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TOPジャーナルクラブ > ジャーナルクラブ 2013年

ジャーナルクラブ 2013年

2013年: 4月 5月 6月 7月 9月 10月 11月 12月

 

当科で毎週行われている抄読会の内容を紹介します.

 

2013年12月24日 担当:藤井 博司

Blood. 2013 Dec 5;122(24):3940-50.

IL-21 signalling via STAT3 primes human naive B cells to respond to IL-2 to enhance their differentiation into plasmablasts.

Berglund LJ, Avery DT, Ma CS, et al.

担当者コメント

Naïve B細胞は、germinal centerにおいてfollicular helper T cell (Tfh)と接着分子やサイトカインを介した相互作用を起こして抗体産生細胞に分化する。なかでもTfhより分泌されるIL-21はSTAT1, STAT3を活性化し、特にSTAT3を介したBlimp1の誘導がplasma cellへの分化に重要であることが知られている。今回筆者らは、健常人とSTAT3に変異を有する免疫不全患者由来B細胞の遺伝子プロファイルを比較することによりBlimp1に加えてIL2Rαchain (CD25)もIL21-STAT3により誘導されていることを見出した。IL21によりCD25が細胞表面に誘導された結果、IL2がB細胞に作用するようになり、plasmablastへの分化、イムノグロブリンの産生を亢進することが示された。また、IL2, IL21ともに単一のTfhから分泌されていることも示唆された。今回見出されたIL21-STAT3-CD25の誘導の経路はIL21が個体の抗体産生細胞を促進する機序の一つであり、STAT3の変異が重篤な液性免疫系の障害をきたす説明の一つとなりうる。

 

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2013年12月10日 担当:城田 祐子

Nat Med. 2013. 19(10):1273-80.

B lymphocytes trigger monocyte mobilization and impair heart function after acute myocardial infarction.

Zouggari Y, Ait-Oufella H, Bonnin P, et al.

担当者コメント

B細胞は抗体産生能に加え、抗原提示能、共刺激分子の発現能、サイトカイン産生能など多彩な機能を持つ細胞であり、T細胞、単球、樹状細胞、マクロファージ・好中球などとの相互作用により、様々な病態へ関与している。しかし、その相互作用の詳細は解明されていないことも多い。この報告では、急性心筋梗塞を起こしたマウスでは、成熟B細胞 がCcl7を選択的に産生して、CcL7によりLy6C hi 単球は骨髄から心筋組織へ誘導し、Ly6C hi 単球が組織損傷を引き起こし、さらに心筋機能の減弱につながることが示された。成熟B細胞を遺伝学的除去(Baff受容体欠失による)、あるいは抗体(抗CD20あるいは抗Baff抗体)を介して除去すると、Ccl7産生や単球動員が妨げられて、心筋損傷が制限され、心機能が改善した。これらの影響はB細胞選択的に Ccl7 を欠損するマウスで再現された。さらに、ヒト急性心筋梗塞患者ではCcl7およびBAFFの血中濃度が高いと、死亡あるいは再発性心筋梗塞のリスクが上昇することも示された。この研究は、急性心筋虚血後に成熟B cell と単球との間で起こる重要な相互作用を明らかにし、また、急性心筋梗塞の新しい治療標的を示唆した。

 

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2013年11月26日 担当:中村 恭平

J Exp Med. 2013 Sep 23;210(10):1899-910.

The Nlrp3 inflammasome regulates acute graft-versus-host disease.

Jankovic D, Ganesan J, Bscheider M, et al.

担当者コメント

Inflammasomeは、生体内における外因性および内因性危険信号に対する炎症応答して近年着目されており、IL-1βの産生を介して、細菌感染、動脈硬化疾患、炎症疾患など多彩な病態に関与していることが分かってきている。今回筆者らはインフラマソームがGVHDの病態に深く関与していることを明らかにした。筆者らはまずIL-1受容体阻害抗体やIL-1βに対する中和抗体を用いた実験において、GVHDが緩和されることを見出した。加えて、NLRP3やASCなどのインフラマソーム構成分子を欠損したレシピエントにおいて致死的GVHDが起こらないことから、レシピエントのインフラマソームの活性化、それによるIL-1βの産生がGVHDの病態において重要と考えられた。では、GVHDにおいてIL-1βの産生を促すものは何か?筆者らはGVHDや全身化学療法の前処置により腸管細菌叢の過剰増殖が起こること、細胞傷害により尿酸が放出されることに着目し、移植前処置に先立って抗生剤投与による除菌、Uricaseの投与を行うことにより、腸管や皮膚におけるIL-1βの産生が抑制され、GVHDが緩和されることを明らかにした。また、こうした前処置により放出されるIL-1βは、近年GVHDの病態において鍵となる役割を果たしていると考えられている、IL-17産生T (Th17) 細胞の分化を誘導することを明らかにした。以上の結果から移植前処置による生体侵襲がInflammasomeを活性化し、Th17細胞の誘導を介してGVHDの病態の増悪に関与していることが明らかとなった。

 

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2013年11月5日 担当:齋藤 陽

Blood. 2013 May 2;121(18):3578-85.

Interferon-gamma impairs proliferation of hematopoietic stem cells in mice

Alexander M. de Bruin, O¨ zlem Demirel, Berend Hooibrink, et al.

担当者コメント

生涯にわたり血球を維持するにあたって、hematopoietic stem cell (HSC)の分化と自己複製のプロセスのバランスをとることは極めて重要である。骨髄は新生細胞を安定して供給するが、白血球減少を引き起こす免疫学的なストレス下では、末梢血球供給への需要を増大させる。今回著者らは、Proinflammatory cytokineであるIFN-γがHSCの増殖能を直接的に減じることで、HSCの維持が損なわれ、またウイルス感染後のHSCの回復が損なわれることを示した。さらにThrombopoietin (TPO)によるsignal transducer and activator of transcription (STAT)5のリン酸化を、IFN-γが減じることを示した。また、IFN-γはHSCにおけるsuppressor of cytokine signaling (SOCS)1の発現を誘導し、SOCS1の発現がTPOによるSTAT5のリン酸化を抑制するのに十分であることも示した。さらにIFN-γは、cell cycle geneであるcyclin D1とp57の発現の、STAT5による制御を損なう。これらの発見はIFN-γが、サイトカインの反応とHSC の増殖に関わる遺伝子の発現を修飾することによって、HSC のself-renewalをnegativeに調節していることを示している。したがって、再生不良性貧血やHIV, GVHDなどの疾患における慢性的なIFN-γシグナルに起因するHSC self renewalの継続的な障害が、これらの疾患における骨髄不全の発症と関係している可能性が示唆された。

 

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2013年10月29日 担当:小野寺 晃一

Immunity. 2013 Sep 19;39(3):584-98.

Monocyte-derived dendritic cells perform hemophagocytosis to fine-tune excessive immune responses.

Ohyagi H, Onai N, Sato T, et al.

担当者コメント

感染に伴う免疫反応は,病原体を排除することで宿主を防衛すると同時に組織を傷害する,言わば“諸刃の剣”であり,宿主の生存を保証するためには,免疫反応は厳密にコントロールされなければならない.筆者らは,マウスに対する高用量のTLRリガンド投与,あるいはリンパ球性脈絡網膜炎ウイルスC13株を感染させることにより,inflammatory monocyte由来樹状細胞(inflammatory-monocyte derived dendritic celsl: Mo-DCs)が,アポトーシスを起こした赤血球を貪食することを見出した.また,血球貪食の過程において,phosphatidylserine(PS)が,血球貪食を促す“eat me”シグナルとして働き,Type TIFNは,赤血球におけるPSの表出,あるいは樹状細胞におけるPSレセプターの発現の両者に重要であることを発見した.興味深いことに,血球貪食はMo-DC sからのIL-10産生に必要であった.血球貪食やIL-10の産生を阻害すると,細胞障害性T細胞の活性が上昇し,組織障害を引き起こし,ウイルスに感染した宿主の死亡率を増加させた.これらの結果は,Mo-DCsによる血球の貪食は,重篤な炎症状態やウイルスの感染において,過剰な免疫応答を制御する新たな免疫抑制機構であることを示唆するものと考えられる.

 

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2013年10月15日 担当:大西 康

Nature. 2013 Jun 27;498(7455):506-10.

BACH2 represses effector programs to stabilize Treg-mediated immune homeostasis

Roychoudhuri R, Hirahara K, Mousavi K, et al.

担当者コメント

BACH2はB細胞においてBlimp-1を抑制する転写因子として知られ、somatic hypermutationやクラススイッチに関与している。また、以前よりBACH2の多型(polymorphism)は喘息、クローン病、多発性硬化症などの自己免疫疾患、アレルギー疾患と関連することが報告されている。本論文ではBACH2ノックアウト(KO)マウスを用いて、CD4+T細胞からエフェクターT細胞、制御性T細胞(Treg)への分化におけるBACH2の役割について解析している。BACH2KOマウスでは抗核抗体や抗dsDNA抗体が陽性化し、肺には顕著なリンパ球、マクロファージの浸潤を認めるなど、致死的な炎症性変化が認められる。BACH2KOマウスではFoxP3+Tregの割合が減少しており、これが炎症性疾患の自然発症と関連している。また、BACH2KO由来のCD4+T細胞ではFoxp3の誘導率が低いこと、これはBACH2遺伝子の導入でレスキューされることが示されている。さらにChIP-Seqによる解析でBACH2はTh1, Th2, Th17への分化に必要な遺伝子を抑制している可能性が示されている。以上から、BACH2はB細胞だけでなく、CD4+T細胞の分化成熟にも作用し、tolerance/immunityのバランス維持に重要な役割を持つことが示唆された。

 

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2013年10月2日  担当:猪倉 恭子

Cell Stem Cell. 2013 Jul 3;13(1):87-101

The oncogenic microRNA miR-22 targets the TET2 tumor suppressor to promote hematopoietic stem cell self-renewal and transformation.

Song SJ, Ito K, Ala U, et al.

担当者コメント

miRNA(micro-RNA)は、小分子RNAでその働きは多岐にわたるが、癌においては高頻度に制御異常があり癌発症に関与するとされている。一方、TET2遺伝子は、ゲノムDNA中の5-methylcytosine(5-mC)を5-hydroxymethycytosine(5-hmC)へ変換する脱メチル化作用を有しており、その遺伝子変異はMDSやMPN、またAML等多くの造血器腫瘍で認められており、エピジェネティクスな機序を介したがん発症機構に関与すると考えられている。
今回は、miRNA の中でもmiR-22とTET2遺伝子の相互関係が注目されている。miR-22がTET2遺伝子の発現を抑制し、そのため造血系の異常が引き起こされ、MDS等の発症にいたるとされ検討されている。
まず、本文ではIn situ hybridization(ISH)法により、MDS患者の骨髄検体にて正常人に比べmiR-22が高発現していることを認めている。また、MDS患者の中でもmiR-22の発現が高い群では低い群に比べ生存率は低下していた。
続いて、miR-22を高発現したマウスを使用した実験を行っている。このマウスは末梢血、骨髄細胞においてTet2の発現、5-hmCの低下を認め、成熟血液細胞の分化異常や、骨髄系共通前駆細胞の増殖を示した。また、骨髄のprogenitor細胞を使用したコロニーアッセイ等にて、造血幹細胞(HSC)の自己複製能や競合的骨髄再建能の亢進が認められることを示している。また、miR-22発現細胞にTet2を強制発現させることでmiR-22の作用がrescueされることも証明しており、miR-22とTet2が相互に作用していることを示している。
今回の報告では、miR-22が造血系の異常に関与し、またTET2遺伝子との相互作用の点からも造血器悪性疾患発症に深く関わることが検討され、今後治療のターゲットともなりうる可能性が示唆された。

 

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2013年9月17日 担当:池田 朋子

PLoS One. 2013 Jun 5;8(6):e65542. doi: 10.1371/journal.pone.0065542. Print 2013.

Granulin exacerbates lupus nephritis via enhancing macrophage M2b polarization.

Chen X, Wen Z, Xu W, et al.

担当者コメント

全身性エリテマトーデス(SLE)において、ループス腎炎(LN)は最も重篤な症状の一つであるが、LNの発症メカニズムは完全には解明されていないため、効果的な治療法の確立が必要である。近年、多機能性タンパク質であるグラニュリン(GRN)が炎症性疾患に関与しており、自己免疫疾患の疾患活動性と相関するということが報告されている。 しかし、LNの病因におけるGNPの役割は不明なため、本研究において、GNPの役割と基本的なメカニズムが調べられた。
これまで筆者らは、BALB/cマウスにSLE用症状を誘導する同系活性化リンパ球由来DNA(ALD-DNA)を用いてALD-DNA誘導性ループスモデルを構築しており、本実験においては、このモデルを用いて、血清学的、病理学的解析などを行った結果、血清GRN濃度の上昇はALD-DNA誘導性マクロファージ(M2b)の分極を促進することにより、LNを増悪させ、 血清GRN濃度とLNの重症度に相関性があるということを明らかにした。また、血清GRN濃度はMAPKシグナル伝達経路におけるM2bの分極の促進には必要であるということも明らかにした。これらの結果より、GRNがM2bの分極を促進することによりLNを増悪させ、GRNを用いてLNに対する新規治療法が確立される可能性が示唆された。

 

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2013年9月9日 担当:市川 聡

Nature Med. 2013 Aug;19(8):1014-22. doi: 10.1038/nm.3247.

BACH2 mediates negative selection and p53-dependent tumor suppression at the pre-B cell receptor checkpoint

Swaminathan S, Huang C, Geng H, et al.

担当者コメント

筆者らは近年,転写抑制因子BCL6が免疫グロブリン遺伝子VDJ領域の機能的な再構成を行ってpre-B細胞チェックポイントを通過したpre-B細胞の生存に関わる極めて重要な因子であることを報告しているが,非機能的なVDJ再構成によりpre-B細胞受容体を発現できないpre-B細胞を排除する機構についてはほとんど解明されていなかった.今回の報告で筆者らは,BACH2を介したp53の活性化が,VDJ領域の機能的な再構成が行われなかったpre-B細胞を排除するのに極めて重要であることを示している.逆に,機能的なVDJ再構成に成功したpre-B細胞では,pre-B細胞受容体シグナルがBCL6遺伝子を介してp53を抑制し,BACH2を介したnegative selectionの過程が終了する.前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病(pre-B ALL)の患者においては,このBACH2を介したチェックポイント制御が,遺伝子欠失,点突然変異,あるいはBACH2の上位制御因子であるPAX5の機能喪失により障害されている.これらの患者において低いBACH2発現レベルは,独立した強力な予後不良因子となっていた.次に筆者らは野生型BACH2を持つpre-B細胞が,BACH2依存性のp53活性化を介してMYC遺伝子による白血病化に抵抗性を示し,それらの細胞を移植したマウスにおいても致死的な白血病を発症させないことを示している.さらに,クロマチン免疫沈降シーケンシングや遺伝子発現分析により,BACH2がp53や他の細胞周期制御遺伝子のプロモーター領域においてBCL6と競合し,BCL6を介したこれらの遺伝子の不活化を解除することを明らかにしている.これらの知見はBACH2がpre-B細胞チェックポイントにおけるnegative selectionと白血病発生に対する防御機構という両面で極めて重要なメディエータであることを示している.
その概念は知られていながらも実態は明らかとされていなかったpre-B細胞におけるnegative selectionの機構をBACH2が担うという発見の意義は大きい.さらに,positive selectionを司るBCL6とnegative selectionを司るBACH2との拮抗が,正常B細胞分化のみならず腫瘍化においても重要であるというsensationalな知見を,臨床データも交えて示されており,興味深い報告である.

 

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2013年9月3日 担当:渡部 龍

Immunity. 2013 Feb 21;38(2):225-36. doi: 10.1016/j.immuni.2012.10.020.

Mitochondria are required for antigen-specific T cell activation through reactive oxygen species signaling.

Sena LA, Li S, Jairaman A, et al.

担当者コメント

T細胞は,T細胞受容体と共刺激分子の刺激を受けると,急速に増殖し,分化する.それに伴い,転写因子の活性化が起こり,IL-2産生が増加する.この際,糖代謝が増加(解糖系が亢進)することが広く知られているが,T細胞の活性化にミトコンドリア代謝(クエン酸回路)が重要であるかどうか,また,ミトコンドリアは主要な活性酸素(ROS)の供給源であり,このROSがT細胞の活性化に重要であるかどうか,電子伝達系複合体IIIのsubunit(RISP)のconditional KO miceを用いてin vitro及びin vivoで検証した.
これによると,T細胞はクエン酸回路のみで生存と活性化は起こるが,分裂・増殖には解糖系が必須であった.また,ミトコンドリアにおいて産生されたROSがin vitro及びin vivoにおいても,T細胞の抗原特異的な増殖に重要な役割を担っていることが確認された.
本論文により,ROSが自然免疫だけでなく,適応免疫においても重要であること,また,ミトコンドリアはエネルギーの供給のみではなく,T細胞の活性化の調節を行っていることが明らかになった.

 

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2013年7月30日 担当:藤原 亨

Cell Stem Cell. 2013 Jun 20. pii: S1934-5909(13)00208-7. doi: 10.1016/j.stem.2013.05.015. [Epub ahead of print]

In Vivo Mapping of Notch Pathway Activity in Normal and Stress Hematopoiesis.

Oh P, Lobry C, Gao J, et al.

担当者コメント

Notchシグナルは4種類の受容体(Notch1-4)を介して伝達され、種々の細胞の発生・分化・増殖など細胞の運命決定に重要な役割を果たしている。特に造血においては、胎児造血幹細胞の発生、Notch1シグナルを介したTリンパ球分化へのcommitmentの指向およびT細胞性白血病発症への関与の報告があるものの、成体における造血幹細胞の機能、赤芽球や骨髄球などの非リンパ球系細胞分化における本シグナルの意義は不明であった。
今回の研究では、in vivoマウスにおける種々のNotchシグナル解析系を駆使することにより、1)造血前駆細胞におけるNotch1受容体とNotch2受容体の発現様式は大きく異なり、前者はT細胞をはじめとしたリンパ球系細胞に発現しているのに対し、後者の発現は造血幹細胞と赤芽球前駆細胞(CFU-E: erythroid colony-forming units)において亢進している点、2)Notch2を介したシグナル活性化が赤芽球系分化のcommitmentを指向し得る点、3)溶血や放射線照射後の赤血球造血亢進状態(Stress erythropoiesis)おいてNotchシグナルが重要な役割を果たしている点、を明らかとした。
本論文は、Notchシグナルと造血細胞分化に関する新たな知見をもたらしたのみならず、エリスロポエチンと並ぶ新たな赤血球造血賦活剤の開発の可能性を示したという点においても興味深い。

 

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2013年7月23日 担当:藤井 博司

Blood. 2013 Jun 27;121(26):5176-83. doi: 10.1182/blood-2012-12-471953. Epub 2013 Apr 23.

Characterization of proposed human B-1 cells reveals pre-plasmablast phenotype.

Covens K, Verbinnen B, Geukens N, et al.

担当者コメント

B細胞にはB1とB2の二つの異なるlineageがあるとされている。前者はontogenyにおいて早期に出現するlineageであり、マウスにおける解析で、①germ lineでcodeされた”natural” IgMを産生する、②腹腔内、胸腔内に局在する、③polyreactive / autoreactiveな抗体を産生する、④CD5陽性である、といった特徴を有することが示され、通常のB2 lineageとは区別される。ヒトではマウスにおけるCD5のような明確なマーカーはなく、ヒトにおけるB1 lineageのマーカーや特徴は長年不明であった。2011年Griffin等によりCD20+CD27+CD43+CD70-がヒトB1 B cellのマーカーであることを報告した。しかし、後にこの細胞群の性質はCD3陽性細胞あるいはplasma細胞の混在によるsorting artifactによる可能性を指摘されていた。本論文ではCD20+CD27+CD43+CD70-の細胞群が①spontaneousにIgG, IgA, IgMを産生する、②ワクチン接種後、IgG型の特異的抗体を産生する、③遺伝子発現プロファイルがplasmablastに近い、④ in vitroでplasmablast / plasma細胞へ培養可能なことから、提唱されていた“putative B1 cell”は従来のB1 cell lineageではなく、memory B 細胞からplasmablast (plasma cell)に分化する途中段階にある”pre-plasmablast”であることが示唆された。本論文はB細胞から抗体を産生するplasma細胞への分化において新たな段階が提唱された点で意義があるが、ヒトB1 B細胞のマーカーについては再びふりだしに戻ってしまうことになったように思われる。

 

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2013年7月16日 担当:福原 規子

Science. 2013 Jul 12;341(6142):186-191.

Mg2+ Regulates Cytotoxic Functions of NK and CD8 T Cells in Chronic EBV Infection Through NKG2D

Chaigne-Delalande B, Li FY, O'Connor GM, et al.

担当者コメント

筆者らは2011年CD4リンパ球減少及び慢性ウイルス感染症を特徴とする新規のX連鎖免疫不全症(X-linked immunodeficiency with Mg2+ defect, Epstein-Barr virus (EBV) infection, and neoplasia; XMEN)の原因遺伝子としてマグネシウム輸送体遺伝子MAGT1変異を報告してい る(Nature475:471-476;2011)。今回は、XMENにおける慢性EBウイルス感染症とMg2+の関係を明らかに した。MAGT1は基底細胞内遊離Mg2+濃度を調節する因 子であり、NK細胞内free Mg2+が低下するとNKG2D発現が低下し、EBVに対する細胞融解 反応が低下する。XMEN患者にMg補給することで細胞内free Mg2+濃度が回復するとNKG2D発現も回復し、EBV感染細胞に対する 免疫反応も回復することが示された。これまでMg2+は酵素や核酸に結合してその活性に影響を与えるとされるが、その役割については明らかにされてこなかっ た。今回、免疫系においてシグナル分子としてMg2+が重要な役割を担っていることを明らかにしている。本疾患においてMAGT1がMg調節以外の機能があるのか、B細胞には影響を及 ぼさない理由など解決すべき問題もあるが、Mg2+のT細胞性免疫における影響が自己免疫性疾患や移植時の拒絶等に おいても影響しているのかなどは興味深いところではある。

 

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2013年7月9日 担当:中村 恭平

J Exp Med. 2013 Mar 11;210(3):605-21. doi: 10.1084/jem.20121229.

Cytotoxic T cells induce proliferation of chronic myeloid leukemia stem cells by secreting interferon-γ

Schürch C, Riether C, Amrein MA, et al.

担当者コメント

慢性骨髄性白血病(CML)は、BCR/ABLを標的としたチロシンキナーゼ阻害剤による治療が行われているが、CMLのがん幹細胞はこうした既存の治療薬に抵抗性を示すことが知られている。これまで筆者らは細胞傷害性T細胞(CTL)を中心とした免疫療法に関して研究を行っている。今回の実験では筆者らが構築したCMLのマウスモデルにおいて、CMLの抗原特異的なT細胞受容体を持つCTLを早期に移入することで、CMLを排除することに成功し、生存率も良好な結果が得られた。加えて筆者らは比較的進行したCMLのマウスに対してCTLの移入を行ったところ、コントロールと比較し骨髄中のCML幹細胞の増殖が認められるという、驚くべき結果を見出した。さらに詳細に解析を行ったところ、CTL由来のIFN-γがCMLの幹細胞の増殖をin vitro、in vivoで促すことが明らかとなった。同様にCMLの患者骨髄中のCD34陽性細胞もIFN-γにより増殖が認められた。これまでIFN-γは、がん免疫監視機構において重要なサイトカインであったが、今回の研究により、がん幹細胞の増殖を促すという側面もあることが分かり、免疫細胞とがんの相互作用に関して示唆に富む内容と考えられる。

 

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2013年7月2日 担当:高橋 奈津子

J Clin Oncol.2013 January, 10;31(2):231-239.

Gonadal Function and Fertility in Survivors After Hodgkin Lymphoma Treatment Within the German Hodgkin Study Group HD 13 to HD15 Trials.

Behringer K, Mueller H, Goergen H, et al.

担当者コメント

造血器腫瘍における化学療法後の妊孕性については主にホジキンリンパ腫(HL)を中心 に研究が進められている。独ホジキン研究グループ(GHSG)は、HD13(ABVDx2 vs AVDx2, Onkologie 33:124-125.2010)、HD14(ABVDx4 vs eBEACOPPx2+ABVDx2, JCO 30:907-913.2012)、HD15(eBEACOPPx6 vs eBEACOPPx8 vs BEACOPP-14x8, Lancet 379:1791-1799.2012)の3研究において、診断時年齢が女性<40才or男性<50才かつ寛解維持している1,323例(全 体の55%)を対象とし、化学療法が生殖機能に与える影響について報告した。FSH, AMH, Inhibin B値は、治療強度(P<0.001)と有意に相関した。限局期HL女性生存者の90%以上 に、約1年以内の月経周期回復を認めた。BEACOPP6-8コースを行った場合、月経の回復の有無は年齢に最も依存しており(30歳未満82% vs 30歳 以上 45%, P<0.001)、30歳以上閉経の約半数では、ホルモン補充療法を受けず更年期障害を認めた。挙児希望のある進行期HL女性生存者のうち妊娠に至ったのは、HD13+HD14(n=60)19%、HD15(n=22)10%で あった。一方、男性生存者では、テストステロンレベルは正常範囲であり、性腺機能低下症による症状は明らかでは無かった。BEACOPP療法はアルキル化剤を含むため生殖機能障害の高リスク因子であり、ホジキンリンパ腫の予後改善と共に、生存者におけるQOL向上を目指した治療開発を進める必要があるだろう。本研究は、臨床現場での治療方針選択に役立つこととなるが、現在ホジキンリンパ腫以外の造血器腫瘍における化学療法後の生殖機能障害については殆ど研究がされていないのが実情である。生殖医療技術の進歩による妊孕性の保持そして更年期障害によるQOL低下への対策も求められており、ホジキンリンパ腫以外でも cancer survivorにおけるQOL向上を目指して検討していく必要があるだろう。

 

 

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2013年6月25日 担当:城田 祐子

Immunity. 2013 Mar 21;38(3):541-54. doi: 10.1016/j.immuni.2013.02.007.

Tumor necrosis factor-α blocks differentiation and enhances suppressive activity of immature myeloid cells during chronic inflammation.

Sade-Feldman M, Kanterman J, Baniyash M, et al.

担当者コメント

慢性炎症の病因として、tumor necrosis factor-α (TNF-α) が中心的な役割を果たしており、炎症を誘導することが知られている。しかしTNF-αは、慢性炎症において、宿主の免疫系を免疫抑制環境へ向ける役割を果たしているかどうかは不明である。一方、未熟骨髄由来のサプレッサー細胞(MDSC)は強力な免疫抑制作用を持つ、未成熟な骨髄性細胞の不均一な細胞集団として知られている。

筆者らは、TNF-αは、慢性炎症時に二つの機能を持つことを示した。一つ目は、炎症性タンパク質であるS100A8とS100A9とそれらに対応する受容体(RAGE)を介して、MDSCが成熟細胞へ分化するのを制御すること、二つ目はMDSC抑制活性を増大させることである。筆者らは、TNF-αの作用でMDSCをin vivoで蓄積させ、T細胞受容体ζ鎖を制御し、T細胞とNK細胞の機能障害を導くことを示した。さらに、初期の慢性炎症の段階でエタネルセプト(TNF-α拮抗薬)を投与すると、MDSCによる抑制作用を減弱させ、MDSCを成熟した樹状細胞やマクロファージに分化させる。この結果として、生体の免疫機能およびζ鎖発現を回復させる。したがって、TNFは慢性炎症において、免疫抑制環境を促進する重要な役割を持っていることが報告された。

TNFが慢性炎症において、炎症を誘導する一方で、免疫を制御する機構にも役割を果たしていることは興味深い。

 

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2013年6月11日 担当:斎藤 陽

Nature. 2013 Mar 21;495(7441):333-8. doi: 10.1038/nature11928. Epub 2013 Feb 27.

Circular RNAs are a large class of animal RNAs with regulatory potency.

Memczak S, Jens M, Elefsinioti A, et al.

担当者コメント

動物の環状RNA(circRNA)は、機能が解明されていない謎のRNA種であった。著者らはcircRNAを系統的に調査するために、ヒト、マウスおよび線虫のRNAの塩基配列解読およびコンピューター解析を行った。その結果、数千個のcircRNAが検出され、それらは組織/発生段階特異的に発現していることが多かった。塩基配列の解析から、circRNAが重要な調節機能を担うことが示された。ヒトcircRNAの1つであるCDR1as(antisense to the cerebellar degeneration-related protein 1 transcript)には、miRNAエフェクター複合体が密に結合しており、進化的に古いmiRNAであるmiR-7に対する保存された63個の結合部位があることがわかった。さらなる解析から、CDR1asは神経組織でmiR-7に結合する働きを持つことが示された。ゼブラフィッシュでヒトCDR1asを発現させると、miR-7のノックダウンの場合と同様に、中脳の発生が障害されたことから、CDR1asは既知のどの転写産物よりも強いmiRNAアンタゴニストであることが示唆された。著者らのデータは、circRNAが転写後調節因子の大きなグループを形成しているという証拠を示している。多数のcircRNAはエキソンのhead-to-tail方式のスプライシングによって形成されるため、coding sequenceにはこれまで知られていなかった調節能があることが示唆された。今回の報告は、RNAの新たな機能的役割を示唆する驚くべき発見であったと考えられる。

 

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2013年5月28日 担当:白井 剛志

Nat Immunol. 2013 Apr;14(4):327-36.

Intracellular antibody-bound pathogens stimulate immune signaling via the Fc receptor TRIM21.

McEwan WA, Tam JC, Watkinson RE, et al.

担当者コメント

病原体に結合した抗体は感染細胞内へ運ばれ、そこで細胞質内のFc受容体であるTRIM21により認識される。TRIM21に結合したウイルス抗体複合体はプロテアゾーム等により分解されることが明らかになっていた(antibody-dependent intracellular neutrization (ADIN))。本論文では更に、TRIM21による抗体の認識により免疫シグナルが活性化することを明らかにしている。

TRIM21はK63-linkedユビキチン鎖の形成を触媒し、NF-kB、AP-1、IRF3/4/5といった転写因子を活性化する。これらの活性化により前炎症性サイトカイン産生、細胞傷害リガンド発現、抗ウイルス状態が誘導される。これらはDNA/RNA nonenveloped virus、細胞内寄生菌のみならず、ビーズに結合した抗体にても誘導される。

この論文では、感染細胞の細胞質において、抗体がdanger signalとなり、TRIM21を活性化し、前炎症性シグナル伝達経路を開始するという、新たな抗体の役割を見出しており、非常に興味深い。

 

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2013年5月7日 担当:小野寺 晃一

Nat Immunol. 2012 Sep;13(9):832-42.

Tumor-infiltrating DCs suppress nucleic acid-mediated innate immune responses through interactions between the receptor TIM-3 and the alarmin HMGB1

Chiba S, Baghdadi M, Akiba H, et al.

担当者コメント

TIM-3(T cell immunoglobulin and mucin domain 3)は,I型ヘルパーT細胞に発現し,galectin-9と結合することでT細胞性の免疫不全を誘導する膜蛋白として発見された.樹状細胞(Dendritic cell; DC)やマクロファージにおいてもTIM-3の発現が報告されていたが,これらの細胞においてTIM-3が自然免疫におけるシグナル伝達にあたえる影響に関する理解は不十分であった.まず,筆者らは,マウス固形がんモデルにおいて,腫瘍に浸潤するDC(Tumor-associated DC; TADC)ではTIM-3が高発現していることを発見した.TIM-3発現の有無はDCの抗原提示能に影響を及ぼさなかったものの,核酸リガンド刺激による炎症性サイトカイン産生能がTIM-3発現細胞において顕著に低下していた.また,樹状細胞に発現するTIM-3はHMGB1と結合することにより,HMGB1と核酸リガンドとの結合を競合阻害することが明らかとなった.この競合阻害によりTIM-3はHMGB1を介した核酸リガンドのエンドソームへの移行を阻害することが分かった.さらには,マウス固形がんモデルへの抗がん剤の投与実験などから,樹状細胞に発現したTIM-3は核酸リガンドにより誘導される自然免疫応答を抑制し,抗がん剤による抗腫瘍能を負に制御していることが分かった.
この論文では,腫瘍微小環境において,樹状細胞に発現誘導されたTIM-3が核酸リガンドを介した自然免疫応答を負に制御することを明らかにした.このTIM-3陽性細胞を標的とした治療戦略は,既存の抗がん剤治療に反応のない患者において有望な治療法となりうるものと考えられる.

 

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2013年4月30日 担当:猪倉 恭子

J Clin Invest. 2013 Mar 1;123(3):1123-37.

Smap1 deficiency perturbs receptor trafficking and predisposes mice to myelodysplasia

Kon S, Minegishi N, Tanabe K, et al.

担当者コメント

細胞内輸送機構において、輸送小胞の一つであるクラスリン小胞を制御する遺伝子として、以前に筆者らはSMAP1(small ARF GAP1)を同定している。SMAP1は低分子量GTPaseをコードするARF GTPase-activating protein (GAP)として機能し、細胞内輸送機構を調節していることが解明されていた。一方、細胞内輸送機構の破綻と発癌の関係性は示唆されていたが、今日まで証明されてはいない状況であった。

そこで、筆者らはSMAP1遺伝子を欠損したマウスを作成したところ、12ヶ月以降の高齢マウスの約半数で、ヒトの骨髄異形成症候群(MDS)や急性白血病を発症したマウスが認められ、その生理機構や病態を検討した。
SMAP1欠損マウスは赤芽球系の細胞で、血清中の鉄を細胞内に供給するトランスフェリンのエンドサイトーシスが亢進していた。また、脂肪細胞にてSCFで培養すると、SMAP1欠損マウスではc-kitのエンドサイトーシスの亢進は見られなかったが、エンドサイトーシスの経路であるMVBからリソソームへの移行がブロックされc-kitの分解が遅延し、それに伴いc-kitのシグナルが続いており、増大していた。このことが細胞増殖や癌化の機構に関与していることが示唆された。

今回の報告はクラスリン輸送系の脱制御が原因となってMDSやAMLを発症することをマウスモデルで初めて証明したもので、今後輸送関連遺伝子の異常が引き起こす病態の解析が進むと考えられる。

 

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2013年4月8日 担当:市川 聡

Nature. 2012 Dec 6;492(7427):108-12. doi: 10.1038/nature11606. Epub 2012 Oct 10.

EZH2 inhibition as a therapeutic strategy for lymphoma with EZH2-activating mutations.

McCabe MT, Ott HM, Ganji G, et al.

担当者コメント

真核生物では,ヒストンの翻訳後修飾がクロマチン構造や遺伝子発現の制御にきわめて重要である.EZH2はpolycomb repressive complex (PRC2)の触媒サブユニットで,ヒストンH3の27番目のリジン(H3K27)のメチル化を通じて負の遺伝子制御に関与する.いくつかの腫瘍において,EZH2の過剰発現が腫瘍発生に関係し,また予後不良因子となりうることが知られており,近年さらに,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)およびろ胞性リンパ腫において,EZH2の変異が高頻度に起こっているとの報告が相次いでいる.今回筆者らは,EZH2のメチル化活性を効率的かつ選択的に抑制する小分子GSK126を発見し,この分子が全体的なトリメチル化H3K27を減少させ,抑制されていたPRC2標的遺伝子群を再活性化することを示している.GSK126は効果的にEZH2変異DLBCL細胞株の増殖を抑制し,またその腫瘍細胞株を移植したマウスモデルにおいて,腫瘍の増殖を著明に抑制し,生存を延長した.これらのデータは,EZH2の薬理学的抑制が,EZH2変異リンパ腫に対する有望な治療戦略となりえる可能性を示している.

がんの生物学において,geneticな変化に加えて,epigeneticな変化の重要性が近年盛んに報告され,その知見は日に日に増えている.ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤やDNAメチル化阻害剤など臨床応用が進んでいる薬剤もある一方で,これらの薬剤は主に非特異的なepigenetic制御であることが一つの課題である.本研究は,EZH2によるヒストンメチル化を特異的に阻害する分子の報告であり,その意義は大きいと考えられる.

 

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2013年4月2日 担当:井上 あい

Cell 149, 1233?1244, June 8, 2012: DOI 10.1016/j.cell.2012.03.051

Controlling Long-Range Genomic Interactions at a Native Locus by Targeted Tethering of a Looping Factor

Deng W, Lee J, Wang H, et al.

担当者コメント

遺伝子発現は、クロマチンループ形成によりエンハンサーとプロモーターが近接することで制御されると考えられているが、それらの分子学的構造や転写開始との関連はまだ不明な点が多い。赤血球系細胞におけるβグロビン遺伝子の発現には、βグロビン遺伝子のエンハンサーであるLocus control region (LCR)とプロモーター領域がクロマチンループを形成して近接すること、そのループ形成には転写因子GATA1と共役因子のLdb1が重要であると考えられている。GATA1を発現していないマウス赤芽球であるG1E細胞は、βグロビン遺伝子のクロマチンループを形成せず、転写もされていない細胞株である。この細胞株を用いて、βグロビンのプロモーター領域に結合可能でさらにLdb1と融合した人工的なZinc finger (ZF)型の蛋白質を発現させ、βグロビン遺伝子のクロマチンループが形成されるかどうか、また転写は開始されるのかを検討した。GATA1の発現がなくても、この人工的に作成したZF-Ldb1融合蛋白質の発現によりβグロビンの転写は開始された。プロモーター領域に結合したZF-Ldb1融合蛋白質がLCRに結合している内因性のLdb1複合体と架橋することでクロマチンループが形成され、さらにRNA polymeraseⅡをリクルートし、リン酸化することで転写が開始された。LCRを欠失させた細胞ではZF-Ldb1融合蛋白質を発現させてもβグロビンは転写されず、LCRとプロモーター領域の近接により転写が制御されていると考えられた。

今回の研究から、Ldb1はGATA1複合体によるクロマチンループ形成に必須であり、クロマチンループ形成が遺伝子発現を制御していることが明らかとなった。