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ジャーナルクラブ

2021年: 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2021年12月28日 担当:岡崎 創志

J Clin Invest. 2021;131(21):e147614

Skin inflammation activates intestinal stromal fibroblasts and promotes colitis

Dokoshi T, et al.

担当者コメント

皮膚の炎症性疾患は、炎症性腸疾患(IBD)としばしば関連する。筆者達はこれらのメカニズムを探るため、IBDのヒトとIBDモデルのマウスの線維芽細胞を対象にシングルセルRNAシークエンスを行った。これらの解析により、腸炎が起こると腸管間質線維芽細胞の抗菌宿主活性を有する前脂肪細胞への分化が促進する事が明らかとなった。更に、この反応性脂肪生成のプロセスはマウスの皮膚が炎症を起こすと増悪した。線維芽細胞から脂肪細胞への分化がヒアルロン酸依存性である事と、皮膚の損傷によりヒアルロン酸の異化が活性化する事から、筆者達はマウス皮膚の基底部ケラチノサイトにヒトヒアルロニダーゼ-1を標的発現させることにより、HA断片が結腸線維芽細胞の機能を変化させるという仮説を検証した。皮膚でのヒアルロニダーゼの発現により腸の間質性線維芽細胞が活性化され、糞便中の細菌叢を変化させ、デキストラン硫酸ナトリウムでチャレンジした後の結腸での過剰な反応性脂肪生成と炎症の増加を促進した。HA断片に対する反応は前脂肪細胞に発現するTLR4に依存していた。これらの結果から皮膚の炎症とIBDの関連性は、皮膚の炎症中で放出されたHA断片を大腸の間葉系線維芽細胞が認識することに起因するのではないかと考えられた。

 

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2021年12月21日 担当:加藤 浩貴

Nature 2021;598:682–687

KDM5B promotes immune evasion by recruiting SETDB1 to silence retroelements Shang-Min

Zhang et al.

担当者コメント

腫瘍は様々な機序で免疫による監視を回避している。免疫チェックポイント阻害剤といったような、腫瘍免疫回避機構を標的とした免疫治療はさまざまな悪性疾患でその有効性が認識されている。しかし、多くの症例で治療への抵抗が認められる。エピゲノム調節因子が抗腫瘍免疫に関わることからは、エピゲノム調節因子を標的とすることで、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高められる可能性が考えられる。今回の研究では、マウスのメラノーマモデルにおいて、ヒストンH3K4の脱メチル化酵素であるKDM5Bがメラノーマの維持と治療抵抗性に関わることが明らかとなった。興味深いことに、KDM5BはH3K4のメチル化の調節ではなく、ヒストンH3K9のメチル化酵素SETDB1の機能を支持することで、MMVL30などの内因性レトロエレメントの発現を抑制し、免疫応答を抑制しているようである。このレトロエレメントの発現抑制を解除すると、cytosolic RNAやDNAのsensing pathwayが活性化され、引き続いて1型インターフェロン反応が起こり、腫瘍の除去と記憶免疫が誘導されると考えられた。これらの結果から、KDM5BやSETDB1は免疫療法の効果を高めるための新しい標的になりうると期待される。

 

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2021年12月14日 担当:猪倉 恭子

Haematologica.2021;106:513-521

Cell free circulating tumor DNA in cerebrospinal fluid detects and monitors central nervous system involvement of B-cell lymphomas

Bobillo S, et al.

担当者コメント

近年、systemic lymphomaでは、血漿中のcell free circulating tumor DNA (ctDNA)レベルが治療効果や転帰と相関することが報告されている。また、脳腫瘍では、脳脊髄液(CSF)中のctDNAレベルが血漿中よりも高いことが示されている。一方、CNS lymphomaにおけるctDNAの役割は明らかになっていない。本論文では、CNS lymphoma 6人、CNSにも病変を認めるsystemic lymphoma 1人、CNSへの浸潤リスクの高いsystemic lymphoma 12人の計19人のlymphomaのCSFと血漿を評価した。腫瘍の体細胞変異を同定するために、全エクソームシークエンスまたはターゲットシークエンスを実施した後、各変異に対してバリアント特異的デジタルPCRをデザインした。CNS lymphomaではCSF中にctDNAが検出されたが、CNSに病変のないsystemic lymphomaでは検出されなかった。一方、血漿中のctDNAは、CNS lymphoma 6人中2人のみに検出され、CSFのctDNAよりも低い変異アレル頻度を示した。さらに、CNS lymphoma 1人、systemic lymphoma 1人で、CNSの再発が確認される3ヶ月および8ヶ月前にCSFでctDNAが検出されており、CSFのctDNAが従来の方法よりもCNSの再発を早期に発見できる可能性が示された。また、CNS lymphomaの2人では、治療後のフローサイトメトリー(FC)によるCSF中の腫瘍細胞は検出感度以下であったが、CSFのctDNAは検出され続けており、CSF中のctDNAはFCの解析よりもCNSの残存病変の検出に優れていると考えられた。以上より、CSF中のctDNAは血漿中のctDNA、またCSFのFCの解析よりCNS病変の検出に有用であった。よってCSFのctDNAをフォローすることにより、CNS lymphomaおよびsystemic lymphomaのCNS再発を予測できる可能性が示された。

 

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2021年12月7日 担当:佐野 沙矢香

Nat Commun. 2021 Jul 6;12(1):4164.  doi: 10.1038/s41467-021-24442-9.

Oncogenic cooperation between TCF7-SPI1 and NRAS(G12D) requires β-catenin activity to drive T-cell acute lymphoblastic leukemia

Thillo QV, et al.

担当者コメント

2017年に小児T-ALLの独立した予後不良因子としてSPI1融合遺伝子が同定された。主要な融合遺伝子の一つとして、TCF7-SPI1融合遺伝子が既に知られているが、白血病の発症にはこの融合遺伝子のみでは不十分である。本研究では、TCF7-SPI1融合遺伝子とNRAS変異の活性化を組み合わせることで、immatureなT-ALL(ETP-ALLではない)を発症することが示されている。
遺伝子改変マウスを用いた骨髄移植実験により、NRAS単独変異ではmatureな表現型のT-ALLを発症するが、TCF7-SPI1融合遺伝子との共存例においてはimmatureな表現型のT-ALLを発症することが明らかになった。また、その表現型の誘導には融合遺伝子のβ-catenin binding siteが必要であり、βカテニン経路の活性化が重要であることが、In vitro/In vivoの両面から示された。
また、TCF7-SPI1融合遺伝子陽性のT-ALL患者検体を用いて、この遺伝子をノックダウンするとimmatureな表現型は消失した。β-catenin/TCF antagonistを投与することでもこの現象は認められ、治療標的となる可能性が示唆された。

 

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2021年11月16日 担当:横山 寿行

J Exp Med. 2021 Dec 6;218(12):e20211872

Dnmt3a-mutated clonal hematopoiesis promotes osteoporosis

Kim PG, et al.

担当者コメント

骨粗鬆症は骨髄に近接した部位に存在する骨芽細胞と破骨細胞の不均衡によって生じる。これまでに炎症性微小環境が骨芽細胞と破骨細胞に影響を及ぼしていることが報告されていたが、その環境が生じる原因については不明であった。筆者らはクローン造血(CHIP)が骨粗鬆症に関与している可能性を考え、本研究を開始した。はじめに、UKバイオバンクのエクソームシーケンス結果を解析したところ、CHIPと骨粗鬆症、骨塩定量の低下が関連していることが明らかとなった。続いて、CHIPで高頻度に見られるDNMT3A変異について、knock-outマウスの解析を行い、変異マウスでは骨量が低下し破骨細胞の増加が認められた。in vitroの解析ではDNMT3A欠失による脱メチル化はオープンクロマチン領域を増加させ、炎症性転写因子の機能が変化させることが示された。骨量の低下はDNMT3A変異骨髄由来マクロファージからの炎症性サイトカインIL-20により引き起こされ、IL-20の機能亢進は発現調節領域への転写因子結合変化、Irf3-NFkBを介していることが示唆された。DNMT3A変異による破骨細胞増加はalendronateやIL-20中和抗体によって改善される可能性も示された。これらの結果は、CHIPが骨粗鬆症を引き起こす炎症性環境の新たな原因となり得ることを示している。

 

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2021年11月9日 担当:川尻 昭寿

Cell. 2021. 184(15):3981-3997.e22. doi: 10.1016/j.cell.2021.05.028.

A local regulatory T cell feedback circuit maintains immune homeostasis by pruning self-activated T cells.

Harikesh S Wong, et al.

担当者コメント

一部のCD4+T細胞はリンパ節で自己抗原を認識してPD-1を発現する。このリンパ球を抑制するためにTregによるクラスターが形成される。PD-1+リンパ球からIL-2が分泌され、このIL-2がTregを刺激することによりネガティブフィードバックが働く。細胞間距離、細胞内シグナルなどパラメータとしてモデル化し、実験結果を機械学習させることによりシミュレーションモデルを作製した。
通常自己抗原反応性のリンパ球は上記のIL-2による抑制を受けていると考えられるが、上記シミュレーションモデルを分析した結果、PD-1陽性細胞-Treg間距離、CTLA-4異常、IL-2受容体異常など多少のパラメータ変化が起きたと仮定すると、より多数の細胞が活性化される可能性が示された。またパラメータ変化量に対してIL-2変化量は比較的線形で増減するが、活性化される細胞は線形に増加するわけではなく、一定のIL-2量を超えると急激に変化することが予測された。
実験モデルで上記の変化を再現し検証したところ、概ね想定通りの結果が得られた。

 

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2021年11月2日 担当:矢坂 健

Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jun 15;118(24):e2024624118.

The dynamic epigenetic regulation of the inactive X chromosome in healthy B cells is dysregulated in lupus patients

Pyfrom S, et al.

担当者コメント

生物学的女性の2本のX染色体のうち1本は、XCIによって不活化されていると一般的には知られているが、実際には組織、細胞、個人によってばらつきを伴いつつも、最大30%のXCI
escape geneが観察されている。
ところで、女性やXXYのKlinefelter syndromeでは、自己免疫疾患のリスクがXY男性よりも高いことが知られており、XCI escapeによる、overexpression of X-linked geneが関与しているのではないかと言われてきた(特に、TLR7やCD40LG)。
XCIのhallmarkとして、XIST RNAという、non coding long RNAが転写され、X染色体に結合するプロセスが知られている。
著者らは、RNA FISH法により、このXIST RNAの観察を行っており、通常の細胞ではXISTが一か所(Xiの場所)に集まって見えるのに対し、免疫細胞においては局在パターンが異なっていることを、ここ数年、報告している。
今回はHuman B cellについて同様の観察を行い、やはりB cellとother somatic cellでは、XIST RNAの局在パターンが異なることを様々なサブセット、活性化状態で報告した。
また、SLEのB細胞についても同様の実験を行い、Healthy femaleとSLE femaleにおける違いについても観察した。in vitroで活性化したときのXISTのパターンで差がみられた。
公開されたRNA-seqのデータから、biallelic expressionを示すX-linked geneを同定したが、それらの多くがSLEではdown-regulateしていることがわかった。
以上からは、XCI escape ⇒ biallelic expression ⇒ overexpressionと、単純な因果関係では結べないことがわかるが、XCIのパターンが異なっていることが、具体的な発現にどのように影響するのかについて、今後も知見が深まることが期待される。

【Abbreviation / Technical Term】
・XCI : X chromosome Inactivation 生物学的女性において、2本のうち1本のX染色体が不活化されること。
・Gene dosage compensation : XCIの結果、X染色体由来の遺伝子発現が、男性と女性で同等になる(という概念)
・Xa / Xi : XCIによって不活化されるX染色体をXi、されない方をXaと表示する
・monoallelic/biallelic expression : 2本の相同染色体のうち、片方だけから遺伝子が発現している状態をmonoallelic、両方から発現している場合をbiallelicと表現する
・XCI escape gene : Xiからの遺伝子発現があるために、biallelic expressionとなっている遺伝子のこと(XCIを免れていると推定される)

 

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2021年10月26日 担当:井樋 創

Nature Immunol 2019;20:183–194

IL-13 secreted by ILC2s promotes the self-renewal of intestinal stem cells through circular RNA circPan3

Zhu P, et al

担当者コメント

「腸管は最大の免疫器官である」と言われる。腸管上皮は未分化な増殖細胞からなる陰窩と、分化の進んだ絨毛という2つのコンパートメントからなる。Paneth細胞は陰窩の底部に存在し抗菌物質の産生により腸管内腔を細菌から守る機能が備わっているが、Paneth細胞にはさまれた形で存在する陰窩底部円柱細胞は永続的に自己複製とすべての分化細胞の産生を行っていることから、腸管上皮幹細胞(Intestinal stem cell; ISC)であることが近年、立証された。この細胞はLgr5(Luecine-rich orphan G-protein coupled receptor)を特異的に発現するため、以下Lgr5幹細胞と記す。

本研究でPingping ZhuらはLgr5幹細胞は環状RNAのcircPan3(Pan3トランスクリプトより生成)を高度に発現することを示した。加えて、Lgr幹細胞でcircPan3を欠失(deletion)させるとその自己複製能を阻害するほか、自己複製能にはILC2(KLRG+ST2+)の存在が関与することを腸陰窩由来のin vitro器官培養系である腸オルガノイド系を用いて示した。Lgr5幹細胞の自己複製能は絨毛径および陰窩あたりのISC数で評価された。circPan3はペプチド生成能を有するが、この生成能を欠失したcircPan3CTG/CTGマウスでは自己複製能は保たれていたことから、生成ペプチドではなく環状RNAに機能性があることが確認された。さらに、Pan3を欠失させたPan3-/-マウスにおいても自己複製能は保たれていた。

また、circPan3-/-Lgr5幹細胞のトランスクリプトーム解析により同細胞でdown-regulationされていた10の遺伝子につきshRNAによるノックダウン(silencing)を行い、腸オルガノイド系で自己複製を顕著に阻害するターゲットとしてIL-13Rα1を同定した。これをもとに、circPan3-/-Lgr幹細胞ではIL-13Rα1が発現低下していることも確認された。circPan3はこれをコードするmRNAのIL13ra1と結合し、これを安定化するほか、IL13ra1のRNAプルダウン系で同定されたKsrpタンパク(KH-type splicing regulatory protein)と競合することがわかった。

最後に、ILC percursor選択的ノックアウトマウスにおける自己複製能低下はILC2移植にて回復し、IL13-/-ILC2移植では回復しないことからILC2由来のIL13分泌がLgr5幹細胞の恒常性に重要であり、circPan3によるIL13raの安定化によりIL13―IL13Rシグナルが成立すること、このシグナルはWnt-βカテニン経路の転写因子Foxp1を介することをStat6-/-(IL13R下流)およびFoxp1-/-マウスでの腸オルガノイド系で実証した。

本研究は腸管上皮幹細胞におけるILC2由来IL13―IL13Rシグナルの存在、およびnon-coding RNAであるcircPan3の機能性を示した点に新規性があるものと考えられた。

 

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2021年10月19日 担当:渡邊 正太郎

Leukemia. 2021 Sep 28. doi: 10.1038/s41375-021-01421-z

Reverted exhaustion phenotype of circulating lymphocytes as immune correlate of anti-PD1 first-line treatment in Hodgkin lymphoma

Garcia-Marquez MA, et al.

担当者コメント

古典的ホジキンリンパ腫(HL)は抗PD1抗体に対して極めて感受性良好であるが、その正確な機序に関しては諸説ある。HLの初回治療として抗PD1抗体を投与した際の末梢血中のリンパ球の表現型や全身への影響を解明するため、筆者らはNIVAHL試験に登録されたHL81例についてフローサイトメトリー、FluoroSpotアッセイ、nCounterによる解析を行い、さらに正常コントロールとの比較を行った。HL患者においてはCD4T細胞分画の減少と、エフェクターメモリーT細胞の増加、共刺激マーカーの発現上昇が治療開始前に見られた。驚くことに、固形腫瘍とは異なり解析した16のうち10の抑制性分子(PD1, LAG3, Tim3など)において発現上昇が見られた。全体として、抗PD1抗体による治療中は疲弊したT細胞の持続的な減少が見られた。FluoroSpotアッセイにより、42.3%の症例において解析した5つの腫瘍関連抗原のうち1つ以上に対してT細胞の反応が見られることが分かった。重要なことに、これらの反応は抗PD1抗体に対する初回治療効果が良好な症例でより頻繁に見られた。まとめると、HL診断時に存在した疲弊したリンパ球が抗PD1抗体による初回治療中に速やかに元の状態に回復した。頻繁に見られた腫瘍関連抗原に対するIFN-γの反応はT細胞を介した細胞障害性を示唆し、HLにおける免疫の監視と細胞治療の重要な資源となりうる。

 

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2021年10月12日 担当:大地 哲朗

EMBO Rep 22:e50535.

A splicing factor switch controls hematopoietic lineage specification of pluripotent stem cells.

Li Y, et al.

担当者コメント

真核生物にはRNAスプライシングパターンを変化させることで1種類の未成熟mRNAから複数種類の成熟mRNAを作り出すことができる選択的スプライシングという機構が備わっている。この現象は複数のエクソンを有する遺伝子の約92-94%で認められるとされており、限られた数の遺伝子から多様なトランスクリプトームを作り出すことで多種多様な蛋白質の発現を可能にしている。選択的スプライシングは様々な細胞の分化においても重要な役割を果たしており、血液領域でも各血球系統への正常な分化過程において選択的スプライシングの調節が重要であることが知られてきている。一方、より未分化な、造血細胞への分化が運命付けられていない胚性幹細胞から造血細胞への分化が開始される段階においてもスプライシングの調節が重要であるかは分かっていない。そこで筆者らはin vitroで胚性幹細胞から造血幹細胞まで分化させる実験系を用いてスプライシングパターンの変化が造血細胞への初期分化において果たす役割について研究を行った。
胚性幹細胞は側板中胚葉(アプリン受容体陽性細胞APLNR+)からhemangioblast、血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells; EPC)/ 造血性血管内皮細胞(hemogenic endothelial progenitor cells; HEP)を経て造血幹細胞(HSPC)へと分化するが、まず筆者らは各段階において選択的スプライシングの解析を行い、APLNR+からEPC/HPCへの分化過程でスプライシングパターンの変化が生じていることを確認した。次にスプライシング阻害剤投与による分化後HSPC割合への影響を観察し、APLNR+からEPC/HPCへの分化時期におけるスプライシング阻害が大きな影響を持つことを確認した。分化前後での発現変動遺伝子に含まれるスプライシング関連遺伝子SRSF2に着目して実験を進めた。
分化誘導系におけるSRSF2強制発現、SRSF2ノックダウンなどを通してEPC/HPCに分化する際にSRSF2発現が低下していくことが重要であると考えた。更に分化前後でスプライシングパターンが変化した遺伝子、大きく発現量が増加したトランスクリプトバリアントを有する遺伝子を抽出した中に含まれたNUMBに着目した。NUMBは細胞の分化過程において大きな役割を果たすNOTCHシグナル伝達系の抑制因子であり、抑制作用の異なる複数のバリアントが存在することが知られている。
NUMBにはエクソン9を含むNUMB_Sとエクソン9を含まないNUMB_Lのバリアントが存在し、分化前後でNUMB_L優位からNUMB_S優位への変化を確認した。また、この選択的スプライシングの変化がSRSF2の発現変動による事象であることも確認した。エンリッチメント解析によりスプライシング阻害により発現変動した遺伝子群にはNOTCHシグナル伝達系遺伝子が豊富に含まれていた。最後にNOTCHシグナル阻害薬により分化後のHSPC割合が減少したことから側板中胚葉から造血細胞への運命決定においてSRSF2発現低下によるNUMBのスプライシング変化がNOTCHシグナルの抑制を解除することが重要であるとの仮説を立てた。この研究結果は再生医療におけるより効率的な造血細胞産生に役立つ可能性がある。

 

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2021年10月5日 担当:秋田 佳奈恵

Nat Commun. 2021 Aug 10;12(1):4813. doi: 10.1038/s41467-021-25102-8.

Altered function and differentiation of age-associated B cells contribute to the female bias in lupus mice

Edd Ricker et al.

担当者コメント

ウイルスやSLEのような自己免疫疾患に対する免疫応答の差には、性的二形性がみられる。年齢関連B細胞(Age-associated B cell:ABC)は抗ウイルス応答や自己免疫疾患に重要なCD11c+T-bet+B細胞の集団である。2つの相同的なグアニンヌクレオチド交換因子であるDEF6とSWAP-70をダブルノックアウト(Double-Knock-out:DNO)で欠損させたマウスでは、ABCの蓄積により主にメスにループス様症状を引き起こす。上記のDNOマウスのABCは、細胞数、ISG(Interferon Stimulated Gene) signature、分化において性特異的な相違を示した。BCRシークエンスやフェイトマッピング*の解析により、DNOマウスのABCはオリゴクローナルな増加を経て、病原性や炎症誘発性を伴うCD11c+とCD11c−の両方のエフェクターB細胞**へ分化することが示された。DNOのオスでTlr7を重複発現させると、性的偏向が無効になり、ABCの播種や病原性がさらに増加し、結果的に早期の死亡等に至った。性的二形性は、TRL7により引き起こされる免疫病原性に付随して起こるABCの増加、機能、分化を方向付けることが示唆された。

*フェイトマッピング:ある細胞の発生段階での起源を解析するための方法。Cre-LoxPなどの技術を用いてGFPなどの蛍光タンパク質やLacZなどのレポーターを,特定の時期や起源の細胞に由来する一群の細胞に発現させる遺伝子改変マウスを作製し、レポーターの発現を解析することで、その細胞の起源を明らかにする。この論文では、上記のDKOマウスとTbet-zsGreen-T2A-CreERT2-Rosa26-loxP-STOP-loxP-tdTomatoマウス(ZTCE-DKO)を掛け合わせたものを使用している。

**エフェクターB細胞:自己反応性 B細胞は,分化過程での複数のメカニズムを介して自己寛容となるが、それが破綻してエフェクター機能(抗体産生、抗原提示、共刺激、サイトカイン産生など)を発動することにより自己免疫疾患が発症する。

 

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2021年9月28日 担当:小野 浩弥

Nature Communications (2021) 12:5311

Gene interfered-ferroptosis therapy for cancers

Gao J, et al.

担当者コメント

血液悪性腫瘍を含むがんは、様々な治療法がある一方で薬剤抵抗性や治療不応によりヒトの健康や生命を脅かす。本論文ではフェロトーシスにもとづく新しいがん治療法が報告されている。筆者らは、Cas13aまたはmiRNAをNF-κB特異的プロモーターで制御することで,細胞内からの鉄排出を担うFPNおよびLCN2発現をがん細胞で選択的にノックダウンした。同時に,がん細胞を鉄ナノ粒子で処理することで白血病をふくむがん細胞に劇的なフェロトーシスを誘導した。この遺伝子干渉と鉄ナノ粒子による処理は、正常な細胞にほとんど影響しなかった。筆者らはさらに、ウイルスベクターを使った遺伝子干渉と鉄ナノ粒子投与によってマウスの腫瘍増殖を長期間抑制できることを示した。この研究によって、遺伝子干渉によるフェロトーシス誘導ががん治療の新たな選択肢となる可能性が示された。

 

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2021年9月21日 担当:藤原 亨

J Exp Med. 2021; Oct 4;218(10):e20202317

Helios represses megakaryocyte priming in hematopoietic stem and progenitor cells

Cova G, et al.

担当者コメント

近年のsingle cell RNA-seqを用いた造血細胞解析を通じて、造血幹細胞(HSC)と定義していた細胞の一部は高い巨核球分化能を有しており、生体の需要に応じた巨核球産生制御はHSCとその近傍レベルで行われているという、従来型の階層型血球分化モデルでは説明できない新しい血球分化モデルが提唱された。しかしながらHSCからの直接の巨核球分化制御に関わる分子メカニズムは不明であった。

著者らは、制御性T細胞の分化・機能に重要であるHelios(Ikzf2遺伝子にコードされる)がHSCにおいて高発現を呈している点に着目した。Heliosノックアウトマウスの造血幹・前駆細胞は巨核球系への有意な分化指向性を示し、一方でリンパ球数の低下を呈した。この傾向は、加齢マウスでより顕著な傾向が見られた。遺伝子解析の結果、Heliosはクロマチン凝縮を促すことでHSCにおけるGATA-2/RUNX1を介した巨核球系遺伝子の活性化を抑制している可能性が示唆された。しかしながら、Heliosがいかにクロマチン凝集に寄与するか、その分子機序は不明である。さらに、今回はマウスを用いた解析のため、ヒトにおけるHeliosの意義は不詳であり今後のさらなる解析が必要である。

 

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2021年9月7日 担当:藤井 博司

J. Exp. Med. 218(5) e20201138, 2021

Autoantibody-mediated impairment of DNASE1L3 activity in sporadic systemic lupus erythematosus

Hartl et.al.

担当者コメント

抗dsDNA抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)、特にループス腎炎を伴う患者血清中に認められる。しかし、in vivoにおける抗原としてのcell-free DNA (cfDNA)の性質や調節についてはよく分かっていない。ヒトにおいて、DNsaseである分泌型DNASE1L3の遺伝的欠損は抗dsDNA抗体活性を有する遺伝性SLEの原因となる。本論文では、散発的(非遺伝性)なループス腎炎を有するSLE患者の50%以上で血漿中のDNASE1L3活性が低下しており、活性中和型自己抗体である抗DNASE1L3抗体を伴っていることを示した。これらの患者の血漿中の総cfDNAの量は健常人と変わらないが、血中のmicroparticle内のcfDNAは増加していた。microparticle上のDNASE1L3感受性抗原に対する自己抗体がループス腎炎患者血中に認められ、cfDNAのmicroparticle内への蓄積と疾患活動性は相関を認めた。DNASE1L3感受性抗原にはHMGB1のようなDNA-associated proteinも含まれる。これらの結果から自己抗体によるDNASE1L3活性の阻害が通常(非遺伝性)のSLEにおける抗dsDNA抗体を誘導する機序の一つであることが示された。

 

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2021年7月27日 担当:福原 規子

Blood 2021 Jun 29; ;blood.2020010527. doi:10.1182/blood.2020010527.

SOX11, CD70 and Treg cells configure the tumor immune microenvironment of aggressive mantle cell lymphoma

Balsas P, et al.

担当者コメント

マントル細胞リンパ腫(MCL)は、t(11 ;14)(q13 ;q32),CCND1転座が特徴的な成熟B細胞リンパ腫であり、臨床的にはaggressive lymphomaに分類されるが、一部にindolent MCLと呼ばれるタイプもあり、生物学的・臨床的多様性が示唆されている。転写因子であるSOX11は、MCL9割に発現しており、リンパ腫細胞と間質細胞の相互作用を含む複数の作用により、リンパ腫の悪性度に影響すると考えられている。近年腫瘍微小環境が注目されているが、MCLでは未だ明らかでなく、さらにSOX11発現やリンパ腫細胞への影響についても不明である。
本解析では、SOX11陽性MCLと陰性MCLのリンパ節病変について、非腫瘍性の反応性リンパ節をコントロールとして、nCounterを用いた免疫関連遺伝子(730遺伝子)のトランスクリプトーム解析と免疫組織染色による免疫細胞の表現型解析を組み合わせた統合解析を行った。SOX11陽性MCLは、陰性MCLと比べ、T細胞の腫瘍内浸潤が有意に低かった。MHCI/IIやT細胞の共刺激とsignal activation関連mRNA発現低下は、臨床的な予後不良因子であった。更に、CD70はSOX11のdirectな標的遺伝子であり、SOX11陽性MCLではCD40L投与下でCD70過剰発現が誘導され、SOX11陰性MCLでは誘導されなかった。CD70は、SOX11陽性MCLで過剰発現し、effector Tregの浸潤や増殖、aggressiveな臨床経過を特徴とする腫瘍免疫微小環境に関連する。以上から、MCLにおけるSOX11の発現は、CD70過剰発現を通して、Treg細胞の浸潤や抗原提示、T細胞活性化の低下を特徴とする免疫抑制的な腫瘍微小環境をもたらすと考えられ、MCL進行を抑える新たな治療標的となりうるだろう。

 

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2021年7月20日 担当:白井 剛志

Nature Metabolism. 2021;3:618-635.

Mitohormesis reprogrammes macrophage metabolism to enforce tolerance

Timblin GA, et al.

担当者コメント

マクロファージは、TLR依存性の抗微生物免疫反応として、ミトコンドリアROSやRESを産生する。これらの分子によるミトコンドリアストレスが、マクロファージの機能に影響を与えるかは分かっていない。本論文では、薬剤とLPSの両者に誘導されるミトコンドリアストレスが、Mitohormesisと呼ばれるストレス反応をマクロファージにおいて引き起こすことを報告している。マクロファージは、LPS反応後に再度LPSを用いた2次刺激に不応となり、前炎症性遺伝子の転写が障害されるLPS寛容状態となる。このLPS寛容状態への移行に際して、mitohormetic stress adaptationが起こるため、この寛容はmitohormesisにより誘導される可能性が考慮される。LPSと同様、ヒドロキシエストロゲンにより誘導されるmitohormesisが、ミトコンドリアの好気的代謝と、ヒストンのアセチル化や前炎症性遺伝子転写に必要であるアセチルCoAの産生を抑制し、LPS寛容状態をもたらす。したがって、ミトコンドリアROSやRESは、TLR依存性のシグナル分子として、炎症を寛容へと制御する抑制性フィードバック機構としてmitohormesisを誘導する。更に、TLR依存性シグナルを回避し、薬剤によりmitohormesisを誘導する事が、ミトコンドリアによる前炎症性遺伝子転写へのエピジェネティックな供給を阻害することと合わせて、新たな抗炎症戦略となりうる可能性がある。

 

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2021年7月13日 担当:大西 康

Nature 2021,592, 290

Monocyte-derived S1P in the lymph node regulates immune responses

Audrey Baeyens, et al.

担当者コメント

生体膜を構成するスフィンゴ脂質の代謝産物であるSphingosine-1-phosphate (S1P)はスフィンゴシンキナーゼ(SphK)と呼ばれる酵素によって産生される。多くの細胞膜上に発現しているS1P受容体に結合することで、chemoattractantとして働く。さまざまな種類の細胞で作用することが知られているが、T細胞のトラフィッキングに重要である。定常状態においてリンパ節などの組織ではS1P濃度は低く、リンパ管(リンパ液)の濃度は高く、この濃度勾配を利用してT細胞はリンパ節からリンパ管へと移動する。一方で免疫反応早期におけるリンパ節のS1P濃度については不明なままであった。筆者らはS1P sensorとしてT細胞上にS1P受容体とS1Pの結合を検出できる系を用いて免疫反応時のS1P-S1PR1の系について解析している。免疫応答が起きるとiMo(炎症性単球)からS1Pが産生され、T細胞はリンパ節内に長く留まることが分かった。iMoがS1Pを供給していることは予想外の所見であった。iMoによるS1Pの産生はCD69発現と関連したS1PR5発現の低下が重要である。S1P受容体のmodulatorであるfingolimodは多発性硬化症の治療に応用されている。マウスのEAEモデルにおいても、iMoのS1P産生やCD69をノックアウトすることでEAEのスコアが低くなることが示されており、免疫疾患においてS1P-S1PR1やiMoの作用を修飾することで治療につながる可能性がある。S1P受容体のmodulatorとして多くの薬剤が開発され、多発性硬化症以外のさまざまな疾患に対する臨床試験が施行されている。免疫細胞療法においてもS1P-S1PR1系がどのように作用するかを解析することは重要かもしれない。

 

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2021年7月6日 担当:市川 聡

Science. 2021 Apr 2;372(6537):eaba1786.

Transient rest restores functionality in exhausted CAR-T cells through epigenetic remodeling

Weber EW, et al.

担当者コメント

T細胞は刺激され続けると疲弊して機能を失う.この”T細胞疲弊(T-cell exhaustion)”は腫瘍免疫も制限し,キメラ抗原受容体(CAR) T細胞療法に抵抗性を獲得する一つの機序となると考えられている.今回筆者らは,持続的なCARシグナルによりT細胞疲弊の特徴が現れるように設計されたマウス異種移植モデルとin vitroモデルを用いて,CARシグナルを一時的に休ませることがT細胞疲弊の進行あるいは維持にどのような影響を及ぼすのかを解析した.薬剤による発現制御システムやマルチキナーゼ阻害薬dasatinibを用いて,CAR蛋白の発現を強制的に抑制することによりCARシグナルを途絶させたところ,メモリーT細胞に見られるような表現型に変化し,さらに全般的な転写及びエビゲノムのリプログラミングが生じ,最終的にCAR-T細胞の抗腫瘍効果が回復した.CAR刺激を休ませること(rest)により,T細胞疲弊に陥ることが回避され,最終的にCAR-T細胞の抗腫瘍効果が高まることが示された.これは,T細胞疲弊はエピジェネティックに固定した状態であるという通説を覆しうる知見とも考えられた.

画期的な細胞治療として脚光を浴びたCAR-T療法だが,実際のところ持続的に抗腫瘍効果を発揮し治療が成功していると言える例は半分にも満たず,さらに固形(非血液)腫瘍に対しての成功例はほとんどなく,様々な課題に直面しているのが現状と言える.CARの中身を改良する研究も世界中で様々行われているなか,本研究は別の視点からCAR-T細胞の機能を賦活化させる興味深い試みであり,さらに既存の薬剤を用いて効果を示しているところが,臨床における実用性の面からも期待値の高い研究と思われた.

 

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2021年6月8日 担当:加藤 浩貴

Science 372, 716–721 (2021)

Cell-specific transcriptional control of mitochondrial metabolism by TIF1g drives erythropoiesis

Rossmann et al.

担当者コメント

TIF1​γ(transcriptional intermediary factor 1 gamma)はRNA polymerase IIの機能調節などを介して、赤血球造血に重要であることが知られている。TIF1​γ欠損による赤血球造血障害の詳細な機序を明らかにするために、今回筆者らはTIF1​γを欠損したゼブラフィッシュ (mon) を用いて、monの造血障害を回復させる薬剤をスクリーニングした。その結果大変興味深いことに、ミトコンドリアでのピリミジン合成に関わる酵素DHODHの阻害剤がmonの造血障害を回復させることを発見した。さらに解析を進めたところ、TIF1​γ欠損はCoQ合成酵素の発現低下を惹起し、それに伴うCoQ低下がミトコンドリア呼吸やTCA回路の障害をもたらしていることを発見した。これらの代謝障害は、細胞内のα-KG量を低下させ、これがヒストンやDNAのメチル化を上昇させ(α-KGはヒストンやDNAの脱メチル化酵素の活性に必要と考えられている)、ひいては遺伝子発現障害と赤血球造血障害の原因になっていると考えられた。DHODHの阻害により、TIF1​γ欠損で低下したCoQが消費されなくなることで、赤血球造血が改善したと推察される。DHODHの阻害剤がTIF1​γ欠損による赤血球造血障害を改善させることから、(DHODHがミトコンドリアで働く酵素なので)TIF1​γとミトコンドリア機能に関する関連性の発見に至った点が本研究の特殊性と考えられた。また、赤血球造血において、代謝と(エピゲノム変化による)遺伝子発現調節がミトコンドリア呼吸を介して繋がった点が新しいと考えられた。一方で、TIF1​γの既知の機能は、RNA polymerase IIの機能調節であるが、なぜ今回の系ではミトコンドリア (特に呼吸鎖) 関連遺伝子の発現に特異的に関わるのか、ヒストンやDNAのメチル化の上昇がなぜ赤血球造血を障害するのか、などについてはさらなる研究が必要と考えられた。

 

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2021年3月16日 担当:藤原 亨

Cell. 2021;184:1-14.

A role of PIEZO1 in iron metabolism in mice and humans.

Ma, et al.

担当者コメント

遺伝性有口赤血球症は、形状が口様に変形した赤血球と溶血性貧血を主徴とする疾患で、原因遺伝子の一つとしてメカノセンサーチャネルであるPIEZO1の機能獲得型変異が知られている。さらに本疾患では晩期発症型の鉄過剰症を呈することも報告されているが、PIEZO1の異常がいかにしてこの病態と関わるかは不明であった。

機能獲得型Piezo1変異を有するモデルマウスを解析した結果、赤血球自体の変異ではなくマクロファージにおけるPiezo1の変異が晩期発症型の鉄過剰症に深く関わることを見出した。マクロファージ特異的Piezo1変異マウスでは、マクロファージによる赤血球貪食能が亢進しており、これに伴う代償性の赤血球造血の亢進→ERFEの上昇→ヘプシジン産生抑制を認め、慢性的に鉄負荷に対する代償能が低下した状態が長期に続くことが最終的に鉄過剰症に関わるものと想定される。この分子機序ついては、PIEZO1機能獲得型変異に伴うカルシウムイオンの流入増加が、マクロファージ貪食能の制御に深く関わるRac1を活性化している可能性が示唆されている。

アフリカ人の約1/3においては、軽度のPIEZO1機能獲得型変異(E756del)を認め、マラリアに対する感染力低下と関わることが既に報告されている(Ma et al. Cell 2018)。今回の研究を通じてPIEZO1 (E756del)変異陽性の症例では変異を持たない対照と比較して、将来的には鉄過剰症の有意なリスク因子であることを明らかとした。

 

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2021年2月16日 担当:市川 聡

Nature. 2021:590;157–162.

Mechanism of EBV inducing anti-tumour immunity and its therapeutic use

Choi IK, et al.

担当者コメント

腫瘍関連抗原(tumor-associated antigens; TAAs)は,悪性腫瘍の存在下でT細胞に認識される変異のない抗原で,様々な細胞内分子が含まれる.長年にわたり,このTAAが免疫療法の標的となる可能性について研究されているが,TAA特異的なT細胞の起源については明らかとなっていない.また最近の研究において,腫瘍細胞がT細胞をプライミングするTAAの重要な供給源となりうる一方で,Epstein-Barrウイルス(EBV)やインフルエンザウイルスを含めたある種のウイルスの感染が,TAAとして機能しうる細胞内抗原の異常発現に対するT細胞反応を惹起する可能性も指摘されているが,その分子生物学的基盤は明らかとなっていない.今回筆者らは,B細胞におけるEBVのシグナル伝達タンパク質であるLMP1の発現が,複数のTAAに対するT細胞反応を惹起することを示した.LMP1シグナル伝達は,既にTAAとして知られているの多くの細胞内抗原の過剰発現,それらのMHCクラスIおよびクラスII上への提示(主に内因性経路による),CD70およびOX40Lといった共刺激リガンドの発現の亢進,そして細胞障害性CD4陽性およびCD8陽性T細胞反応を惹起することが明らかとなった.これらの結果は,感染により誘発性される腫瘍免疫のメカニズムを浮き彫りにしたと考えられる.さらに,LMP1を患者由来の腫瘍性B細胞に異所性に発現させてT細胞をプライミングすることにより,TAAや様々な内因性腫瘍抗原に対する自己由来の細胞障害性CD4陽性 T細胞を産生し,B細胞腫瘍を治療するアプローチ方法を示した.この研究は,ウイルスと腫瘍の免疫の関係性についての新たなコンセプト,癌免疫療法における新たなアプローチを提唱している可能性がある.

 

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