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ジャーナルクラブ

2020年: 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2020年12月8日 担当:井樋 創

Immunity. 2020 Nov 24. Online ahead of print.

Ribosome-Targeting Antibiotics Impair T Cell Effector Function and Ameliorate Autoimmunity by Blocking Mitochondrial Protein Synthesis.

Luis Almeida et al.

担当者コメント

抗生物質は細菌の殺菌あるいは発育抑制を目的としているが、一部は免疫抑制的な作用を有することが知られている。リネゾリドはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌に適応があり、リボソームを標的としている抗生物質(ribosomal-targeting antibiotic: RAbo)であるが、グラム陰性菌および真菌感染症のリスクとする報告もある。筆者らはリネゾリドおよびRAboがTh17の抑制作用を有し、これはRAboに特有であることを示した。T細胞の分化過程におけるミトコンドリアの翻訳阻害は@RAboによるミトコンドリアのリボソームへの結合、Aアージリン(Argirin;Arg)によるmEF-G1(ミトコンドリア伸長因子G1)への結合のいずれかでなされた。電子伝達系におけるこのような阻害効果は酸化的リン酸化を抑制しNAD+/NADH比の減少によりT細胞のサイトカイン産生を抑制した。また、T細胞における条件的mEF-G1欠損は自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)の発症に庇護的に作用しこの自己免疫疾患における病原性に寄与することを示した。

 

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2020年12月1日 担当:大地 哲朗

Exp Hematol. 2020 Aug;88:28-41.

Enhancing mitochondrial function in vivo rescues MDS-like anemia induced by pRb deficiency.

Sen T et al.

担当者コメント

細胞周期のS期に留まる赤芽球系前駆細胞は赤芽球系マスター転写因子であるGATA-1などを介して赤血球関連遺伝子の発現を亢進させ、赤芽球系への分化が進行することが知られており、赤芽球系の終末分化(前赤芽球以降)においては細胞周期の同期が重要とされている。網膜芽細胞腫の原因遺伝子としても知られているがん抑制遺伝子Retinoblastoma遺伝子より翻訳されるRetinoblastoma protein (pRb)はG1期からS期への進行において鍵となる物質であり、この役割は赤血球系の分化において特に重要となる。
pRbノックアウトマウスでは脾腫や過形成髄など骨髄増殖性腫瘍様の病態を呈したが、これは造血幹細胞よりも顆粒球系前駆細胞や骨髄間質細胞におけるpRbノックアウトの影響であった。その後に樹立された赤芽球特異的pRbノックアウトマウスの解析によりpRbノックアウトによって赤芽球系細胞の終末分化が阻害されていることが判明したが、技術的な限界のため具体的にどの段階で分化が停止しているのかを明らかにすることはできなかった。近年、CD44とFSC-Aによって赤芽球の終末分化を詳細に解析することができるようになったため、筆者らはこの手法を用いて赤芽球特異的pRbノックアウトマウスの解析を行い、遺伝子発現解析などを用いて分化障害の原因を探った。
まず、赤芽球特異的pRbノックアウトマウスにおいて正染性赤芽球の増加が認められ、pRbノックアウトにより正染性赤芽球から網状赤血球への分化が障害されていることが示唆された。各分化段階において遺伝子発現解析を行ったところ、多染性赤芽球まではWTマウス-pRbノックアウトマウス間で発現変動遺伝子はほとんど存在しなかったが、正染性赤芽球-網状赤血球の段階で急激に発現変動遺伝子の数が増加しており、細胞周期やミトコンドリア機能、ヘム合成、鉄輸送に関連する遺伝子の変動が確認された他、Sf3b1やSrsf2などMDSにおいて高頻度に異常が認められる遺伝子も含まれていた。pRbノックアウトマウスの正染性赤芽球において発現が低下しているPGCB1遺伝子の発現について更なる解析を行った。
ミトコンドリア生合成に関連するPGC1Bを強制発現させたpRbノックアウトマウス由来細胞の移植実験によりPGC1B強制発現が貧血やミトコンドリア機能の改善をもたらすことが確認された。また、PGCの標的受容体を活性化させることが知られているPPAR-γアゴニスト Bezafibrateの投与もpRb強制発現と同様に貧血改善をもたらすことが確認され、MDSによる貧血に対する薬物療法の候補として期待される。

 

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2020年11月17日 担当:小野 浩弥

Blood 136:2206-2216, 2020

Maternal hepcidin determines embryo iron homeostasis in mice.

担当者コメント

鉄関連疾患は患者の妊娠経過に影響を及ぼすが、妊娠中の鉄恒常性維持機構はよくわかっていない。ヒトおよび齧歯類では妊娠中の母体で鉄制御ホルモンであるヘプシジンが著しく減少しており、胎盤を介して胚に適正量の鉄を供給するためと考えられている。しかし、胎児(胎仔)肝も同様にヘプシジンを産生しており、胎盤での鉄輸送を調整して自身の鉄量を制御している可能性がある。鉄を十分または過剰に備えるマウスでは母体ヘプシジンと胚ヘプシジンのどちらが胚の鉄量を調整しているかを探るため、著者らはヘプシジンあり/なしの母体、ヘプシジンあり/なしの胚という条件を使ってマウス実験を行った。その結果、正常妊娠では胚ヘプシジンではなく母体ヘプシジンが胚および胎盤の鉄量を決めていることがわかった。さらに、炎症が妊娠母体のヘプシジン抑制と相互作用することもわかった。胚の鉄恒常性にとって母体ヘプシジンの抑制がいかに大事であるか探るため、妊娠マウスにヘプシジン類似物質を投与して母体ヘプシジン活性を変動させた。これにより、交絡因子となる炎症を除いた妊娠時母体ヘプシジンの影響を知ることができた。高容量のヘプシジン作動薬は母体の鉄量減少と貧血、胎盤と胚の重量減少、胚の貧血、胚性致死の増加がみられた。低容量のヘプシジン作動薬は母体の貧血を起こさなかったが、胚には悪影響を及ぼし、貧血、脳を含む組織鉄の減少、体重減少の原因となった。この研究から、妊娠母体のヘプシジン抑制が母体と胚の鉄恒常性と健康に重要であることが示された。

 

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2020年11月10日 担当:藤原 亨

Cell Stem Cell. 2021;28:1-15.

MYC promotes bone marrow stem cell dysfunction in Fanconi anemia.

Rodriguez, et al.

担当者コメント

Fanconi貧血は、造血不全症(進行性汎血球減少)、MDS/AMLへの以降、身体奇形、固形がんの合併を特徴とする疾患で、DNAの修復に関わる遺伝子群の変異により発症する。造血不全症及びMDS/AMLの発症に至る分子機構としては、がん抑制遺伝子の1つであるp53経路活性化の関与の可能性が報告されているが、未だ全容は不明である。

著者らは、Fanconi貧血患者及び健常人の造血前駆細胞(Lin-)を用いたSingle cell RNA-seq (scRNA-seq)を行った。既報と同様にp53の発現上昇を認める集団が認められたが、一方でがん遺伝子であるMYCの高発現を認めている集団が存在していることを明らかにした。そこで本研究では、Fanconi貧血の造血前駆細胞におけるMYC高発現の意義について着目した。

MYC高発現はFanconi貧血の造血前駆細胞において増殖促進を促すが、DNA損傷の程度も上昇しており、これがMDS/AMLへの進行の素地となりうる。またMYC高発現細胞では、骨髄ニッチとの相互作用に重要なCXCR4レセプターの発現が低下しており、これが骨髄造血幹細胞の減少と関わる可能性が示唆された。さらにFanconi貧血患者の骨髄血清中ではTNFαやIFNγなどの炎症性サイトカインが増加しており、これがMYCの転写活性化に関わる点を明らかにした。しかしながら、DNA修復機構の破綻がいかにして慢性炎症状態を惹起するは未だ不明であり、この点を解明することで有望な治療標的の同定につながるかもしれない。

 

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2020年10月27日 担当:藤井 博司

Nature 586:299, 2020

Tumoural activation of TLR3-SLIT2 axis in endothelium drives metastasis

Tavora et.al.

担当者コメント

血管は腫瘍細胞に酸素と栄養を供給することに加えて、腫瘍細胞が全身に播種していく経路となりうる。本研究では、腫瘍細胞の播種に対してinstructiveな役割を果たす血管内皮由来の分子を探索した。組織中の特定の細胞に発現されている遺伝子を特異的に分離する手法(RiboTag)を用いて、転移性の高い腫瘍と転移性の低い腫瘍の腫瘍組織中の血管内皮細胞に特異的に発現している遺伝子発現プロファイリングをRNA-Seqを用いて比較し、高転移性の腫瘍組織中の血管内皮細胞はSlit2遺伝子を発現していることが認められた。内皮細胞由来のSlit2は腫瘍細胞上の受容体であるROBO1を介して、腫瘍細胞の内皮細胞への遊走と血管外への漏出を誘導した。また、腫瘍細胞由来の2本鎖RNAが血管内皮上のRNAを検知する受容体であるTLR3に作用し、内皮細胞のSlit2発現を誘導することも示された。これらのことから血管内皮細胞はTLR3-SLIT2 axisを介して腫瘍細胞に血管を介した播種を誘導することが明らかにされた。

 

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2020年9月29日 担当:大西 康

Nat Med 2020,26;59-64

High-resolution mycobiota analysis reveals dynamic intestinal translocation preceding invasive candidiasis

Zhai B, et al

担当者コメント

腸内微生物叢(microbiota)は細菌だけではなく、真菌、archaea(古細菌)、ウイルス、Protist(原生生物、真核生物のうちで菌界にも植物界にも動物界にも属さない生物の総称)を含めた複雑なコミュニティとして我々の体内に共存している。細菌叢と免疫系の恒常性や感染症への感受性については多く知見が報告されている。一方で腸内の酵母など真菌叢(mycobiota)についての解析はまだ少ない。真菌叢解析にはリボゾームRNA遺伝子を隔てる内部転写スペーサー(internal transcribed spacer, ITS) 領域、また細菌叢解析に用いる16S rRNAに相当する18SrRNA遺伝子がマーカー遺伝子として使用できる。しかし、細菌叢と比べ真菌叢解析のためのデータベースが不足している。

Zhaiらは2014-2017年にMSKCCで同種造血幹細胞移植を受け、カンジダ血症を合併した8例と合併なしの7例において移植前から前向きに収集された便サンプル(prospective fecal collection biobank)と血液サンプルについてHigh-resolution mycobiota sequencingを用いて経時的に解析し、カンジダ血流感染との関連を報告している。彼らはカンジダ血流感染の2-10日前に腸内でカンジダ属のexpansionが起きていることを同定した。病的なカンジダ属のexpansionは嫌気性菌を中心とした腸内細菌の量および多様性の減少と関連していた。腸内の真菌と細菌を同時に解析することで、微生物の界を超えた菌種構成の異常(Dysbiosis)を同定した。このdysbiosisが真菌(カンジダ)の腸粘膜からのtranslocationによる侵襲性真菌症の発症に関連しているかも知れない。今後は腸内微生物叢解析により真菌血流感染症ハイリスク例を同定し、早期治療につなげることができるかもしれない(Microbiota-driven approach)。

 

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2020年9月15日 担当:市川 聡

Science 2020:369;793–99.

Binding mechanisms of therapeutic antibodies to human CD20

Kumar A, et al.

担当者コメント

抗CD20モノクローナル抗体(mAb)は様々なB細胞腫瘍や自己免疫疾患の治療に用いられ,今や欠かすことの出来ない薬剤となっている.治療で用いられる抗CD20 mAbにはtype I (rituximab,ofatumumab)とtype II (obinutuzumab)があるが,両者においてCD20との分子間相互作用の機序が違うため,B細胞への結合や細胞傷害様式を異にしている.本研究で筆者らは,3.7〜4.7Åのクライオ電子顕微鏡を用いて,CD20蛋白全長と,type Iおよびtype II mAbの結合を視覚的に捉え,各々の複合体の構造を示した.構造分析と結合熱力学的解析から,type II mAbはCD20との結合において”終末結合体(terminal complex)”を形成し,補体やさらなる抗体の結合を排除するのに対して,type I mAbは”結晶の種(molecular seeds)”としてはたらき,次々と抗体が結合することで抗体を局所に集中させ,効率的な補体活性化を可能とすることが明らかとなった.さらにtype I mAbのなかでも,ofatumumab−CD20複合体は補体を集簇させるのに理想的な幾何学構造を示していた.今後のさらなる解析により,CD20を標的とした次世代の免疫治療が発展していくことが期待される.

 

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2020年9月1日 担当:町山 智章

Nat Immunol. 2020 Sep;21(9):1107-1118.

Single-cell landscape of immunological responses in patients with COVID-19

Ji-Yuan Zhang, et al

担当者コメント

SARS-CoV-2 ウィルス感染により引き起こされるCOVID-19において、疾患の重症度と宿主の免疫反応の関連性は十分に解明されていない。現在十分有効な治療薬やワクチンが存在しないため、疾患における宿主の免疫反応の解明や、優れた予後/診断マーカーの開発、重症患者に対する的確な治療介入の設計が喫緊の課題である。

これまでの既報では、中等症患者では強固な細胞性/液性免疫反応がSARS-CoV-2の急性感染により惹起されることが分かっているが、自然免疫の非制御や獲得免疫反応の障害が肺障害とどのように関連しているかは明らかになっていない。また、重症のCOVID-19患者では著明なリンパ球減少と血清中の炎症性サイトカインの増加が認められるが、異なる臨床的背景(重症度)での免疫反応の包括的な評価は十分に行われていないのが実情である。

筆者らは5名の健常者と13名のCOVID-19患者(中等症・重症・回復後)の末梢血サンプルを用いてシングルセルRNA-seq解析を行った。免疫細胞の翻訳プロファイルを決定後、T細胞受容体/B細胞受容体シークエンスと併せて、免疫細胞の機能特性を解析した。COVID-19患者の殆どの細胞型が強固なinterferon-α応答性と全般的な急性期炎症反応を示した。高度の細胞障害性エフェクターT細胞サブセットが中等症患者の回復と関連していた。また重症患者では、異常なinterferon反応性のほか、TCRレパトアの異常や広範なT細胞の増殖を伴う高度な免疫疲弊が特徴的な免疫景観として認められた。これらの発見により、COVID-19の増悪における免疫反応の動的性質が例証された。

 

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2020年5月26日 担当:藤原 亨

Cell Stem Cell. 2020;26:359-376.

Restraining lysosomal activity preserves hematopoietic stem cell quiescence and potency.

Liang R, et al.

担当者コメント

造血幹細胞(HSC)の幹細胞性の維持には静止期にとどまっていることが重要であると考えられている。これまでのところ、プライムド状態(Primed)のHSCに比べて静止期(Quiescent)に留まっているHSCは代謝活性が低く、主に解糖系からのエネルギーに依存していると考えられてきた。今回著者らは、長期骨髄再構築能を持つHSC分画(LSK CD150+ CD48-)は、MMP (mitochondrial membrane potential)活性の違いにより2群(MMP-high及びMMP-low)に分けられ、さらにMMP-lowはMMP-highに比べ移植後の再構築能が高いQuiescent HSCの割合が多いことを明らかとした。さらに、MMP-high HSCではその維持に解糖系が必須である一方、MMP-lowでは解糖系によるエネルギー依存度は高くないことが示された。

MMP-low HSCの細胞質においては、小さなミトコンドリアが散在する特徴を持ち、これが低代謝活性状態と関連する可能性が示唆される。このMMP-low HSCに見られるミトコンドリア状態の維持には、オートファジーが重要な役割を果たしている。しかし、MMP-highに比べてMMP-lowにおけるライソゾームの処理能は高くなく、オートライソゾーム内に内容物が残存している可能性が示唆される。興味深いことに、MMP-highに対してライソゾーム内腔の酸性化に関わるV-ATPaseを阻害すると、移植後の生着能・再構築能の改善が見られた。この知見は、造血幹細胞移植における新たな治療標的となりうる可能性が示唆される。

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2020年2月25日 担当:藤井 博司

Science 366, 1531-1536, 2019

VDAC oligomers form mitochondrial pores to release mtDNA fragments and promote lupus-like disease.

Kim et al.

担当者コメント

細胞内外のDNAは細胞膜上のtoll-like receptor familyや細胞質内のcGAS-STING系を刺激し、I型インターフェロン反応を誘導する。このDNAのdanger moleculeとしての側面は自己免疫疾患、特に全身性エリテマトーデスの病態に深く関わっていると考えられている。ミトコンドリアDNA(mtDNA)はミトコンドリア内に存在する環状DNAである。ミトコンドリアへの酸化ストレスはミトコンドリア外膜でのBAX/BAKの重合化によるpore形成が起こり、ミトコンドリア内から細胞質へのmtDNAの放出とI型インターフェロンの反応が誘導されることが報告された(McAthur, Science, 2018)。ただし、BAX/BAKの重合化は同時にアポトーシスを引き起こすため、mtDNAのBAX/BAKを介した細胞質への放出の病的意義は明らかでなかった。本論文では、ミトコンドリアにporeを形成するVDACに着目し、酸化ストレスによるVDACの重合化とmtDNAの細胞質への放出、I型インターフェロンの反応について検証した。Endog(nuclear encoded mitochondrial endonuclease G)ノックアウトマウス由来MEFでは細胞質内のmtDNAとIFN刺激遺伝子(ISGs)の上昇が認められた。また、VDAC1/3ノックアウトMEFやVDAC重合阻害剤(VBIT-4)添加でも酸化ストレスによる細胞質へのmtDNAへの放出とISGsの誘導が減少した。ループスモデルマウスであるMRL/lprマウスへのVBIT-4の投与により、抗dsDNA抗体値が減少し腎病変も軽減した。この重合化VDACを介したmtDNAの細胞質への放出とI型インターフェロン反応は生細胞でも起こり、病的意義可能性がある。VDACの重合を阻害することはmtDNAの細胞質への放出に伴う疾患の新たな治療標的となりうる。

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2020年2月4日 担当:白井 剛志

Science Advances. 5 (11), eaay1971

Targeting Inflammatory Sites Through Collagen Affinity Enhances the Therapeutic Efficacy of Anti-Inflammatory Antibodies

Katsumata K, Ishihara J, Mansurov A, Ishihara A, Raczy MM, Yuba E, Hubbell JA

担当者コメント

炎症性疾患において、治療薬の効果を増強することは非常に重要な課題である。一つの方法として、炎症領域における細胞外マトリックスを標的とする方法が考慮される。本論文で筆者らは、細胞外マトリックスのコラーゲンを標的とした。コラーゲンは通常であると血漿成分には暴露されないが、炎症部位では血管透過性により血漿成分のアクセスが可能となる。著者らは抗TNFα抗体をdecorin由来のcollagen-binding peptide (CBP) と結合した。CBPと結合した抗TNFα抗体は関節炎モデルの炎症部位に集積し、非修飾の抗TNFα抗体に比して関節炎が有意に抑制された。同様に、CBPを結合させた抗TGF-β抗体は肺線維症において炎症部位に集積し、非修飾抗体に比べて有意に肺の線維化を抑制した。これらの結果から、抗サイトカイン抗体がコラーゲンに結合する事で炎症に伴う関節炎や肺線維症を標的とすることができることが示され、炎症病態に対する新規治療として応用できる可能性が示された。

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2020年1月14日 担当:市川 聡

Science 2019:365;162–68

Enhanced CAR–T cell activity against solid tumors by vaccine boosting through the chimeric receptor

Ma L, et al.

担当者コメント

 キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は造血器腫瘍への有効性を示され,その開発が進んでいるが,固形腫瘍に対する効果は現時点では限定的と言わざるを得ない.筆者らは今回,固形腫瘍に対するCAR-T効果の増強を目的として,キメラ抗原受容体(CAR)を介したvaccine-boostingの試みをin vivoモデルで示した.まず,両親媒性CAR-T ligand (amph-ligand)を設計し,投与されたamph-ligandがリンパ節を出入りして抗原提示細胞の表面を修飾し,リンパ節の微小環境においてCAR-Tをprimingできることを示した.Amph-ligandによるboostingはCAR-Tの顕著な増殖と機能の多様性をもたらし,正常な免疫能を持つマウスにおける複数の腫瘍モデルで良好な抗腫瘍効果を示した.さらに,CARの種類を問わずamph-ligandによるboostingが可能であること,HLA非拘束性に従来のCAR-TのデザインにおけるCAR-T効果を増強できる可能性を示した.
CAR-T療法は難治性腫瘍に対する新たな治療戦略として脚光を浴び,様々な腫瘍に対して開発が進んでいるが,まだまだ課題が多い.CAR-Tの固形腫瘍に対する効果が限定的である要因は様々推察されているが,本研究で示されたアプローチは抗原やHLA非依存性にCAR-T効果を安全に増幅できる方法と考えられ,それらの要因の幾つかを解決しうるかもしれない.

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