ストレス赤血球造血の状態で培養した時にBMP4依存性のstress BFU-Eを産生する細胞がヒトの骨髄には存在する。

 

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2015年1月27日 担当:鴨川 由起子

Dev Cell. 2014 Dec 22;31(6):722-33. doi: 10.1016/j.devcel.2014.11.012.

An Essential Role for Senescent Cells in Optimal Wound Healing through Secretion of PDGF-AA.

Demaria M, Ohtani N, Campisi J, et al.

担当者コメント

細胞老化は様々なストレスにより誘導され、細胞の増殖を不可逆的に停止することでがん抑制機構としてはたらいていることがわかっている。しかし最近になり老化した細胞は、単に細胞周期を停止しているだけでなく、炎症性サイトカイン、増殖因子、マトリックスメタロプロテアーゼなど種々の生理活性因子を分泌することが示されてきた。近年この現象はSASP (Senescence-Associated Secretory Phenotype) と総称されるようになった。老化細胞がSASPの誘導下でどのように働いているのかいまだ不明な点が多い。

複雑な老化現象の生理学的な役割を理解するために、がん抑制遺伝子であるp16INK4aのsenescence-sensitive promoterにSynthetic Renilla luciferase (LUC), Monomeric red fluorescent (mRFP), Herpes simplex virus 1 (HSV 1) thymidine kinase (HSV-TK)の3種類の蛋白を組み込んだモデルマウス(p16-3MR mouse) と、p16/p21 KO mouseを作成した。

老化した繊維芽細胞と血管内皮細胞は皮膚損傷後早期に応答し、PEGF-AA (platelet-derived growth factor AA) を分泌して筋線維芽細胞の分化を誘導し、創傷治癒を促進することがわかった。
2種類のモデルマウスにより、老化細胞の発現していない創に局所的にrecombinant PDGF-AAを使って治療したが、創の閉鎖は遅延し、筋線維芽細胞の分化も見られなかった。

創傷治癒に関して、SASPが有用な役割を果たしていることがわかり、今後SASPの機能解明に役立てられると考えられた。

 

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2015年1月13日 担当:加藤 浩貴

Nature. 2014 Oct 9;514(7521):242-6. doi: 10.1038/nature13614.

HSP70 sequestration by free α-globin promotes ineffective erythropoiesis in β-thalassaemia.

Arlet JB, Ribeil JA, Courtois G, et al.

担当者コメント

βサラセミアはβグロビン遺伝子の異常によるβグロビン蛋白の合成障害により赤血球の成熟障害を呈する遺伝性の異常ヘモグロビン症の一つである。そのホモ接合体(β-thalassaemia major:β-TM)は小球性溶血性貧血の病態を呈する。これまでにβサラセミアの発症に関与する遺伝子異常は様々知られているものの、赤血球分化成熟障害の直接的な原因となる分子学的メカニズムに関しては不明な点が多かった。筆者らはこれまでに赤血球造血後期において一過性のcaspase-3の活性化が必要である事及びchaperone heat shock protein70(HSP70)が、赤血球造血において重要な転写因子の一つであるGATA-1をcaspase-3による分解から保護していることを明らかにした。そこで、βサラセミアにおいて、増加した遊離αグロビンがHSP70の核内移行を阻害することで、GATA-1のcaspase-3による分解をHSP70が抑制できなくなり、赤血球造血障害が生じるとの仮説の下研究を行った。

まず健常人とβ-TM患者の骨髄細胞中の赤芽球をαグロビン,HSP70,GATA-1で蛍光染色しconfocal microscopy analysisを行った所、β-TM患者において有意に細胞質内のHSP70が増加し,核内のGATA-1が低下していることが示された。次にヒトCD34+細胞を用いたin vitro erythroid differentiation cultureを施行した所、β-TM患者由来の赤芽球では成熟早期に比較して成熟後期の障害が認められ、蛍光染色においても上記と同様に細胞質HSP70の増加と核内GATA-1の低下が認められた。さらにこれらの細胞を用いてimmunoprecipitation-immunoblot analysisやyeast two hybrid assay等を行いHSP70とαグロビンが直接結合している事を示した。さらにnuclear-targeted HSP70(S400A)やcaspase-3による修飾を受けないmutant-GATA1をβ-TM患者由来のCD34+細胞に導入する事で赤血球造血障害が改善されることが示された。

今回の研究によりβ-TM患者の赤血球造血において、増加した遊離αグロビンがHSP70の核内移行を阻害する事で、HSP70によるcaspase-3からのGATA-1分解抑制が障害され、結果として赤血球造血障害がもたらされるという事が明らかになった。この知見により赤血球造血に伴うGATA-1の活性制御機構の一端が明らかになり、また、β-TMの新規治療標的となりうる可能性が示唆された。

 

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2015年1月6日 担当:大西 康

Nat Med. 2014 Dec;20(12):1410-6. doi: 10.1038/nm.3746.

Autosomal dominant immune dysregulation syndrome in humans with CTLA4 mutations

Schubert D, Bode C, Grimbacher B, et al.

担当者コメント

Cytotoxic T lymphocyte antigen-4 (CTLA-4) は免疫応答を負に制御する受容体の一つであり、FoxP3+制御性T細胞(Treg)に高発現する抑制性分子として知られている。2014年9月、Science誌に米国からCTLA-4ヘテロ変異に関連する免疫制御異常(4家系)について報告されたのに続き、Nature Medicine誌にドイツから6家系、14患者のCTLA-4変異(ヘテロ)を有する常染色体優性免疫制御異常症候群について報告された。低ガンマグロブリン血症、易感染性などの免疫不全状態を呈する一方で、難治性腸炎など多彩な自己免疫異常やリンパ球の臓器浸潤を呈する疾患である。CTLA-4 exon1のnon-sense mutation, その他新規のsplice site mutationやmissense mutationが同定された。Clinical penetrance(浸透度)は不完全であり、CTLA-4のヘテロ変異を有していても発症していないキャリアが存在する。興味深いことに、患者およびキャリアにおいてTregのCTLA-4発現が低下しており、Tregの免疫抑制能も低下していることが示された。また、missense mutationの例においてもCTLA-4のリガンドであるCD80のtransendocytosisやCD80-Igのuptakeが低下していた。Nonsense mutationによるCTLA-4発現の量的不足、もしくはmissense mutationによるリガンド結合能低下(もしくは構造的安定性の低下)により、TregのCTLA-4を介した抗原提示細胞に対するCD80/86発現低下作用が障害され、自己免疫異常をきたすと考えらえる。一方で、末梢血中のB細胞減少や低ガンマグロブリン血症の原因は明確にはされていないが、骨髄への活性化T細胞浸潤によるBone marrow niche減少やfollicular helper T細胞からの慢性的刺激でB細胞のexhaustionによる影響が想定されている。今後、本疾患に対するCTLA-4-Igの有効性などの検討が望まれる。