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TOPリレーエッセイ > 第3回

リレーエッセイ

「患者申出療養制度」 石井 智徳

 最近、一般の人々のあいだでも、新しい治療法に対する要求が高まっています。確かに、関節リウマチや多くの悪性腫瘍に対して、これまでの製薬技術では作ることができなかった画期的な薬剤が開発され、大きく疾患の予後を改善しているのも確かですが、最新医療情報は盛んにマスコミにより報道され、またネット情報として駆け巡り、患者さんの期待を現実以上に大きく盛り上げているようにも思います。

 さて、そんななか新しい制度として政府主導で進められている患者申出療養制度が4月からはじまると告知されています。この制度は簡単に言えば体裁を整えた混合診療のひとつです。現在の国民皆保険の保険診療制度においては、保険医療と自費の医療を混ぜて支払いをする混合診療は基本的に認められていませんが、患者さんが自分でお金を払って保険収載されていない最先端の医療を、一定の条件のもと混合診療として認めようというのが今度の制度です。現在も新しい治療に対してのみ混合診療が認められています。例えば治験や先進医療などは、この代表例ですが、こうした治療は、結局のところ企業や医師が、ものになりそうなものを自分たちの考えで臨床研究として行うものですが、患者療養制度は患者さんが、この治療をやってほしいと要求が起点になって始まる臨床研究です。

 患者さんが、どうしてもやってほしいと思う保険収載されていない最新治療を保険診療と併用しながらできるということで、特に死に直面しているような、わらにもすがりたい患者さんにとっては一見とても良い制度のようにみえます。ところが問題は制度の中身で、実際にはこれを行うことを考えた施設は先進医療を申請する時に要求されるのと同様な複雑で時間がかかる仕事を同じようにしなくてはいけません。政府主導で実現に向かっている制度ですが、実施する医療施設にとっても、また、これを統括する厚生労働省や、その関連機関にとっても、とても負担が重い、難しい制度になってしまっています。良かれと思って言い出した新しい仕組みが、公共の制度となるとこれまでの制度との整合性を取りながらのバランスが必要になり結局はうまくいかないという、現在の社会の縮図のような状況になりつつあります。

 受益者であるはずの患者さんにとっても、上述のように実際治療を受けるまで時間もかかり、また、その費用負担が莫大になる可能性も高く良いことばかりではありません。患者さんにとってメリットのある制度として、うまく動いてくれることを願わずにはいられません。