写真  トップページ   写真  医局員専用   写真  サイトマップ

 

 

写真

写真

TOPジャーナルクラブ > ジャーナルクラブ 2018年

ジャーナルクラブ

2018年: 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2018年12月18日 担当:井樋 創

Immunity 2018 Nov 20; 49(5):943-957

An Interleukin-23-Interleukin-22 Axis Regulates Intestinal Microbial Homeostasis to Protect from Diet-Induced Atherosclerosis.

担当者コメント

ヒトの腸管内には1000種, 100兆個を超える腸内細菌が存在する.
腸管にはこれらの細菌が形成する腸内細菌叢(microbiota)や病原体に対する防御機構が存在し, 恒常性を維持している.

この腸内細菌叢の構成菌種, バランスの変容(dysbiosis)はIBDや過敏性腸症候群のみならず, 多発性硬化症, パーキンソン病,関節リウマチなど様々な疾患との関連が報告されている.

腸内細菌叢の変容は宿主のサイトカイン産生の制御に関与すること、その反対にサイトカインシグナルがhost-microbiota相互作用に影響することが報告されてきた(Belkaid
2014, Kamada 2013).

IL-17はIFN-γ非依存性の免疫応答においてキーとなる分子であり, 自己免疫疾患(多発性硬化症や関節リウマチなど)に加え,動脈硬化との関連が報告されている(Taleb 2010).

IL-23はTh17サブセットの誘導を通したIL-17の産生に重要な分子と考えられている.

筆者らはIL-23の動脈硬化における役割を明らかにするため,LDLR-/-(動脈硬化モデル)マウスにIL-23-/-マウスの骨髄細胞を移植しIL-23シグナルの欠損したIL23-/-→LDLR-/-マウス(以下,IL-23欠損マウス)を誘導した. 本論文の主要な結果は以下.

T. IL-23は動脈硬化に抑制的にはたらく: IL-23欠損マウスにおける大動脈基部プラーク面積,動脈内に沈着した免疫細胞(Tcell, Myeloid cell)量の増悪を認めた.

U. IL-23欠損マウスの腸内細菌叢は変容している: マウス盲腸の全ゲノムシークエンス解析をIL-23欠損マウスに施行すると,WT→LDLR-/-マウスと異なり炎症を惹起するKlebsiella sp, Clostridiaceae等の増多を認めた.

RT-PCRで腸管庇護性タンパクのREGIIIγ, Mucin2等の減少を認めた.

IL-23欠損マウスからWTへの便移植ではIL-23欠損同様の動脈硬化を認めた.

V. IL-23欠損マウスはWT→LDLR-/-マウスと異なる代謝活性を有する:IL-23欠損マウスの盲腸に16SrRNA解析を施行したところ, LPS assembly protein A domainの活性亢進を認めた. 血清サンプル中の代謝産物を超高速液体クロマトグラフィ装置で解析しTMAO産生経路の亢進を認めた.

W. IL-23欠損マウスにおけるオステオポンチン(OPN)産生亢進:IL-23欠損マウスでは大動脈内のOPN遺伝子(Spp1)の発現上昇を認めた.

WTマウスにLPS/TMAOを腹腔内投与するとSpp1発現が上昇した.

以上のことから, 筆者らはIL-23シグナルが腸内細菌叢の恒常性の維持に必要であり,この変容は腸内細菌叢の代謝活性変化を通じて動脈硬化に寄与することを示した.

ページトップへ

 

2018年12月11日 担当:大地 哲朗

Blood Adv. 2018 Aug 14;2(15):1998-2011.

Induced pluripotent stem cell-based mapping of β-globin expression throughout human erythropoietic development.

Vanuytsel K et al.

担当者コメント

11番染色体上には5’側よりε globin、γ globin、δ globin、β globinの順でβ like genesが並んでいる。胎生期、新生児期、成人と成長するに伴い発現するβ like genesが5’側から3’側(ε->γ->β)へとシフトするが、この現象はglobin switchingと呼ばれている。Globin switchingに伴いヘモグロビンも胎生期、新生児期のHbG、HbFから成人Hbの大部分を占めるHbAへと変化する。ヒトiPS細胞/ES細胞由来の赤芽球系細胞は疾患モデル樹立や輸血用製剤の作成への応用が期待されており、形態や細胞表面抗原の発現パターンにおいてはヒト赤芽球と同等であるが、β globinの発現量増加は認められず、globin switchは再現できていない。β globin発現はRT-PCRやウェスタンブロット、フローサイトメトリー(FACS)などで行うことができるが、前2者は細胞集団での評価しかできない点が問題であり、FACSでは単一細胞における発現解析が可能であるものの抗原の特異性、生細胞解析、トランスクリプトーム解析の困難さが課題である。そこで筆者らはiPS細胞においてゲノム編集技術(TALENs)を用いてβ globin遺伝子プロモーター下流にGFP cassetteを挿入することでβ globin reporter iPS細胞株を樹立した。この細胞株を赤芽球系に分化させた後にGFPによるsortingを行い、GFP陽性(β globin発現)細胞とGFP陰性(β globin非発現)細胞それぞれにおいてsingle cell RNA sequencingを行った結果を解析した。GFP陽性細胞は全体の約1%と非常に少数であったが、GFP陰性細胞と比較してβ globin発現が有意に上昇していた。また、Monocleを用いた遺伝子発現パターンの擬似時間解析によってGFP陽性細胞はGFP陰性細胞よりも成熟した形質を有することが確認され、これまでに行われている細胞集団全体を対象とした解析におけるβ globin発現上昇の大部分を極一部の、より成熟傾向を示す細胞が担っていることが明らかとなった。本手法がiPS細胞由来赤芽球系細胞のβ globin発現に関する研究やサラセミア、鎌状赤血球症などの疾患メカニズム解明につながることが期待される。

ページトップへ

 

2018年11月20日 担当:小野 浩弥

Blood 2018, doi:10.1182/blood-2018-05-853291

TET2 deficiency leads to stem cell factor dependent clonal expansion of dysfunctional erythroid progenitors.

担当者コメント

骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローン性疾患であり、無効造血を特徴とする。MDS患者は貧血を伴うが、その赤血球造血不全にいたる詳細な分子機構は未解明である。最近の研究で、MDS患者の遺伝子異常としてDNA脱メチル化酵素TET2におけるヘテロ接合性機能喪失型変異が最も多いこと、TET2欠損が赤血球分化を妨げることが示された。しかし、赤血球造血においてTET2が果たす役割およびその機序は考察されてこなかった。
本論文で、筆者らはTET2異常が初期にはstem cell factor(SCF)依存性のヒトCFU-Eの過剰増殖・分化障害を引き起こすことを示した。これにはSHP-1(c-Kitの負の調節因子)の発現減少を伴うc-Kitリン酸化亢進が関与する。また、TET2異常が分化の後期で、特定の赤血球前駆細胞(正常なCFU-Eと同じマーカーを発現するが、機能的には異なる細胞)集団を蓄積することもわかった。正常なCFU-Eが増殖時にエリスロポエチン(EPO)のみを必要とするのに対し、これらの異常な前駆細部はSCFとEPOの両者を必要とし分化障害も認められる。筆者らはこの前駆細胞集団を“マーカーCFU-E”と名付けた。
筆者らはさらに、AXL発現が“マーカーCFU-E”において亢進することでAKTおよびERKシグナル伝達経路が活性化することを示した。増殖と分化の異常は、AXL阻害剤を加えることで部分的にレスキューされた。
本研究の結果はTET2の赤血球造血における重要な役割を示唆し、これまで知られていなかったTET2異常と無効造血との関係を明らかにした。

ページトップへ

 

2018年11月6日 担当:藤井 博司

Nature. 2018 Oct;562(7725):128-132.

Mechanosensing by β1 integrin induces angiocrine signals for liver growth and survival.

Lorenz L et.al.

担当者コメント

Angiocrineとは、血管内皮細胞により産生される因子(angiocrine factor)により、臓器形成、臓器再生、腫瘍の転移が促進されることをいう。Angiocrine factorには、増殖因子、接着分子、ケモカインが含まれており、血管細胞近隣にて、臓器幹細胞あるいは腫瘍細胞を遊走、成熟、増殖する微小環境が形成され、その微小環境はvascular nicheと呼ばれる。臓器別に特化した血管内皮細胞は臓器特異的な増殖因子を産生することにより、臓器形成に寄与している。肝臓の器官形成、再生においては、肝静脈洞内皮細胞由来のhepatocyte growth factorが肝細胞の増殖に重要な役割を果たしていることが知られているが、このangiocrine signalを誘導する機序は明らかではない。本研究では、最初にfetal liverの解析から、血流量と肝細胞の増殖が相関し、その肝細胞の増殖はβ1インテグリン-VEGFR3-HGF axisの活性を伴うことを示した。次に、adult mouse肝臓のex vivo灌流モデル、in vitro mechanical stretchingモデルを用いて、血流によるmechanotransdcutionが肝血管内皮細胞におけるangiocrine signalを誘導するのに十分であることを示した。本研究により、血流による機械的刺激そのもの(血管内皮の伸展)が血管内皮細胞を刺激し、臓器の形成と維持に重要なシグナル、因子を誘導するというモデルが提唱される。

ページトップへ

 

2018年10月23日 担当:藤原 亨

Cancer Cell. 2018;34:225-241.

Synthetic lethal and convergent biological effects of cancer-associated spliceosomal gene mutations.

Lee SC, et al.

担当者コメント

RNAスプライシング機構に関わる遺伝子変異は、環状鉄芽球を伴う骨髄異形性症候群(MDS-RS)をはじめとして様々な骨髄球系腫瘍・リンパ球系腫瘍、及び固形腫瘍において高頻度に認める。このうち代表的な遺伝子であるSF3B1SRSF2U2AF1ZRSR2のいずれかの変異は骨髄球系腫瘍の約半数もの症例で検出されるものの、複数の変異を同時に有することは稀であるという事実より、お互いの変異の排他性に関わる分子機構について解析を行った。

Sf3b1K700ESrsf2P90Hの両者をヘテロで発現させたマウス由来の造血幹細胞を照射マウスに移植したところ、移植片は数カ月の経過で消失した。同マウスの造血幹細胞においては、静止期幹細胞の減少、アポトーシスの増加とともにin vitroでのコロニー形成能の低下を認め、これらが移植片の消失に寄与している可能性が示唆された。Sf3b1K700ESrsf2P90H変異を有する造血幹細胞において発現変化及びスプライシング異常を引き起こした遺伝子群の解析を通じて、同マウスの造血幹細胞においてはNf-kBシグナルの過剰な活性化が起きていることが明らかとされた。この機構としては、Sf3b1変異、Srsf2変異がそれぞれNf-kBシグナルに関わるMap3k7Casp8のスプライシング異常を引き起こし、両者が独立して同シグナルの活性化に寄与している可能性が示唆された。この機序が、MDS-RSをはじめとする骨髄系造血器腫瘍における各々のRNAスプライシング機構に関わる変異の排他性に関与している可能性が示唆された。

ページトップへ

 

2018年9月4日 担当:鴨川 由起子

Nature Communications 2018;9:2067.

Testosterone is an endogenous regulator of BAFF and splenic B cell number

Anna S. Wilhelmson, et al.

担当者コメント

男性のテストステロン欠乏症は、自己免疫疾患のリスクを上げ、機序は不明だがB細胞数を増加させることがわかっている。ここで、筆者らはテストステロンがB細胞のsurvival factorであるBAFFを制御している事を示した。アンドロゲンレセプターが欠損しているオスのマウスでは脾臓のB細胞数と血清のBAFF level、脾臓のBaff mRNAの発現量が増加していた。去勢によりテストステロンを欠乏させたオスのマウスでは、脾臓でのBAFFを産生するfibroblastic reticular cell(FRC)の数を増加させ、脾臓でのノルアドレナリン量を減少させた。またin vitroでは、αアドレナリンagonistが脾臓のFRC数を減少させた。BAFF receptor抗体または神経毒性のある6-hydroxydopamine(6-OHDA)を去勢したオスのマウスに投与すると去勢によって増加した脾臓のB細胞数を去勢前の数に戻した。この研究では、以前は認識されていなかったテストステロンによるBAFFの制御を明らかにし、テストステロンによるBAFFの発現抑制が自己免疫性疾患の発症を防いでいることを示唆した。

ページトップへ

 

2018年7月30日 担当:大西 康

Cell Reports 2018, 23; 3262

Targeting EZH2 Reprograms Intratumoral Regulatory T Cells to Enhance Cancer Immunity

Wang, et al.

担当者コメント

Regularoty T cells (Tregs)による抗腫瘍免疫の抑制作用を解除することでがん治療につなげる試みが行われているが、自己免疫反応による毒性の問題があり、十分な臨床的効果が得られていないのが現状である。筆者らはヒストンH3K27メチルトランスフェラーゼのEZH2がtumor-infiltrating Tregs (TI-Tregs)の活性化と免疫抑制作用維持に重要な役割を果たしていることに着目し、Tregs特異的にEZH2を欠損させることで強い抗腫瘍免疫応答を誘導できることを示した。TI-TregsにおけるEZH2欠損はTI-Tregs自体を免疫抑制から免疫応答へ変換させ(pro-inflammatory functionの獲得)、CD8+T細胞やエフェクターCD4+T細胞を腫瘍へと誘導し抗腫瘍活性を増強させた。EZH2阻害薬はEZH2変異陽性のDLBCLやFLに対しても治験が開始されているが、今後は抑制性免疫の解除という視点からも注目される可能性がある。

ページトップへ

 

2018年7月24日 担当:武藤 智之

Circulation. 2018; 137: 1934-1948.

Inhibition of JAK-STAT Signaling Suppresses Pathogenic Immune Responses in Medium and Large Vessel Vasculitis.

Hui Zhang, et al.

担当者コメント

巨細胞性動脈炎 (GCA) は慢性の自己免疫性疾患であり、大動脈やその分枝を傷害し、動脈瘤の形成や大動脈解離、動脈閉塞を引き起こす。その動脈壁に存在する樹状細胞 (DCs) がCD4+T細胞やマクロファージをrecruitさせ肉芽腫性病変を形成することが主病態とされる。また動脈壁には多様なエフェクターT細胞が存在し炎症を惹起させ、血管新生や内膜の肥厚を誘導すると考えられている。

今回、筆者らはGCAの動脈壁において、STAT1やSTAT2、type I/IIインターフェロンが多く発現していること、JAK1/3阻害剤であるトファシチニブがex vivoでインターフェロンγの産生を抑制させることを示した。さらにGCAモデルマウスにおいては、T細胞の動脈組織への浸潤・増殖・サイトカイン産生、加えて、慢性血管壁炎症の原因と考えられる組織常在型メモリーT細胞の増殖、新規血管新生や内膜肥厚を抑制させることを証明した。

これらの知見により、トファシチニブがGCAの多様な病態形成過程の標的となる可能性が示唆され、今後難治性GCAへの臨床応用が期待できると考えられる。

ページトップへ

 

2018年7月17日 担当:市川 聡

Nature. 2018 Jun 20. doi: 10.1038/s41586-018-0290-0.

A multiprotein supercomplex controlling oncogenic signalling in lymphoma.

Phelan JD, et al.

担当者コメント

B細胞腫瘍において,B細胞受容体(BCR)シグナルは有望な治療標的の一つと捉えられつつあるが,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)において,BCRシグナル抑制が奏効するのはほんの一部の症例にすぎない.遺伝子発現プロファイルによりDLBCLはGCBタイプとABCタイプに大別され,ABC-DLBCLのほうが予後不良であり,BCRシグナル依存的にSYK,BTK,PKCβといったキナーゼのカスケードを介してCARD11-BCL10-MALT1(CBM)複合体がIκBキナーゼ(IKK)を活性化することが腫瘍の生存・進展に寄与していることが知られている.また,ABC-DLBCLではBCRサブユニットであるCD79A遺伝子やCD79B遺伝子,そしてToll-like receptor(TLR)シグナルのアダプターであるMYD88遺伝子の機能獲得型変異が認められ,そのなかでもMYD88L265P変異がもっとも知られた変異である.ある臨床試験において,BCRシグナル経路を構成するBTKの阻害薬であるイブルチニブは37%のABC-DLBCLに対して効果を示し,なかでもCD79B変異とMYD88L265P変異の両方を有する症例においては80%と高い奏効率を示したとされているが,これらの変異がBCRシグナル依存性にどのように寄与しているかについては明らかとなっていない.今回筆者らは,ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーニングシステム,機能的プロテオミクスの技術を用いて,前述のようなイブルチニブ高感受性を示す分子学的基盤を探り,イブルチニブ感受性の細胞株および生検検体において,MYD88,TLR9,そしてBCRからなる超複合体(My-T-BCR)による新規の癌化BCRシグナルの存在を見いだした.My-T-BCRはエンドリソソーム内でmTORと共局在し,細胞生存に寄与するNF-κBおよびmTORシグナルを活性化していた.BCRおよびmTORシグナルの阻害薬は協同的にMy-T-BCR超複合体の形成を減少させ,My-T-BCR陽性DLBCL細胞における相乗的な抗腫瘍効果に繋がっていると考えられた.以上から,My-T-BCR複合体はイブルチニブ感受性の腫瘍細胞を特徴付け,イブルチニブへの感受性,非感受性を区別する重要な要素であると考えられた.

これらの結果は,臨床病理学的に多様な疾患単位であるDLBCLにおいて,分子学的に定義されたサブセットに対する合理的な治療開発を進める上でのロードマップになりえると考えられた.

ページトップへ

ページトップへ

 

2018年7月3日 担当:井樋 創

Immunity.2018;48:745-759

“T Cell Receptor-Regulated TGF-β Type I Receptor Expression Determines T Cell Quiescence and Activation”

担当者コメント

Tcellが自己抗原に反応しない機構には胸腺におけるネガティブセレクション(中枢性免疫寛容)があるほか、末梢組織においても抗原提示を受けたTcellが活性化するためには一定の条件が必要と考えられている(末梢性免疫寛容)。これまで、抗原提示においてTCR-peptide-MHC complexに加えてCD28, CTLA4などの共刺激シグナルを活性化の条件とする”two-signal model”が提唱されてきたが、筆者らは強いTCR刺激(high dose or high affinity)がCARD11, NFκBを介してTGF-βレセプターtype I(TβRI)の発現を低下させること、IL-2 mRNAの発現上昇はTβRIの低下で再現できることを示し、”three signal model”の存在を示した。CD4+ TcellにTCR特異的な抗原刺激を加えた際にhigh-doseではTβRI発現の低下、Th17の誘導がみられ、逆にlow-doseではTβRIの発現は上昇、Tregの誘導される比率が大きくなる。
炎症性腸疾患モデルマウスにTβRIを強制発現させたTcellを移植すると、腸炎がコントロールに比し軽症となった。また、未治療のSLE患者におけるCD4+ Tcellをみると、健常者に比較してTβRIの発現レベルが低下しており、発現上昇をきたす抗原提示刺激の閾値が低いものと推察された。

ページトップへ

 

2018年6月26日 担当:大地 哲朗

J Hematol Oncol. 2018 Feb 12;11(1):19

SF3B1 deficiency impairs human erythropoiesis via activation of p53 pathway: implications for understanding of ineffective erythropoiesis in MDS.

担当者コメント

従来の赤血球産生に関する研究はエリスロポエチンをはじめとするサイトカインやGATA1、KLF1などの転写因子の他、miRNA、ヒストン修飾因子やTET2、TET3などのDNA修飾因子に関するものが殆どであったが、近年RNAスプライシングが転写および転写後調節において重要であることが注目されるようになってきた。例えば、赤血球膜の安定形成に関わるタンパク質 4.1Rのエキソン16が赤血球分化の初期ではスキップされるが、分化の後期ではスキップされないことが知られており、分化後期に至ってもエキソン16がスキップされることで不安定な楕円赤血球が生じることが知られている。

スプライソソームと呼ばれるRNAスプライシング機構はU1, U2, U4, U5, U6からなるsmall nuclear RNAと種々のタンパク質で構成されている。Splicing Factor B unit1(SF3B1)はU2 subunitの構成要素で3’ splice siteの認識に関与している。SF3B1変異は環状鉄芽球を有する骨髄異形成症候群のおよそ8割で認められ、予後良好因子であることが報告されている。筆者らはCD34陽性造血幹細胞から樹立した赤血球系細胞においてshRNAによるSF3B1ノックダウンを行い、解析を行った。

SF3B1ノックダウンによる変化としてp53経路の活性化によるアポトーシス誘導を経由した赤芽球系細胞増殖能の抑制、多染性赤芽球以降に限定した赤芽球系の異形成(多核)が確認された。SF3B1によるp53経路の活性化にp53のユビキチン化を促進するMakorin Ring Finger Protein 1(MKRN1)の発現低下が関与することも示され、MKRN1の2種類存在するアイソフォームの内、large isoformが増加し、small isoformが減少することも確認された。またMKRN1ノックインによる細胞増殖能の回復、異形成の消失も確認された。

SF3B1ノックダウンによりMKRN1のスプライスバリアントの偏りが変化する点は非常に興味深く、その他の遺伝子に関する研究が期待される。

ページトップへ

 

2018年6月19日 担当:秋田 佳奈恵

NATURE COMMUNICATIONS | (2018) 9:1758 | DOI: 10.1038/s41467-018-03750-7 |

IL-21 drives expansion and plasma cell differentiation of autoreactive CD11chiT-bet+ B cells in SLE

担当者コメント

全身性エリテマトーデス(SLE)の原因は不明だが、異常調節されたB細胞反応が関与している。この論文では、異常なCD11chiT-bet+ B細胞分画がネフローゼ症候群を伴うSLE患者で増えており、自己反応の特異性に富んでおり、明白な臨床所見と関連していることを示している。また、IL-21は強くCD11chiT-bet+ B細胞を誘導し、Igを産生する自己反応性形質細胞への分化を促進することも述べられている。マウスの研究では自己免疫においてT-betを発現しているB細胞の役割が確認されているが、今回の研究ではSLE患者におけるCD11chiT-bet+ B細胞の重要性を述べている。

ページトップへ

 

2018年6月12日 担当:小野 浩弥

Nat Genet. 50:883-894(2018)

UTX-mediated enhancer and chromatin remodeling suppresses myeloid leukemogenesis through noncatalytic inverse regulation of ETS and GATA programs.

担当者コメント

X染色体上でコードされるUTXはヒストンH3K27特異的脱メチル化酵素であり、さまざまながんでUTX機能喪失型変異が認められる。このうち、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)ではUTX変異がヒストン脱メチル化活性を触媒するJmjCドメインに限局して認められ、その機能欠損はY染色体上のパラログUTY で代償されない。これはUTXと異なりUTYが触媒活性を持たないためであり、UTX変異陽性T-ALL患者が男性だけにみられる要因である。他のUTX変異を有するがんで発症率に男女差がないのは、T-ALLと異なりさまざまな遺伝子部位に変異があるためと考えられる。

筆者らは、急性骨髄性白血病(AML)ではT-ALLと異なりUTXが触媒活性でなく造血転写因子の発現バランスを変化させることにより腫瘍を抑制していることを示した。興味深いことに、造血細胞においてUtxを欠損させたマウスはメスでのみAML発症が見られた。Utx欠損オスマウスではUtyがUtxの機能を代償することでAMLを発症せず、UTYにもUTX同様の腫瘍抑制作用があることが示唆された。これと一致して、ヒトがんでUTX・UTYの同時欠損/変異が確認された。

また、筆者らはプロテオーム解析とゲノム解析の統合によってUTXが発がん性ETSの抑制と腫瘍抑制性GATA経路の促進という二つの働きでAMLを抑制することを示した。

AMLの治療は長年にわたり変化がなく、新規治療法に対するニーズは高い。本研究の成果により、AML発症のメカニズム解明および新規薬剤開発が進むことが期待される。

ページトップへ

 

2018年5月22日 担当:藤原 亨

Science. 2018;359:1520-1523.

Erythrocytic ferroportin reduces intracellular iron accumulation, hemolysis, and malaria risk.

Zhang DL, et al.

担当者コメント

鉄は生命活動に欠かせない微量元素の1つで、ヘモグロビンの原材料としてだけでなく、ミオグロビンやシトクロムP450の補欠分子族などのヘム鉄として存在する。生体内の鉄代謝の制御においてはヘプシジンが重要である。ヘプシジンは鉄負荷や炎症などで誘導され、マクロファージや腸管に存在するフェロポルチン(FPN)からの鉄排出を抑制する。一方、成熟赤血球にもFPNが高発現している事が近年明らかとなったが、その生理的意義は不明であった。著者らは、エリスロポエチン受容体プロモーター制御下にFpnをノックアウトする赤血球特異的Fpnノックアウトマウスを樹立した。同マウス由来の赤血球は細胞内鉄濃度(不安定鉄プール、フェリチンなど)の増加に伴う酸化ストレスの増加、溶血の亢進を呈した。

マラリア原虫は赤血球に感染し、自身の生存のために赤血球内の鉄を利用する事が知られている。上述の赤血球特異的Fpnノックアウトマウスにマラリア原虫を感染させた所、有意な寄生虫血症の割合の増加、生存率の低下を認めた。

FPNは遺伝性ヘモクロマトーシスの原因遺伝子(Type 4)の1つとして知られている。アフリカなどのマラリア流行地域では、FPN Q248H変異のキャリアの頻度が高い事が知られていたが、筆者らはFPN Q248H変異により赤血球FPNの発現が上昇し、これがマラリア感染防御に関与している可能性を示した。鎌状赤血球症同様に、本遺伝子変異もマラリア流行地域においては自然選択において有利である可能性が示唆された。

本研究を通じて、赤血球FPNは鉄蓄積に伴う酸化ストレスの増加やマラリア原虫の感染防御に重要な役割を果たしている事が示唆された。

ページトップへ

 

2018年5月15日 担当:藤井 博司

Manfredo Viera et.al., Science 359, 1156-1161 (2018)

Translocation of a gut pathobiont drives autoimmunity in mice and humans.

担当者コメント

ヒトの体内には多くの共生細菌叢が存在する。中でも腸内細菌叢はその代謝産物と栄養を宿主とお互いに依存しており、必須である。また、腸管粘膜における腸内細菌叢による免疫反応は局所だけでなく全身の免疫反応に影響を与えており、自己免疫疾患の病態に寄与しているとも考えられている。近年、粘膜層においてのみならず、腸間膜リンパ節に存在する(translocateを起こした)細菌がIL-10を誘導し、正常の状態において全身の免疫反応を調節しているという報告がされた。本研究では、自己免疫疾患発症におけるbacterial translocationの役割を検証した。ループスモデルマウスである(NZW x BXSB)F1マウスを抗生剤(バンコマイシンなど)で治療することにより、血清中の自己抗体価が低下し生存率も有意に延長した。これらのマウスの腸間膜リンパ節、肝臓にはグラム陽性球菌であるEntelococcus gallinariumのtranslocationが認められた。E.gallinariumをC57BL/6に単独共生させることにより、腸管におけるtight junctionに関連する分子の発現低下、Aryl hydrogen receptorに関連する分子の発現上昇、plasmacytoid DC、血清自己抗体、Th17の上昇などが認められ、(NZW x BXSB)F1マウスにE.gallinariumのワクチン投与することにより、自己抗体が減少し、生存率も延長した。ヒトSLE、自己免疫性肝炎患者の肝臓内にもE.gallinariumがtranslocateしており、E.gallinariumの菌体/RNAによりヒト肝細胞にAhRなどの誘導も認められた。これらのことから、特定の細菌の周辺リンパ組織、肝臓へのtranslocationが遺伝的素因のある宿主において自己免疫疾患を引き起こす可能性が示唆された。

ページトップへ

 

2018年4月3日 担当:大西 康

Nature. 2018;554: 373–377

c-MAF-dependent regulatory T cells mediate immunological tolerance to a gut pathobiont

Xu M et al.

担当者コメント

要旨
近年、腸内細菌叢と免疫細胞の関連について関心が高まっている。炎症性腸疾患は腸内の細菌とホストの免疫学的要因の両者に起因すると考えられている。一方で腸炎の原因となる病的なT細胞応答を誘導する微生物が健常ホストの腸内では炎症反応を誘導せずに共存する場合もある。しかし、そのメカニズムについては不明な点も多い。今回、筆者らはHelicobacter hepaticusのモデルを用いて、大腸におけるiTreg (RORγt+Foxp3+ regulatory T) cellsがTh17による炎症誘導を抑制することで腸炎を発症しないことを示している。彼らはH. hepaticusに特異的なTCRを有するトランスジェニックマウスを作成し、そのT細胞を移植する実験でH. hepaticusの抗原に特異的なiTregが腸炎を抑制すること、さらには転写因子c-MAFがiTregの誘導と機能に重要な役割を担うことを明らかにしている。抗原特異的なiTregの抑制能は抗原非特異的なnTregよりも効率が高い。c-MAFを介したiTregの誘導に必要なIL-10、TGFβ、STAT3が欠損する状況でもそれぞれ同様にiTregが低下し、Th17(Th1-like)が増加、腸炎を発症することもわかった。iTregを誘導できる微生物を遺伝子改変により病原性をなくした形で投与できれば炎症性腸疾患の新たな治療開発につながる可能性がある。

ページトップへ

 

2018年3月20日 担当:鴨川 由起子

Nature Communications 2018 Mar 5;9(1):936

Direct conversion of injury-site myeloid cells to fibroblast-like cells of granulation tissue

Sinha M, et al.

担当者コメント

損傷後の炎症がきっかけで、組織修復のために創傷部の細胞が可塑的に変換されることは知られている。創傷部位のマクロファージのその後の運命というのは未だ不明で、創傷部の肉芽組織の線維芽細胞の2/3は骨髄由来のマクロファージ由来である可能性が高い。

この研究では、創傷部位のケラチノサイトから放出された細胞外小胞体(EV)にパッケージングされたmiR-21が、創傷部位での骨髄由来マクロファージから線維芽様細胞への細胞変換に必要であることがわかった。糖尿病モデルマウスではケラチノサイトからのmiR-21の放出が低下しており、創傷部位のマクロファージや線維芽細胞の数が低下していた。つまり、糖尿病モデルマウスでは骨髄細胞から線維芽様細胞への変換が損なわれて創傷治癒を遅延させている可能性が高いことがわかった。

また、治癒傾向の慢性創傷患者の創傷液からのEVにはmiR-21が豊富であり、非治癒の慢性創傷患者の創傷液と比較してより効果的に細胞変換を引き起こすこともわかった。

創傷過程で、創傷部位で骨髄由来のマクロファージが創傷部位のケラチノサイトより放出されたmiR-21により線維芽細胞様細胞に変換され、再上皮化を促進していることがわかった。

ページトップへ

 

2018年3月13日 担当:市川 聡

Nature. 2017;552:121-125.

PD-1 is a haploinsufficient suppressor of T cell lymphomagenesis.

Waterwig T, et al.

担当者コメント

末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)は概してアグレッシブで予後不良な疾患群であり,新たな治療戦略の開発が望まれている.分子生物学的にはT細胞受容体(TCR)シグナル伝達分子の機能獲得型変異を特徴とすることが多く,このような変化はTCR経路を介して恒常的な増殖シグナルと細胞生存プログラムの誘導を促進すると考えられているが,T細胞がこのような事象に対抗する腫瘍抑制機構を有しているかどうかについては明らかになっていない.今回筆者らは,まずマウスモデルにおいて,ITK-SYK融合遺伝子の強制発現によって急激な細胞増殖を来たすことを確認したが,この応答は一時的であったため,T細胞特異的トランスポゾン変異誘発を用いてゲノム規模のin vivoスクリーニングを行ったところ,PD-1をコードするPDCD1遺伝子が発がん性T細胞シグナル伝達を抑制する主要な遺伝子であることが判明した.実際,PTCLの臨床検体でもPDCD1アリルの欠失が高頻度に確認され,この知見は実臨床と強く関連していると考えられた.次に,前がん状態のリンパ球において,PD-1の活性化により,がん抑制遺伝子PTENの発現レベルの上昇,AKTやPKCといった細胞内キナーゼによるシグナルの減弱が観察された.これと対照的に,PD-1のホモあるいはヘテロ欠失により著明なT細胞増殖が観察された.この異常増殖したT細胞をレシピエントに移植したところ高悪性度リンパ腫を形成したことから,PD-1はT細胞リンパ腫における強力ながん抑制遺伝子となりうると考えられた.近年,抗PD-1抗体によるがん免疫療法は種々の悪性腫瘍における高い有効性が示され脚光を浴びているが,本研究の結果は,T細胞自体が腫瘍性の変化を示す場合にPD-1の抑制が逆に腫瘍化を促進するという,想定とは全く逆のシナリオを示すものであり,PD-1を標的とした治療戦略を考える上で考慮に入れるべき重要な側面と考えられる.

ページトップへ

 

2018年2月27日 担当:小野 浩弥

Science. 2017;355:842–847

Clonal hematopoiesis associated with TET2 deficiency accelerates atherosclerosis development in mice

担当者コメント

加齢は造血細胞においてDNA体細胞変異の頻度を増加させる。そのうち、エピゲノム修飾因子TET2をコードするTET2の変異は血液細胞のクローナルな増殖を促す。一方、加齢が粥状硬化性心疾患のリスク因子であることが臨床上知られている。筆者らは、加齢に伴うDNA体細胞変異が粥状硬化性心疾患の発症に及ぼす影響を調べるため、LDLレセプター欠損マウスでの実験を行った。野生型骨髄細胞とTET2欠損骨髄細胞を同時に移植したマウスにおいて、TET2欠損細胞のクローナルな増殖がみられた。大動脈では粥状硬化性プラークが著明に増大していた。in vitroによる検討ではTET2欠損マクロファージがNLRP3インフラマソームを介したインターロイキン1β分泌を増加させた。NLRP3阻害により、野生型細胞とTET2欠損細胞のキメラマウスは粥腫形成が減少した。これらの結果から、血液細胞におけるTET2体細胞変異は粥状硬化と関連することが示唆され、新たな治療標的である可能性が示された。

ページトップへ

 

2018年1月16日 担当:藤原 亨

Cell. 2018;172:191-204.

Rapid Mobilization Reveals a Highly Engraftable Hematopoietic Stem Cell.

Hoggatt J, et al.

担当者コメント

G-CSF製剤を用いた末梢血幹細胞動員は、造血細胞移植の重要な手段の1つとして広く普及している。しかしながら、幹細胞採取に先立って連日の皮下注射が必要であり、骨痛・発熱などの不快な副作用を伴いうる。さらに、G-CSF製剤のみでは十分な幹細胞が採取できずに、移植を断念せざるを得ないケースも存在する。

近年、CXCR4受容体拮抗薬であるAMD3100(プレリキサホル、モゾビル®)が、造血幹細胞を骨髄から動員させるための新たな薬剤として承認された。CXCR4は造血幹細胞の骨髄内ニッチにおける保持に関与しており、AMD3100による同受容体の阻害により幹細胞が骨髄内ニッチから離れて末梢血に動員されると考えられている。しかしながら、AMD3100単剤での幹細胞動員効果は十分でなく、G-CSF製剤との併用において承認されているのが現状である。

以前に著者らのグループは、CXCR2受容体のリガンドであるCXCL2 (GROβ: Growth Related Oncogene β)のN末端欠失体を作製し、同製剤をマウスに投与すると、速やか(15分)に末梢血に幹細胞を動員できる事を明らかとした(Blood 2001)。今回の検討では、同製剤を用いた臨床研究を行い、ヒトに対しても安全に投与可能である事を明らかとした。一方で、GROβのN末端欠失体のみでは末梢血への造血幹細胞の動員効果は十分でなかったため、AMD3100との併用療法の可能性についてマウスを用いて詳細な検討を加えた。その結果、GROβのN末端欠失体とAMD3100の同時投与により、早期(15分)にG-CSF(4日間投与)と比較して多くの造血幹細胞の動員が可能であり、得られた造血幹細胞はG-CSFにより動員された幹細胞と比較して高い生着能を示す事も明らかとした。さらに、GROβのN末端欠失体とAMD3100の同時投与により早期に幹細胞が動員される機序として、好中球からのMMP9 (Matrix metalloproteinase 9)の産生促進が重要である事も明らかとした。

今後ヒトにおける効果について検討が必要だが、単回投与で速やかにかつ生着能の高い造血幹細胞の末梢血への動員が可能である本プロトコールは有望である可能性が示唆された。

ページトップへ

 

2018年1月9日 担当:藤井 博司

Nature 550 ; 475, 2017

Inflammatory memory sensitizes skin epithelial stem cells to tissue damage

Shruti Naik et.al.

担当者コメント

皮膚組織のバリアー機能は感染などの外的環境からの攻撃に対して第1線の防御機構として働き、上皮幹細胞(epithelial stem cell ; EpSCs)により維持されている。これらの上皮幹細胞が、繰り返す炎症性の刺激に対抗し続ける機序については不明である。本研究では、筆者らは皮膚への炎症性の刺激後180日経過した後でも、皮膚パンチ生検後の傷の修復が早くなることを示し、皮膚組織が免疫担当細胞非依存性に炎症に対するメモリー機能を有していることを示した。1回目の炎症性の刺激の後、いくつかの部位でchromosomal accessibilityが長期にわたり維持されており、それらの部位が炎症刺激下で遺伝子エンハンサーとして機能することを示した。トランスクリプトームの解析から、インフラゾームの構成要素であるAim2を候補遺伝子として解析したところ、AIM2-caspase 1-IL-1βが、炎症に対する皮膚のメモリー機能として重要であることを示した。今回の発見は非免疫系の細胞における炎症に対するメモリー機能としては最初の報告となる。外的刺激が繰り返されることにより上皮幹細胞の反応が強くなっていくことは、防御機構の強化としてのbenefitはある一方で、自己免疫や悪性腫瘍の発生へつながる可能性があり、今後もその機序の解明が必要である。

ページトップへ