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イベント

血液免疫病学セミナー2019

第14回血液免疫病学セミナー報告

 2019年11月23・24日(土・日)の2日間,例年お世話になっている秋保温泉ホテルニュー水戸屋にて,恒例の血液免疫病学セミナーを開催させて頂きました.今年は研修医,医学部生,看護師合わせて35名と過去最多の参加者で,秋田や東京の病院で研修をしている研修医の先生にも参加頂きました.毎年,参加者に楽しんでもらえて,かつ,ためになる内容のセミナーとなるよう頭を悩ませていますが,今年も例年の流れは踏襲しつつ,昨年とは違った内容も織り交ぜ,密度の濃いセミナーを用意できたのではないかと思います.今年は「To be a specialist and a generalist 〜木を見て森も見る それが血液免疫病学〜」をスローガンに掲げました.これには,血液免疫病の診療は,いわば「全身病」の診療であり,すなわち木を見て森も見るということであるという意味を込めましたが,別の見方として,「木」を1例の症例経験と例えると,各種臨床試験をはじめとしたエビデンスは「森」と見做せると思いますが,血液免疫病の診療は1例1例が濃密な症例経験であり,エビデンスの適応だけでうまくいく診療ではないため,経験とエビデンスの蓄積と融合が必要である,すなわち「木を見て森も見る」ということが血液免疫病診療であるということもメッセージに添えました.そんなテーマに沿って,日常診療において役立つ血液免疫病の知識から,印象に残る症例の体験談まで,様々な視点から講義とカンファレンスを織り交ぜてセミナーを進行しました.

 オープニングはクイズを主体とした「Clinical pearls」セクションですが,まず血液グループに今年入局した李先生と田中先生から,「血算トリビア」と題して,血液検査データを読んで診断や治療を考えるクイズを出題しました.続いて,免疫グループ永井先生から,自己免疫疾患にまつわる症候,診断から,実際の診療で問題になるプロブレムなど,多角的視点から問う問題が出題されました.緩急織り交ぜた内容の問題で,ときに笑いやどよめきも起きるような,楽しいクイズセクションでした.

 続いては今年初の試みである「Diagnostic crossroads」のセクションで,一つの「症候」でも実は多彩な病態があるということを,クイズと講義を通じて考えてもらうという内容でした.血液グループからは,齋藤慧先生が「リンパ節腫脹を考える」と題して,4例のリンパ節腫脹を呈した症例を提示しました.4症例はそれぞれ,ろ胞性リンパ腫,バーキットリンパ腫,亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病),乳癌多発転移で,一見するとすべてリンパ腫に見えるような症例でした.他の疾患の可能性もあり得ることを想定し,適切にリンパ節生検をする必要性が示され,参加者にも実感してもらえたようでした.免疫グループからは矢坂先生が,「膠原病診療における血栓症を考える」と題して,免疫疾患における血栓症の問題を取り上げてレクチャーを行いました.あまり明確なエビデンスがない領域ながら,臨床では経験することが多く,かつ,悩ましいことの多いclinical questionで,実際上どのように考えていくのかがわかりやすく示され,矢坂先生らしい滋味深いレクチャーだったと思います.

 次に,例年行っている「Case conference」のセクションですが,今年は5つのグループに分かれてグループディスカッションを行ってもらいました.1例目は市川がプレゼンターをつとめ,自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が先行した卵巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の症例を提示しました.難治性AIHAと原因不明の胸水貯留から端を発し,卵巣腫瘍が見つかり切除したところDLBCLだったという症例でしたが,AIHA,胸水,卵巣腫瘍の関係を考えて,卵巣腫瘍が何らかの免疫反応を惹起しているのではないかという基本想定路線はみな共通して考えられており,今年も参加者のレベルの高さをあらためて感じました.2例目は白井先生がプレゼンターをつとめ,咳嗽を契機に多発血管炎性肉芽腫症の診断に到り,さらにcyclophosphamideによると思われる腸炎を呈した症例が提示されました.非特異的症状が血管炎の初発症状であることがあり随伴症状には注意が必要であること,ANCAの測定は血管炎の鑑別には有用だが”mimicker”に注意が必要であること,経過中に出現する症状全てが原病由来ではないので注意が必要なことなど,とても示唆に富む内容だったと思います.

 次に,昨年も好評だった,印象深い症例を提示して,血液・免疫疾患のダイナミックな経過から診療の醍醐味を味わって頂こうという「Impressive cases」のセクションを行いました.血液グループは,今年は数値のimpressiveさにこだわり,「WBC 709,400/μL→T細胞性前リンパ球性白血病」(齋藤慧先生),「尿酸 66.2 mg/dL→B細胞リンパ腫」(小野寺先生,李先生),「LDH 16,320 IU/L→未分化骨髄腫」(市川),「PT-INR >7.0,APTT 127.5 sec→後天性第X因子欠乏」(市川)の4例,免疫グループからは,「救命困難と思われた抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の一例」(町山先生),「脳膿瘍の一例」(佐藤先生),「クリプトコッカス敗血症,髄膜炎の一例」(藤井先生),「新薬メポリズマブが著効し患者さんの人生を変えたEGPAの一例」(石井智徳先生)の4例が提示されました.今年もそれぞれの提示がみな個性的で,症例も印象的なものが多く,やはり好評を頂いたセクションとなりました.

 最後に張替教授から総括的なお話を頂きました.我々の領域は,多種多様な新薬が開発され,他の領域に比べても分子標的治療,細胞治療など最先端の医療が華々しく展開している領域と言えるのですが,それが本質ではないということ,我々の診療の根幹をなしているのは,目の前の症例の診断・治療を自分の手と頭を動かして行っていくことであるということ,そして,適切な診断をして治療を組み立てていくことで,一見救命不可能と思われるような病態でも治っていく患者さんがいるということを,今回のセミナーで提示された多様な症例のまとめからご教示頂きました.参加者にそのエッセンスは確実に伝わったと思います.

 その後の夕食,懇親会では,遠藤一靖先生からご挨拶,張替先生から乾杯のご発声を頂いた後,美味しいお酒とともに楽しい時間を過ごしました.今年も石井悠翔先生の司会のもと,恒例の人名ビンゴゲーム大会が行われ,豪華賞品の贈呈とともに大いに盛り上がりました.今年は参加者多数のため,二次会には広い別会場を用意頂き,多くの研修医,学生,看護師の皆さんが集まり,楽しく懇談ができました.昨今の若者の酒離れなんてどこ吹く風と言った体で,学生の皆さんの酒の強さに驚かされましたが,嬉しい驚きでもありました.

 おかげさまで,今年の血液免疫病学セミナーも充実した内容となり,大きなトラブルもなく無事終了することが出来ました.アンケートを見ても概ね満足頂いたようであり,成功裏に終えることができたと思います.参加頂いた皆さん,そして準備,進行に関わった医局員・スタッフの皆様にこの場をお借りして深謝申し上げます.そして,来年以降も充実した血液免疫病学セミナーを企画していきたいと考えておりますので,皆様の御協力を頂ければ幸いです.本セミナーは東北地方における血液・免疫疾患診療を若い先生方に啓蒙しそのレベルアップを目的としており,今後も微力ながらそのお役に立てればと考えておりますので,今後とも御指導御鞭撻のほど,何卒よろしくお願い申し上げます.

文責 市川 聡