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TOPリレーエッセイ > 第8回

リレーエッセイ

「専門志向からの回帰」 福原 規子

米国の著名なセンター病院では、化学療法を行うケモグループと同種移植を行う移植グループに分かれ、各々専門領域を極めるのが主流である。しかし、最近の血液学の進歩をみていると、抗PD-1抗体やCAR-Tに代表されるようにケモ屋さんは免疫療法にシフトしつつあり、移植屋さんは免疫療法の足りないところに分子標的薬を上手く活用しようと、ケモと免疫療法それぞれの限界を打破するために両者がお互いの良いところを融合しようと模索しているようにみえる。

私が最も興味をもっているリンパ腫に限定して言えば、最近の新薬はいずれもB細胞やT細胞のシグナルに作用する分子標的薬であり、従来のcytotoxic agentよりもホストの免疫に作用する薬剤が多くなってきた。免疫バランスに作用していわゆる自己の抗腫瘍免疫が惹起されることは、従来の薬剤では考えられない効果が得られる一方で、irAEと定義されるGVHDもどきの反応が生じることは理解しやすい。当科は単純にグループをいくつも分けられるほど大所帯ではないため(良く言えば少数精鋭とも言うが)、ハプロ移植などのミスマッチ移植以外は様々な疾患を皆が分け隔てなく診ている。自称ケモ屋さんの私も同種移植の合併症を相手に踏ん張ってきた経験が、分子標的薬などで生じる免疫関連の有害事象を診断・治療するのにとても役に立っている。また、リンパ腫では原疾患自体の影響や治療の積み重ねによって免疫不全状態となってしまうため、攻め(治療)だけでなく守り(感染症)のコントロールが結果を左右することとなり、ここでも同種移植で苦労した経験が役にたっている。そして最近の分子標的薬は、血液毒性は軽いことがうりではあるが、様々な非血液毒性が生じるため、苦手だった心電図や神経所見などとも格闘せねばならず、いまさらながらgeneral medicineの重要性を再確認する日々である。

血液内科医を目指す若手の先生方には、一見すると自分の専門領域とはあまり関係ないことであっても、人生どこで役に立つかなんてわからないのだから、日々目の前のことに真摯に取り組むこと!を自省も込めて贈る言葉としたい。